内山 節、大熊 孝、鬼頭 秀一、榛村 純一 編著 『市場経済を組み替える』.1999.農山漁村文化協会.

本書は第二回「掛川哲学塾」(1998年度)の報告をまとめたもの。第一回の掛川哲学塾の報告は『ローカルな思想を創る』。『ローカルな思想を創る』では、それぞれの論者の視点の違いが気になったが、本書では統一されていたように思う。

本書では『ローカルな営みと世界市場を前提とする市場経済との間に、いかなる関係をつくりだしたらよいのか』を模索する。編者の1人の内山は、『もしも思想がローカル性に基盤をもつとするなら、経済的な営みも、その軸にローカル性がなければならないはずである』という。そのため本書第二部では、掛川哲学塾参加者によるローカルな取り組みが記されている。

前作と同様、本書においても内山節、鬼頭秀一の論考が特に光っていた。

鬼頭秀一は市場経済を支える近代システムに目をむけ、それと対極にある交換不可能性(irreplaceability)つまり「かけがえのなさ」に言及している。鬼頭は『(近代システムは)ひとやものの関係を限定された特定の使用に関連した機能中心にとらえ(中略)ある機能に着目した規格化、標準化が可能になりました。そのことは交換可能性を保証し、それによって、普遍的に使えるものを目指す近代の生産システムを可能にしました。』と指摘する。そしてその中で、環境の価値について考える。自然の価値を普遍的な価値として数量的に処理することに疑問を投げかけ、環境の価値と言うのは「いま、ここで私たちにとって」意味の在る価値であり、それは「かけがえのない」環境だという。鬼頭は、『いかに交換不可能な、かけがえのない価値というものを回復していくかというようなところが、いま重要な課題になっている』と我々に明示してくれている。農の営みを環境保護機能的にのみ評価するような人は、鬼頭の論考をぜひ読んでもらいたい。自分の立ち位置とその間違いに気付くだろう。

内山節は、群馬の山村暮らしの経験から、市場経済とそれを支えるヨーロッパ近代思想について触れている。まず『自由』という言葉に言及し、それは自在に生きることを指している、と自分の志向を明示している。ヨーロッパ近代が生み出した『自由』は、人間に与えられた権利であり義務であるが、内山が志向する『自在』は、便利さを作り出す技を身につけ、それによって自在=自由な人間になれるという。この自由と自在の違いは、市場経済と人間の関係を考察していくのに重要だと指摘する。ヨーロッパ近代の自由は、市場経済によって阻害される部分もあるが、促進される部分もある。それは同じヨーロッパ近代が生み出した産物だからでもある。しかし、市場経済の合理性に身をまかせればまかせるほど、我々は自在な生活を失っていく、と内山は批判する。内山がいう『自在さ』とは、自在な生き方を可能にする技とともにあるが、そのような生き方は誰をも納得させる客観的な合理性をもっていない。たとえ話として、薪割りについて触れている。内山は山村の生活の中で、自分で薪を作ることに満足をしているが、他の人が見たら、薪はよそから買ってきて、余った時間を他の労働に当てた方が合理的だと考えることもあるだろう。しかしこのような見方こそ、内山の感じている満足感を機能的に捉え、それを普遍化できる価値ではかろうとする市場経済的考えにすぎない。『技も自在さも、合理的なものでも非合理的なものでもない。そういう尺度でははかれない営みなのです。ここに合理的な認識をもちこむと、合理、非合理ではとらえられない営みが、こわされていくことになります』。ごもっとも。

また共同体がもつ慣習について触れ、自分たちの「世界」の持続を保障するルールであり、自在な生き方とは、自然も含めて成り立っている世界が基礎になっていると説く。つまり自由とは身勝手とは違い、私的世界に身をおくのではなく、共同体の中で、総有という考えの下で存在するものだという。内山は最後に『はたして自由という観念は私たちを市場経済から解放することができるのか。自在さの追求こそが市場経済社会の組み換えを促進するのではないだろうか』と括る。ごもっとも。

日々の市場経済生活の中で空虚感を感じる人は、必読。自分なりの、そしてその地域(風土)なりの、自在さを追求してみることで、その生活に風穴をあけられるだろう。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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