奇跡のリンゴ、と言えば
もうみんなが知っているような話なんだと思う。
木村秋則氏が手掛ける無農薬無肥料のリンゴ。
リンゴは病気にかかりやすいので
無農薬は不可能と言われてきた作物の一つ。

インドネシア研修生で3年生のH君。
自主研究に有機肥料を選んで、課題に取り組んできた。
いつか出会うだろうと思って、放っておいたら
やはり、現代農業の雑誌から木村秋則の記事をひろってきて
それをゼミで発表してくれた。
農業を志す者にとって、強い関心とあこがれがある農法。
それは自然農法。

僕は、それはある意味で毒だと思っているが
別の一面で、強いあこがれもあるのは事実。
僕のアプローチは、ある意味小乗仏教的な自然農法ではなく
慣行栽培が有機に近づいていく、
有機農業のコンベンショナル化といった方向なのだが
その目指す先は、あまり違わない。

H君が見つけ出してきたのだからしょうがない。
以前から買っておいたDVDを見ることにした。
それは、NHKでやっていた
プロフェッショナル仕事の流儀で、
木村秋則氏が出演していたもの。

ちょうど日本人の研修生やセネガルのイブライも見るというので
みんなで見てみた。
以前から買ってあったのだが、
実は僕も見るのは今回が初めて。

どんな内容だったかは、詳しくは書かない。
見た感想から、
「真面目に、手間を惜しまず、働け」
というメッセージを「愛」という言葉の中に
この人は持っているんだ、と感じた。
僕ら農家は、手を抜こうと思えば、いくらでも抜ける。
上手に抜くことが、時には僕らの技術だったりもする。
でもそれを真っ向に批判するのが
この木村秋則の言う「愛」だった。

僕らの仕事は僕らが一番わかっている。
それをやれば良いのも解っている。
そうすれば、出来ることもなんとなくわかっている。
でも、それをすれば、生活が成り立たない。
仕事に追われて(ただでさえ今でも仕事に追われているのに)
寝る間もなく、働き続ける覚悟が必要なのかもしれない。

無肥料と言うが、彼は県道のわきの雑草を20キロに渡って刈り
それを2haのリンゴ園に投入している。
その有機物量は、20トンではきくまい。
酢の散布は、スプレイヤーではなく手散布。
丁寧な仕事と重労働を厭わない精神。
それが、そのリンゴを作っている。
それは奇跡でも神話でもない。
それは、篤農の姿なのだ。

今年、僕は吉川ナスで化学合成農薬の無散布に挑戦し、
例年にない品質のナスを収穫した。
これまでの研究と観察の集大成と考えて
挑んだ今年の栽培は、それなりに成果はあった。
僕はそれなりに満足していた。
だが、このDVDを見て、その満足はかき消されてしまった。
僕は、化学合成農薬や化成肥料は使用していないが、
天敵製剤を利用したり、堆肥や有機肥料を投入していたのだ。

木村氏のリンゴとは、大きな隔たりを感じる。
それは、彼の言う「愛」、
つまり覚悟がまだ足りないという事なのだろうか。

手法や目指すプロセスが違うことを認識しつつも
「愛」が足りないと断言されると、なぜか自分が陳腐に見えてくる。
やはり、このDVDは毒だ。
昔、福岡正信を読んだ時のような、吐き気と葛藤が
その日一日、僕には残っていた。



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No title

新聞拝見しました。表彰おめでとうございます。

理想と現実というのでしょうか?
私にも、その吐き気と葛藤よく分かります。

私たち世代は、子供を育てて、自分もまだまだすることが山のようにあって
理想はあっても、それを実現するには、大勢の大事な人の生活を犠牲にするか、
ある意味世捨て人のようにならないと、出来ないように思います。

私も、いろいろなものを天秤にかけて葛藤している最中です。

長生きして自分のことだけを考えられる余裕が出来たときに、きっとそんな日が来るのかも。とおもいつつ、今の政治力では、私たちが年歳とったときには、悠々自適なんてことばは、縁遠いものになっていそうですね。

急がず、地に足をつけて・・・ですかねぇ。

Re: No title

しみずさん
コメントありがとうございます。
縁あって、「ふくい人の力大賞」を頂きました。
なんとも不思議な感じです。

理想と現実というか、
僕の場合、なにか権威を持って目の前に現れ、
それが正統性を主張し
他の価値に越境してくることに
少々、過敏に反応してしまうようです。
奇跡のリンゴは、それはそれで良いのかもしれませんが
ああやって、周りが権威付けてしまえば
なんだか化け物みたいで
やっぱり気持ちが悪くなってきます。

しみずさんの
やりたいこと生活に追われること、共感します。
生活に目を向けて、その中でやっていくことに
徹しようと思っていても、もう一人の自分が
外へ外へと向かってしまうので、
そのギャップが、少々厄介です。

日々の生活の忙しさの中に、
自分の喜びをしっかりと持って
それを楽しめるようになれば
日々の生活に埋没したような感覚はなくなるかもと
最近は良く思います。

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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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