むらの集会場で冬季営農座談会があった。
主に、地元農協の総代会に向けて、経営状況や営農活動の状況、
融資等の説明を組合員にする会。
ここの農協は総会がなく(ほとんどの農協でないはず)、組合員の代理者が
総代会に参加して総会と言う形をとっている。
なので、総代会に参加できない分、各集落でこうして冬季営農座談会と称して
農協の業務内容・実績・計画についての説明が行われる。

さて、この冬季営農座談会。
農協のある程度の説明が終わると、
僕ら農家組合の出番になる。
ここで、今年のむらの減反について報告し承認を得るからだ。

前回のエントリーでも書いたが、
今年、政権交替で農業を取り巻く環境も大きく変わってきている。
農業に主軸をいた人を支援する、
いわゆる「担い手」のみに支援してきたこれまでと変わって、
担い手の支援はそのまま継続で
あらたに、戸別補償制度と言うやつが始まる。
今年は米がモデル事業となっていて(来年以降は他の作物にも広めるらしい)
田んぼを作っていれば、10a当たり\15,000円もらえるというもの。
それとは別に価格の下落にも対応しているという
この財政難の中で、なかなか手厚い補償制度。

この制度が良いか悪いかは、選挙で各個人の判断で決めればいい。
とにかく農家組合としては、この制度の中で
むらが損をしないやり方をやるだけのことである。
いわゆる「翻訳」というやつだ。

「翻訳」といっても、何も制度を違法に捻じ曲げることじゃない。
むら全体の利益と個人の利益とを照らし合わせて
うちのむらにとって最適なポイントに合わせる、というもの。

ここですこし減反について説明しておこう。
減反とは米の供給量を調整するため、
国や地方自治体が農家に対し米の作付け面積を制限すること。
生産調整ともいう。
価格をある程度高く設定できるように、米の作付面積を減らすことなのである。
さて、その減反は、政府から直接個人にお達しがあるわけじゃない。
政府と個人の間に「むら」が入り、
この「むら」で減反面積のお達しがあり
「むら」内部で調整して、「むら」全体でその面積を達成できれば
減反できたことになる。
だから、戸別補償だろうと何だろうと
直接、農家に補償は払われるのだが、
間で減反の達成を調整しているのは
「むら」というわけなのだ(戸別補償は減反を達成した農家だけが得られる)。

大概どこの村にも、減反なんて知らないよ、っていう輩はいるもので
その調整なども「むら」、つまり農家組合がやるのである。

さて話は変わって、
今年、戸別補償制度と並列の制度として自給向上の政策もある。
水田で米以外の作物を作付けした場合の助成金である。
これは前からもあったのだが、
その米以外の作物の中に、加工用米も助成金が出ることとなった。
では、加工用米とは何か。
読んで字のごとくなのだが、
そのまま食さずに、麹などの加工用にまわす米のことである。
この加工用米。
米なのに、そのまま食すわけじゃないから、
これを作っても減反面積としてカウントしてくれるのである。
だから、遊休地(調整水田)として水田を放置するのではなく、
米を作って加工用に回せば、一見、減反していないように見えても
しっかりと減反しているというわけなのである。
ただ、加工用米の需要はそれほど多くなく、
みんなが作りたいといっても、地区で数量が決められている。

うちのむらでは、以前からこの加工用米を作って
むら全体の減反面積に当ててきた。
加工用米を作ってくれる農家は、むらの中でも大作りの稲作農家なのだが
その加工用米の面積は、むら全体の減反面積として
農家組合のもとで計算されている。
加工用米は、普通の米の半値で取引されるので
加工用米を出荷してもらう農家へは、むらの中の地主全員で
普通米との差額を支払う互助制をとっている。
こうして加工用米を作ることで、むら全体の減反面積を下げることができるのである。
実際に昨年は、減反要請が28.5%であったのだが、
加工用米を約300袋出荷することで
各戸の農家が実際に減反する面積は27%と
1.5%下げることが出来たのである。

たかが1.5%と言う事なかれ。
うちのむらは約90haの田んぼがあるので、1.5%となると
1.35haの水田が減反しなくても良くなるのである。
反当たり500㎏とれるとすると、6750㎏の米が
余分にとれるわけだ。
価格にすれば1,350,000円なのである。
面倒な加工用米の計算を止めて、
各戸に政府から要請のあった面積だけを振り分けていれば
この135万円の金は出てこない。
さらに、戸別補償となると、米を作っていないと出ないわけなので
+20万円となり、約150万円の差が出てくるのである。
これが、僕の言う「翻訳」の一部なのである。

だから、加工用米をたくさん作れば作るほど
今年の政策からいえば、むらの中が潤うという仕組みになっていた。
そこで、今年の地区の農家組合長会議では
地区で割り当てられている加工用米の数量をできるだけ
うちの集落でとりたい、と伝えていた。
これは僕の独断で、その場の会議で勝手に決めた。
会議で数量を確保しなければ、後で足すことは難しいようにも思われたからである。
だが、会議後にむらに戻って役員や大作りの農家と話し合ううちに
ある問題が加工用米の差額を補償し合う互助制の中で
出てきてしまった。
それは、加工用米をたくさん作れば、差額補償の金額も大きくなるということである。

