先日の研修生への座学の話。
前回、日本の農業はインドネシアの農業に比べて、
それは「進んだもの」なのか「異なったもの」なのか、を
新しく4月から来日したイル君に宿題として出していた。

その答え。
「進んだもの」だった。
イル君曰く、
「今ちょうど、田んぼを植えていますが、機械化されていて少人数で効率よく農業をしているように見えます。田んぼも四角く整備されているし、一枚の田んぼも広い。インドネシアは手植えで、あんなにスピーディーにはできません」
というのが理由らしい。
なるほど。
目に見えている機械化というベクトルだけを切り取ってみれば、
日本の方が「進んでいる」ことになろう。

では、インドネシアもそのベクトルに乗っかって
いずれは日本で見えているような光景が、
インドネシアでも目にすることができるのだろうか?
一部ではそういう風景も目にできるかもしれない。
ただ中身はまったく違っているだろうけど。

現在見えている日本の(福井の)光景は
戦後の農地解放、その後に続く土地改良事業、
そして工業化へ突き進む中で、安く抑えられた農産物価格と
工場労賃との関係で、都市への移動が起こった。
飛躍的に機械化が進んだことも、それらを後押ししたのであろう。
その機械化が、稲作だけの兼業農家を生み出した。
また兼業化への特化の中で、
一部の農家は農外収入を農業の中に埋め合わせることで
その経営を成り立たせてもいた。
その反動と、機械更新の困難により
世代が変わるとともに、農業を営まない人々も多く生み出した。
また農政のばらまき批判を受け、大型農家を支援する枠組みも出来上がり
それに呼応する形で、法人化も進んだ。
うちの集落の隣にある3集落合わせて作った法人は
1枚の田んぼが4haもあるのである。
そういう事態が表象として現れてくるのは、
裏側に上記の理由が埋め込まれているからである。

インドネシアでは、第2次世界大戦後、
農地解放を行おうとして行動(戦争)していた共産党を
9.30事件ですべて虐殺してしまい、
その機を失ったまま現在に至っている。
(それが成功したからと言って、それで安定的な社会になったかどうかは、カンボジアの例を見れば、わからないのであるが)
農地の所有は植民地時代にゆがめられたままで
企業などが大規模に農地を所有し
西ジャワなどは、50aも所有していれば多い方だと言われるほどの
零細農家ばかりなのである。
その中でも、高利貸しが横行し、
不在地主も増えている。
機械化は、一部の資本家で実現可能であろうが
それは、常に資本の下での新たな従属関係を生むだけのような気もする。

零細農家同士が、作付けの失敗や危険を回避する目的として
お互いに農地を貸し、小作し合うような社会的システムも存在している。
それを貧困の共有と呼ぶ者もいれば
危険回避の合理的選択と見る者もいる。
それらは社会危機の時にソーシャルセーフティネットなどと呼ばれて
評価されることもある。

インドネシアでは、その気候により
1年で2回は稲作ができる(多いところは3回)ため
農業の規模を単純に面積だけでは比較できない。
さらに、日本では多くの兼業農家が稲作に特化してしまったが
インドネシアでは稲作以外の農業が、複雑かつバライティに富んで存在している。

国家・市場・風土、そして民衆の中の社会システムの差異で
表象として現れる農業が異なってくるのである。
だから僕は、日本とインドネシアの農業は、
発展のベクトルが同一線上に位置しているわけではないと
考えている。
どちらかが先に進んでいるわけでもないし
どちらかが後というわけでもない。
両者は「異なったもの」でしかないのだ。

イル君は豆鉄砲をくらった鳩のような顔をして
僕の話を聞いていた。
いいさ、今はわからなくても。
3年間、君はここにいるんだから。
じっくり、一緒に考えてみよう。
僕が話したことだけが正解じゃない。
これから君らと対話していく中で
もしかしたら、僕も考え方が変わるかもしれない。

とにかく、これが僕の座学のスタートラインなのである。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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