前回の座学の続き。
宿題をこなせなかったイル君は、
今回、自分の地域で実現可能な「直売所」についてプレゼンをしなければいけなかった。
提出されたレポートを読むと、彼の苦悩が見て取れるようだった。
彼のレポートの結論は、
「私が学んだ直売所のどのモデルも、私の地域では実現不可能です」
と書かれていた。
一瞬、彼はたとえ机上の空論であっても
思考することをやめてしまったように見えたのだが
彼のプレゼンを聞くに、そのおかれている複雑な農業構造が見えてきた。
それはまさに、貧困の輪と言っても良いだろう。
またそのような思考に限定されざるを得ない状況こそが
貧困の輪だとも思う。

彼の地域は以前書いた以下の日記を見てもらえれば解るだろう。
運命と貧困の輪を抜けるために 農業研修で僕ら日本人が背負うもの

まず、販売ルートが限定されている。
栽培に必要な資金を持たない小農が多く、
栽培を開始するために、買い取り商人から資金を借りる。
その関係から、生産物のほとんどをその商人に売り渡さないといけない。
ものすごく収奪されているわけではないが
それても、市場価格より安いのは、調査をしてくれたA女史や
イル君の話から解った。
また、大規模プランテーションに伴って開拓された地域でもあるので
近くに町がない。
小さな村々が企業のプランテーションのまわりにへばりつくように点在しており
直売のターゲットになるような消費者が少ない、と、イル君は言う。
生産者から直接消費者へという直売の考え方は
小さな振り売りを除けば(それもほとんど成立しない)、
ほとんど実現不可能のようにも見えた。
大規模プランテーションと買い取り商人に牛耳られている市場に
僕ら農民は作りたいものを作り、売りたいところに売って、
その市場の刺激を大いに受けながら、自立感のある農民にはなれないのだろうか。

そんな思考自体をやめたくなるような状況下で、
(実際、彼のこの話を聞いていた僕は、ほとんど思考が停止してしまった・・・)
イル君は、こういう答えを出してきた。
買い取り商人による販売のまとまりではなく、
栽培レベルで農民をグループ化をして、農民による協同組合作り
そこを通じて販路を築くというもの。
資金は、買い取り商人からは借りないようにするため、
銀行の農業融資から借りる指導をしたいとも言っていた。
事実、銀行は農民に対する栽培資金の少額貸し付けを行っている。
信用いう意味で、なかなか借りにくい面もあるが
農民のグループや協同組合が出来てくれば、
借りられないこともあるまい。
イル君が夢想する協同組合を通じて、新しいマーケットへの販路も彼は考えている。

この授業で大事なのは、なにも直売所を作ることじゃない。
ここの文脈では、直売という考え方では、その中間マージンを減らして、
少しでの農家の受け取りを多くするというのが大事なのだ。
そしてそのことは、農家が新しい販売チャンネルを持つことにもなる。
それが、他の商人や市場に対する交渉力UPにつながるのである。
個々の農家やグループの交渉力を上げること、
それは栽培上の問題を解決するよりも、大事なのだ。

3人での議論で、初めはイル君による買い取りグループを
形成していくのが妥当だろうとなった。
小さな取り組みから初めて行く方がいい。
そのためには資金と移動力をイル君が獲得する必要があるが
その議論は、またいずれやらないといけないだろう。

この協同組合の話は、面白かったのだが
そのことで、あるインドネシアの友人から忠告されたことがある。
「買い取り商人の力が強いところで、流通を無理に触ると後ろから刺されるよ」と。
イル君の話を聞いていると、僕もそんな気はしている。

関連記事

このイル君もすごい若者ですね。
以前の日記も読ませていただきました。

イル君の村の買取り商人とは、ヤクザのような感じですね。
H君に続き、このイル君の考えもまた素晴らしいですね。

私の今いるドミニカ共和国の地域でも、イル君の村ほどではないにせよ、中間業者の影響力は大きいです。
彼らがいなければ、車もない、情報も手に入らない村の農家では販売できないのが現実です。
ですが、売値も正当な価格なのか、農家には判断する材料がないわけですから、いいなりになるしかありません。
農業銀行というのがあるのですが、小規模農家個人にはほぼ融資しません。
ですが、そんな状況をなんとかしたいと、農家が集まり、協同組合を作る動きが最近活発になってきました。
組織に対してなら、融資をする銀行も出てきています。
農家が生産技術や市場の情報などなど、研修を通して学んだり、有利な情報を得られたりも出来るようになってきています。

ですが、実際、インドネシアの彼の村での環境では、彼のイメージを実現させることは、ドミニカ共和国に比べると、かなり難しいと感じます。

それでも将来、このイル君が、村のリーダーとして、この買取り業者と戦ってでも、粘り強く地域の農家を自立させていくリーダーとなってくれることが楽しみです。

ベジータさん
コメントありがとうございます。

イル君の村の買い取り商人は、たしかにやくざのようですが、見方によっては村のリーダーでもあるようです。

その関係をそれに関わっている人々の認識にしたがってみれば、貧困を作り上げている従属関係と言う風にも見えますし、その逆に村内部のセーフティーネットとして見えてくることもあります。
その中でイル君が、新しいリーダーとして成りあがっていけるかどうか、ということだと僕は思っています。

関係を断ち切ってしまうよりも、新しいやり方と論理でイル君が実践してくれることで、周りの考え方や商売戦略が変わってくれることを夢想しています。
だからこそ、彼がインドネシア語の本で何か読みたいと言ったときに、僕はまず彼にチェンバースの本を渡しました。従来の関係を従属的に捉えて、闘争原理に沿って、それらと戦うのも一つの手だとは思いますが、そうでないやり方もあることを僕はこの3年間で彼に伝えていきたいと思っています。

この事例は、彼が帰国後も長く長く見ていきたいと思っています。

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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

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