安田 弘法・城所 隆・田中 幸一 編 「生物間相互作用と害虫管理」2009年.京都大学学術出版会.

本書は、作物を中心として、そこも寄ってくる害虫や天敵、果てにはただの虫や微生物などの相互作用を読み解き、天敵による害虫防除という狭い範囲だけをフォーカスするのではなく、よりダイナミックな生物間での相互作用を紹介している本。
天敵による害虫防除に特化した本はこれまでも多数あった。しかし本書では、ある意味、総合的に教科書的に天敵による害虫防除については紹介していないものの、これまで生物の相互作用を狭義的に利用した天敵と害虫と言う関係だけでなく、本当に我々の視点を照射しなければいけないのは、そこに広がっている生物間の相互的な作用によって生み出されている、いわゆる「網」であることを思い知らされる本。
本書の構成は、3つにわかれている。第1部では、昆虫・菌・ミクロな生物そして植物間の相互作用がミクロな視点で論じられている。捕食者である天敵であっても、お互いに食べ合う関係であったり、アブラムシを守る蟻の存在が、反対にアブラバチにとっては他の捕食者から身を守りながらアブラムシを捕食できる存在であることを説明している。それは天敵や非捕食者、またはただの虫にみえるような生物はすべてはそれらのカテゴリの中でそれぞれの役割を持っているわけではなく、それぞれの作用と関係の中で、それぞれの役割がダイナミックに変化していくことを説明している。腐食との関係で生物相の関係性の変化などは、防除というカテゴリにおいて有機質肥料の新たな展開になるようにも思う。またある種の天敵においても、そのグループがそれまでどのような経験を積んだかによって、その能力の違いや嗜好の違いがあることを第5章で紹介している。これは種がおなじであれば、その昆虫の特性が全て同じだと思っていた私にとって、かなりショッキングな内容だった。
第2部では、実際に総合防除を行っている現場の事例紹介。土着天敵の利用や、雑草も含むインセクタリープラントの紹介もあり興味深い。様々な植物の花粉や花蜜が天敵の寿命や産卵能力を向上させてくれるという実践的な報告もあり、作物の栽培だけでなくこうした雑草の管理やコンパニオンプランツの導入の重要性も示唆している。
第3部では、マクロな視点で田んぼ1枚・畑1枚での総合管理ではなく、ランドスケープ的な視点で、地域の生態系全体を考えていくことの重要性を示唆している。最終章を書いている桐谷氏のIBMの論には刮目に値する(IBM論を詳しく知りたい人は同氏の「ただの虫を無視しない農業」を参照のこと)。
ミクロからマクロまで、生物間の相互作用を横断的に見ていくことで、実は天敵―害虫といった関係や、また種によってその役割や機能が一定的であると見ていた機能主義的機械論的な視点だったことに気づかされる。この新たなパラダイムは、生物間の相互作用を網として捉え、防除という範囲では到底捉えられるものではないことを表している。そしてそれは新たな視点をもって臨むことを我々に強いてくる。その心地よい脅威と驚きと感動が、農業というダイナミックな作用の中でこれまでも育まれてきた本当の関係を我々に気がつかせてくれるだろう。私たち農民は、パラダイムが換わったことを、本書を持って知るべきである。



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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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