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僕は、この光景を決して忘れはしない。
この話を記録しようかどうか随分と悩んだが
これは僕の反省でもあるので、
書き記すことにした。


日本は、米が作りたくても作れない国である。
米価維持のために、国家が主導で
減反政策を推し進めているからである。
だからといって、米農家がそれで食っていけるわけでもなく
じりじりと米価は下がり続けている現実がある。

そしてその減反政策は、
国家と個人が直接結びついて行うわけではなく、
間に「ムラ」が入り(地域も入り)調整している。
その「ムラ」の一つが、農家組合。

7月のある雨の日。
農家組合の役員会があった。
様々な議題があったが、
その中の一つに、「減反違反について」があった。
6月上旬に行われた減反の検査は、集落全体では問題なかった。
うちの村は減反を達成できていた。
だから、とりたてて減反違反者を
問題として取り上げる必要もなかったのかもしれないが
僕は、そのままに出来ず、
この日、役員会にかけた。

議論のプロセスは、今は明らかにはできないが
様々な情報と役員以外の意見とをトータルして
結果的に、違反者の中でも
目に見えて大きく違反している方に
その是正をお願いに行くことになった。
集落では減反は達成できているので
「来年は守ってください」という意味でのお願いだった。

農家組合長に一体どんな権限があるのかもよくわからず
僕は無邪気にお願いに行ったのだが、
それから1週間後、その農家が家まで訪ねてきて
「もううまいことしたから、これで勘弁願います」
と言いに来た。
何の事だか分らなかったのだが、
その人の説明では、
違反した減反面積分の稲をすべて
青刈りしたというのである。

減反の検査は、集落ではOKを頂いており
その人が、その米を作ろうがどうしようが
政策的には問題が無い。
ただ、むらの中でフリーライダーを
許すようなことはしたくなかったので
来年の違反は許しませんよ、と
釘をさしに行っただけだったのだが
結果として、「農家組合長」によって
その田んぼは、青刈りされたことになった。

僕が考えている以上に、
村の中では、農家組合長の権限は大きいようだ。
そして「ムラ」の存在も思っている以上に
各自に大きな存在として内面化されているのを感じた。
僕が強権を発動して、無理やりその人の田んぼを
青いまま刈ってまわったわけではないが
各自に内面化された農家組合長とムラの権力で
その田んぼは刈られたのである。

僕が農家組合長になった時に
いろんな年寄りの農家から、
「誰々の時はやりすぎやった」とか
「誰々はひどかった」と
昔の農家組合長の話を聞かされた。
それは暗に、おまえはそんなやりすぎることはないよな、と
釘を刺されているようだった。
そんなへまはしない、と自分でも思っていたし
ここまで農家組合長として
1俵でも多く、集落で米が作れるようにと
あれこれ自分なりに努力してきたわけではあるが
僕は結果として、強権を発動して
ムラとしては、作ってもらっては困る米ではあったが
政策としては問題ない米を青刈りさせ
農家の所得を減らしてしまったのである。

その数日後、
僕は、恐々とその田んぼを見に行った。
誰かに見られるのを恐れながら、
まるで盗み見するかのように。

僕はあの田んぼの光景を決して忘れはしないだろう。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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