こんな記事が新聞に載った。

伝統継承の夢“すくすく” 鯖江の野菜「吉川ナス」

おかげさまで、新聞に載った日から問い合わせの電話が
良くかかってくるようになった。
200本しか用意してなかったこともあり、
お1人様10本までの販売とさせてもらったのだが
早くも売り切れそうな勢いである。

何度も日記で書いてきたのだが、
吉川なすはとても作りにくい。
というのも、果皮が薄く、すぐに傷がついてしまうからである。
ただそんなものは、家庭菜園の中では、至極小さな事で
少々傷があろうが、見てくれが悪かろうが
味には関係ない。

伝統なすと言うと、なんだかそれだけで美味そうに聞こえるかもしれないが
(事実、そういうイメージと物語を食べる側が求めているから、今回の記事に対して問い合わせが多いのだろうけど)
僕も含めてだが、ほとんどの食べる側の人にとっては、
そんな伝統が存在した個人の歴史はほとんどなく、
みんなにとってこのナスは、新しいナスだと言うしかない。
ただこのナスが、伝統という言葉を冠に頂けるのは
記事にもあるように、このナスを末期がんの最後まで作り続けた方が
いるからこそ、その人と周囲にとっては伝統なんだと思うことがある。

本当ならば、僕だけが栽培をして販売した方が
近くの直売所も含めて、市場では断然優位に立てるのだが、
それでは、本来の意味が失われてしまう。
そこにあるのは、伝統の資源化・価値化であり、
それはまさしく、交換価値を最大限に向上させるという姿勢でしかない。

伝統なすという人類にとっての遺伝資源は
交換価値で測れるものじゃない。
ビジネスはビジネスであらねばならないのかもしれないが、
もう少し、農業の本来の意味の中で
(作って食べるという至極単純な行動)
みんなにとっての使用価値を高めることはできないだろうか。
そんなことを無い頭で考えて、
家庭菜園用に、このナスを普及させようと思い至った。

少し余談だが、
使用価値と交換価値は水とダイヤモンドをたとえに出すと解りやすい。
水は人間にとって必要不可欠なものであるが
それ自体が豊富にある場合は、その不可欠だという価値は下がりはしないが
交換することはできない。
だがダイヤモンドは、それ自身、人間にとって不可欠かと言われると
装飾品である以上、使用価値はほとんどないが
希少であるがゆえに、交換価値は高い。
ビジネスとして儲けたいというのなら
本当は交換価値を高める、いわゆる「付加価値をつける」などと表現されるが
そういう工夫が必要なんだろう。
だが、その先にあるのは何か。
その付加価値は、僕らに何を与えてくれるのだろうか。
僕らの生活の質が、
果たしてその交換価値の向上で、
必ずしも向上するわけではないという事実に目を向けると、
僕は諸手を挙げて、その考えには賛成はできない。

吉川なすは、当然、生産者として第一級品を生産し
約束いただいているレストランや業者に出荷する予定でいる。
それは僕の経営の中で、交換価値をそのナスの品質で高めようという
だけのことで、それとは別に
もっと吉川なすの使用価値を高めたくて
こうして苗を販売するにいたった。
当然、1本70円で、他のナスの苗と同じ値段。

前に書いたエントリーにもあるように
僕は勝手な思い込みと、多分それは他方から見たら
勘違いだと言われるのかもしれないが、
その思い込みで、伝統を背負い、その使用価値を高めようと考えている。
それぞれの家庭で、
数本の吉川なすを植えれば、それだけで家族がこの夏、
十分すぎるくらいこのナスを楽しむことが出来るだろう。
それが僕という偏見を通して見えてくる
このナスを末期がんのなかでも残してくれたある農家の希望なんだと
僕は今、勝手に信じている。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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