日曜日から、農薬の本格的散布を再開した。
僕の農園では、虫が活動を停止する冬の間は、
農薬の散布をほとんど行っていない。
昨年の11月初旬に最後の散布を行ってからこのまえの日曜日まで、
ほとんど散布していなかったのである。

僕の主力作物はベビーリーフ。
なので、それにつく虫の駆除が農薬散布の最も大きな役割となる。
キスジノミハムシ
コナガ
カブラハバチ
イチモンジハマダラメイガ
などなど。
まだまだ種類をあげたらきりがないほどいるのだが
だいたいこれらの虫だけを繁栄させないことが
農薬防除の役割となる。

コナガやカブラハバチ、イチモンジハマダラメイガなどの
鱗翅目は、微生物農薬などでまさにその虫に対してピンポイントで効く農薬もあり
発生時期を見過ごさなければ、それほどひどい被害にはならない。
しかし、キスジノミハムシに効果がある微生物農薬はなく
僕はネオニコチノイド系の農薬を使用している。

さて、このネオニコチノイド系の農薬。
最近ちまたで風当たりが強い。
昨年に出版された
『悪魔の新・農薬「ネオニコチノイド」―ミツバチが消えた「沈黙の夏」』
が、その引き金になっているのだろうか、
ネオニコチノイドに対する批判が多くなってきた。
この本や巷の批判を眺めていると
どうも食べる側と作る側との間では
究極的に突き詰めてみると、
食べる側にとって最終的な目的である「人間の健康」と
作る側にとってもっとも重要だと思われる「自然との調和」において
この2つの目的が、一つの食べ物を対象として
必ずしも一致しないのではないだろうか
と思えてくるのである。

人の健康とは何かを僕ごときが語ることはできないし
自然との調和にしても同じことではあるのだが
すこし思うところもあり書いてみよう。

ネオニコチノイド系農薬に対する批判は
風潮としては第2のDDTを探しているような感じで
薬剤の危険性、人間に対する健康被害の可能性、そしてその強いとされている農薬が
環境を破壊して、沈黙の春ならぬ沈黙の夏がくると批判している。
それが本当かどうかは、僕は科学者でないので分からないし
嘘かどうかも見破ることは難しい。
なぜならそういう批判には、僕らの思考能力では判断できないほどの
科学的データが満載されており(しかも言語まで多様)、
到底検証できない。
そしてネオニコチノイド系の農薬が安全だと主張する側も、
同じように科学的データを満載して反論している。

さて、その一方。
ネオニコチノイド系の農薬は、IPMの文脈で多く紹介されてきた。
Integrated Pest Managementの略語で
総合的病害虫管理と訳されることが多い。
どういうものか簡単にいえば、農薬散布を主力としないで
天敵利用や耕種的防除(いろんなものを作りまわす、もしくは混作する)も取り入れて
自然の力を利用して病害虫の発生を減らしましょう
という考え方である。
一応、農薬も散布するのだが、
それにしても天敵などの有益な生物に影響の少ない農薬を選んで利用するのである。
農薬散布だけの防除時代から見れば
IPMの考え方は別のベクトルに向かっているといえよう。
農薬だけの防除は、究極的には、圃場における作物以外の生物の否定であり
IPMの実践は、自然の力を利用し、その均衡を保とうという考え方でもある。
そしてそのIPMの中で、ネオニコチノイド系の農薬が紹介されることが
多かったのである。

ネオニコチノイド系の農薬は、
有機リン系・カーバメート系・合成ピレスロイド系の農薬と違い
すべての虫が死滅してしまうわけではない。
もちろん接触毒もそれなりに効果があるのだが、
クモ類などの天敵には、上記の3系統の農薬よりも影響が少ないと
圃場で実際に散布していて、僕も思う。
作物に害を与える虫だけに影響があり、
周りに住んでいる天敵や「ただの虫」には影響が少ないのである。
圃場は、どうしても自然じゃない。
ある種の植物(作物)だけを高密度で育つように人が手を入れているため
それを食べる虫も、自然状態ではありえないほど発生してしまう。
その狂ってしまった均衡を総合的に戻してやろういうのがIPMで、
その中で紹介されてもおり、僕自身も実践しながら効果があると思っているのが
ネオニコチノイド系の農薬なのである。

僕ら農家は食料を生産しているので
当然、その安全性をどこまでも追い求めなければならない。
だが同時に、僕は
無菌室の人工光の中で作られる食料を理想としているわけでもない。
自然の均衡を大切にしながら、ある種の虫だけが大量発生しないように
生物多様性を守りながら作業しているのである。
しかし残念なことに農薬の議論は
常にその農薬の安全性に収斂してしまい、
全体の風景は見えてこないのでる。

人の健康を究極的に詰めていけば、行きつく先がもし
無菌室の人工光で作られる食料だとすれば、
やはり僕は、人の健康とは究極的なところで
目的を同じに出来ないと考えてしまう。
科学が正確に実在する世界(僕らが認識している世界)を描き出せるかどうかの議論も
結論がない中途半端なまま
ネオニコチノイド系の農薬に対する議論は、
科学的なデータの応酬の中で
その農薬の化学構造と人間の神経構造の間でせめぎ合っている感する。
(本当に危険なのかどうか分子レベルでの議論に集約されてしまっている)

それを横目に
僕ら農民は、待ったなしの圃場で途方に暮れるわけにもいかず
自分の学問と経験と信念を持って
農薬の散布をするかどうかを選び
散布する農薬をどれにするのか選ぶのである。

僕は先日の日曜日に、ネオニコチノイド系農薬の散布を
今年も開始した。
もちろん喜んで散布するわけじゃない。
だが、虫を死滅させようとして散布するわけでもない。
狂ってしまっている自然の均衡を
ほんの少し戻そうと考えてのことである。
これ以上に
他に良い方法があれば、誰か教えてほしい。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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