4月からインドネシアの研修生がもう一人増える。
というか、増やす方向で考えている。

人選は、福井農林高校と友好提携を結んでいる
インドネシアの農林高校に基本的に任せている。
こちらからの条件としては
農民の子弟であること。
農業研修をしても、帰国後に農業に携わらないのでは
あまり意味がない。

さて、昨年の11月に選考が終わり、
一人の大学生が選ばれた。
履歴書などで経歴等はわかるものの、生活環境や育った環境、
果ては、その子の父親や母親のいる村の環境も知っておかねばならない。
帰国後にどういったところで農業をするのかを知らなければ
日本での研修のプログラムも立てられないだろう。
僕自身、時間を作ってその子の村へ行けば話早いのだが
なかなかそういう時間も作れない。
そこで、僕の大学院時代の同期であるA女史に
農村調査を依頼した。

A女史は、現在インドネシアの地方の国立大学で
教鞭をとっている。
彼女は休暇を利用して、研修候補生の村と候補生自身の調査を行ってくれた。
昨年の暮れの話である。
そして今年に入って、50ページにも及ぶ報告書が送られてきた。

候補生(仮に“イル”と呼ぼう)の出身村は高地にある。
山の斜面にへばりつくように集落が形成されている。
周りには森は少なく、ほとんどが耕地として開拓されている。
そしてそのほとんどが、「お茶」なのである。

イルの父も母もお茶畑を仕切っている大企業で
お茶畑の管理や収穫の労働者として働いている。
日当はそれほど高くなく、
父と母の二人の収入を合わせても
公務員の初任給程しかならない。
イルの父は、自身でも猫の額ほどのお茶畑を購入し、
お茶の大企業や他の商人たちにも売っている。
さらには、斜面の農地を利用して、高地を活かして
野菜作りもしている。
ただ、それらの栽培資金として、村の中にいるテンクラット(買い取り商人)から
お金を借りており、他の商人よりも安く(キロ当たり100ルピアほどだが)
その商人にすべての収穫物を売らなければならない。
その買い取り商人は、むらの105人の農民に
合計150,000,000ルピアの栽培資金を貸しており
それらの農民は、すべてその商人に収穫物を売らないといけない構造が
出来上がっていた。
大企業によるお茶畑と豊富な資金による買い取り商人の存在。
まさにジャワの貧困農民が作り上げられていく典型的な環境ではないか。

イルの父は、
「農業は、何か仕事に就いて、その兼業としてやるものだ」と語っている。
高地ゆえか、田圃がない。
報告書に書かれている耕作地の種類に、田圃がないのである。
高地といえども、インドネシアでは大抵の場合、
気の遠くなるような労力をかけて棚田を作り上げていくものなのだが、
その棚田がないのである。
イルの父も母も、それぞれの両親はそのむら出身ではない。
報告書には明記されていないのだが、
比較的新しくできた村ではないかと思われる。
大企業によるお茶畑の事業によって、付随的にできた村なのかもしれない。
だからなのか、報告書から聞こえてくる村人の声は
僕がこれまで聞いたインドネシアの村人とは違っていた。
それらの声の多くは
農業は、換金作物を作り、その販売で生活を支えるものであって、
自給的な生産活動ではない、と言っているように聞こえる。
報告書に登場する農民の数は少ないが
それでも、出てくる農民は皆、ある特定の換金性の高い作物を
できるだけ広い面積で栽培しているのである。
そして貨幣を通じて、米や食糧を買うというライフスタイルなのである。
そこには高度に貨幣化されたむらの生活が見受けられるのである。

そこからイルはやってくる。
彼は中学校を出た時に、一旦、父や母とともに企業のお茶畑で働くようになった。
ただ自分の運命を変えたくて、2年後、高校へと進学した。
そして、高校を卒業したのち、政府の農業支援で高校の敷地内で建てたビニルハウスで
作物の管理をするようになった。
そのお金を4年間貯めつづけて、大学に通うことにした。
両親には内緒だった。
お金の心配をさせたくなかったからだそうだ。
そして大学1年の今年、日本行きの話を聞き、
大学を中退して、僕の農園へ来ることになった。
自分の運命を変えるために。

僕はこの想いを受け止められるだろうか。
そして、イルの育ったむらの構造の中で、僕が何か示すことができるのだろうか。
とてもとても重いものを背負った気分である。
それでもやらねばなるまい。
それを望んで始めたことなのだから。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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