単純な計算で、そうなることはわかってはいたのだが
補償金額が大きくなっても、その分、減反の実質面積を下げることができれば
1俵でも米が多く作れるのである。
その分儲かるわけなので、差額補償の金額が増えても
説明しきれると僕は読んでいた。
だが、現実にはもう少し複雑だった。

差額補償は、地主全員で行われる。
つまり、耕作していない地主も多く含まれており
その人たちは、実質減反率が下がろうが上がろうが
全く関係ない位置にいる。
だから、その人たちの関心事は、差額補償の金額だけであり
実質減反率が下がっても、その恩恵にあずかれないのである。

そこで僕は、この際なので互助制自体を見直して
耕作者だけで差額補償をしてはどうか、と提案し続けてきた。
むらの大作りの農家にも相談したし、年寄りにも相談してきた。
だが、そのほとんどが「否」という答えだった。

耕作者だけで、差額補償ができれば、
減反率が下がれば、その恩恵を受けることにもなるので
むら全体で、もっと積極的な農業経営ができるのである。
だが、地主全員での補償となると、非耕作者まで引きずることになり
その人たちの賛同を得られなければ、攻めの農業経営が出来ない。
うちのむらの約半分が非耕作者であることを考えれば、
このまま僕の案を押し通しても
今年の暮れの総会は乗り越えられないのだ。

では、なぜ非耕作者まで引きずらなければいけないのか。
年寄りや大作りの農家がいうには
一つには地代が高いのである。いわゆる小作料。(みんなは「年貢」といっているが)
耕作地代は、農業委員会である程度定められているが
結局は、地権者と耕作者の合意で決められる。
福井市の地代が約10,000円/10aであるのに対し、
うちのむらでは、地代の最も高い場合、25,000円というケースもあるのだ。
隣の集落で、組合を作って大きくやっている団体は
5000円しか払っていないのに。

昔からの付き合いやながれで、そういう値段になっているらしいのだが
耕作者の間では、互助制を耕作者だけにするのなら
高い地代を標準並みにしなければ、賛同しかねる、と言う意見もあった。
土地に絡む出費が、これを機会にこの先、耕作者だけの負担になることを
恐れての意見も多かった。

またむらのある年寄りは、
「むらで受ける減反なんだから、むら全体で引き受けなきゃいかん。土地をもっているみんなで受けるから、むらで受ける減反というんや」と諭されてしまった。
農業経営的観点と言うよりも
土地をめぐってのむら観、集落の在り方観から
加工用米の大量引き受けに釘を刺された格好となってしまった。

そういうすったもんだがあり、
結局は、地権者と耕作者の利害がぎりぎりで一致する点を
計算ではじき出し、加工用米の数量を昨年よりも大きくするが
差額補償の金額は、例年並みの水準に落ち着かせるという説明で
冬季営農座談会で、皆の了承を得ることができた。

制度が変わることで、その制度が良いのか悪いのかを良く
メディアでは議論されてはいるが、
そういうことはあまり重要じゃないような気がする。
今回に見られたような、現場での「翻訳」するプロセスの中で
政策転換によって、いままで潜在的だった問題が浮き彫りになり
結局は、経営的観点というよりもむらの在り方的な見方で
解決に向かうことになったことの方が
僕にとっては、とても衝撃的であり、かつ、むらの在り方について
僕なりに学ぶことになった。

僕は、この制度は、攻めの農業経営に出るチャンスと考えた。
僕自身は、ほとんど米を作っていないので、この政策がどうなろうと
ほとんど個人的に興味がないのだが、むらの農業経営全体を考えると
それは好機なのである。
しかし、経営的に合理的とは考えられない非耕作者を引きずったままの
互助制への価値観は、
それが今、このむらがまさに「むら」であることの証のようにも思える。
それは、ノスタルジックな相互扶助観ではなく
もっとドロドロしたものであり、綺麗で美しいものでは決してない。
そういった化け物に、僕は今回、あえて立ち向かってみたのだが
少しだけ波風を立たせただけで、終わってしまった。

ある農家から
「徹ちゃん(と、むらの中では呼ばれている)は、なんでまたそんなことに首をつっこむんや。やめときやめとき。あとで怪我するよ」と諭されたのが、僕には印象的だった。

関連記事

衝撃的!

> 結局は、経営的観点というよりもむらの在り方的な見方で
> 解決に向かうことになったことの方が
> 僕にとっては、とても衝撃的であり、かつ、むらの在り方について
> 僕なりに学ぶことになった。

今回の話、全部が私にとっちゃ「衝撃的」 でした。
小作料が年貢と呼ばれている、というような細部にいたるまで。
減反や、加工米についても、ほとんど知識がなかったし、もしも知っていたとしても、「翻訳」 で見えてくる世界はまったく違うものなんですねえ。

またゆっくり、教えてください。
勉強になります。

お義姉さん

めずらしくコメントありがとうございます。
物書きの方からコメントをいただくと少し緊張しますね。

今回の話は
経営的に不合理であっても、
むらの社会という中では合理的な考えなのかもしれません。
地縁と長い時間によって織り込まれた
むらの関係は、まさに化け物といえるようなところもあります。今年一年は、農家組合長として、その化け物と付き合っていくつもりです。

むらのことは、また帰国されたらじっくり話しましょう。アメリカにも行きたいけど、時間がとれるかどうか・・・。そちらの農的社会も見てみたいです。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
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