先週の連休、国際開発学会に夫婦で参加。
毎年のことなのだが、学会が地方で行われるごとに
その地方の農家を視察して歩いてもいる。
そして、今回は大分。

地元の農業改良普及員に
“大分で面白そうな農家を紹介して”
と頼んだら、
ある若手の農家を紹介された(T氏とでもしておこうか)。

そのT氏。
この2009年から、とある農業法人でベビーリーフ事業のすべてを任されて就農した人。
経験年数こそ少ないが、農業に対する眼差しは鋭く
とても研究熱心な方だった。

年は僕よりも一つ下の34歳。
もともと建築業界で働いていたのだが、大学の友人に誘われて
農業界に飛び込んできた人。
その大学時代の友人だった人は、2004年より農業法人を立ち上げ
主に米や麦などの栽培と作業受託をしていたのだが、
このT氏を加えるにあたって、新しく施設園芸部門を立ち上げて
ベビーリーフ栽培に乗り出したのだとか。

まず驚いたのが、ベビーリーフの圃場が完全無農薬で
栽培がおこなわれているということだった。
僕もそれを目指してはいるが、
虫の生物相をコントロールすることの難しさにぶつかったままで
なかなか抜け出せないでいる。
彼らの圃場が、それまでアブラナ科(ベビーリーフの主となる野菜の科)の
栽培履歴が少なかったこともあるのだろうが
それでも害虫発生を農薬に頼らないその姿勢と視点は
学ぶべきものが多かった。

T氏が言うには
「トラクターで耕起されるのは、せいぜい10cm程度。その10cm程度にしかいきわたらない量の肥料しか投入しないことです。多投になれば、必ず虫や病気が出ます。そうならないために、徹底した土壌分析と一作一作ごとに太陽熱による土壌消毒を行います」
とのことだった。
一作一作ごとに土壌分析を行い、足りない分だけを足す。
そして徹底した土壌消毒。
この二つが、病害虫の発生を抑えると氏は言う。
栽培年数がまだ1年程度なので、
今後もそのやり方で病害虫の発生を押さえ続けられるのかどうか
また生物多様性の方向を目指している僕としては
1作ごとの土壌消毒の在り方にも少し疑問も残ったのだが、
彼の話からは、研究熱心な姿勢がうかがえることができた。

肥料も様々なものを試していた。
豚糞を4年寝かせた堆肥や竹パウダーの使用、
生ぬかを投入して土ごと発酵など、様々な取り組みをされていた。
「土壌の物理的構造も気になるんです」と氏。
土の団粒化にも気を配り、
徹底的に土づくりに励んでいた。
その多くを小岩井農法から学んだという。

ここ最近、僕は土壌分析を少し軽視してきた。
土壌中の化学的な分析を行ったとしても、それで生物相の多さは測れないことから
どちらかといえば、化学よりも生物学的に土壌を捉えたいという想いが
強かったことも背景にあった。
一作ごとの土壌の化学性よりも
輪作による多様性を重視したかったのだが、
T氏の姿勢に、僕は、やもすると
生物多様性などという言葉でお茶を濁しがちになる
どこか詩的で情緒的な農業観に支配されていたのかもしれないと
改めて、自分の姿勢を正された思いであった。
何かを捉えようと試みるとき
人はもっともっと真摯になるべきなのだ。

確かに、最近は農を取り巻く僕らの生活すべてを
文学的・詩的に捉えることの方が、僕には重要だった。
作って食べる、という単純な行為を中心とした生活の中に
ややこしい議論が入り込んできて(地産地消・安心安全etc.)
その議論を徹底的に突き詰めようとすると、
化学的に、また人間と昆虫の神経経路などの生理学的世界に
陥っていく自分がいた。
その議論に、自分の中で軟着陸点を設けるためにも、
食べるという行為や、畑での生物相の捉え方、
また農村という社会そのものに焦点を置いて
もっと農業全体を文学的に捉えたい、と思っていた。

しかし、繰り返しになるが、
何かを捉えようと試みるとき
人はもっともっと真摯になるべきなのだろう。
土壌分析の果てに何があるのか、結局多様な生物相を捉えきれない
などと、ほとんど初学者にも関わらず、あきらめきっていた面もあったのだが
T氏の姿勢に、大いに触発された。
土を、農を捉えようとするならば
たとえ、その手法が、ある一方向しか照らさないやり方であっても
それによって掴みとれるものはあるはずなのだ。
僕も初心に戻ろう。
そんな気にさせる方との出会いだった。

T氏のベビーリーフは、機械刈りで、
1時間に刈ろうと思えば100キロは刈れるとのこと。
1年ほどしか作っていないにもかかわらず、生産は安定していて
今年の売り上げ見込みは、3000万ほどだとか。
市場は、農業法人の社長が地元の人間だということもあって
販路としていろんなところにつなげてくれた、と話してくれた。
僕も地元の人間だが、そこまで一気には販路を広げられはしない。
その社長も人間的に周りから随分と認められた存在なのだろう。

「休日なんかも飛び込みで営業に行きますよ。うちのベビーリーフ使ってくださいって。だいたい3割くらいの人は買ってくれるようになりますね」と話すT氏。
そう、こういう営業が農民には難しいのだよ。
良いもの作ってりゃ、そのうち誰かが認めてくれる的な
職人気質が多く(最近の僕はこれになりつつある)、
飛び込みで、7割だめだという営業はなかなか出来やしない。
農民の持つ1つの習慣的行為として共有されてしまっている
「良いもの作ってりゃ、いつかは誰かが認めてくれるさ」は
T氏は、共有していなかった。
売る、という姿勢も勉強になった。
なんだかかつての僕が、そこにいるような気がして
長居をする気はなかったのだが、ついつい話し込んでしまった。
僕の失いつつあるいろいろな情熱のすべてを
ふんだんに持っていたT氏との出会いは
僕には刺激的だった。
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いいお話ですね。
私は職業ではなく、自給分の農業を東京から移転して2年後にはやりたいと思っています。

さくら(盆栽)さん

コメントありがとうございます。
2年後に自給的農業ですか。良いですね。

以前はそういう分け方を自分もしてきましたが、最近ちょっと見方が変わってきて、職業的-自給的という捉え方ではなく、自分の中では、生産と一体になった生業とそうでない職業、という感じです。

どちらがどうだ、とはそれぞれ個人の価値の違いにもよりますが、生産と一体になった生業は、その規模の大小関係なく、生活が自分の手の中にあるという生の感覚(とても満たされる感覚です)があるものだと思います。
是非、自給的農業でその感覚を感じてみてください。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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