日曜日は講義の日。
インドネシア研修生のH君のための講義の日。
前回からの続きで、直売所についての講義。

前回、H君が理想とした販売方法は、
その後、日記には書かなかったのだが、
先週の講義で議論をした時に、H君が言うには
直売所ではなく、
農家がスーパーマーケットと契約して販売する方法だった。
H君は
「直売所はやはり地方や村にある市場とシステム上変わりがなく、たぶん、それで今でも日本のような直売所がインドネシアには必要ないと思います。」
と結論付けていた。

ふむ。
その結論では、僕は満足はできない。
そこで今回、土曜日を利用して、
H君と一緒に卸売市場と大型直売所を見学して回った。

大型直売所では、ついでなので、うちの野菜も出荷することにして
朝一で、直売所の出荷者用シャッターの前に陣取って
最も過酷とされる直売所の青果陳列棚の場所取りもH君に体験してもらった。
ちょっとでもシャッターが開けば、顔を地面にこすりつけてでも
少しでも早く中に入ろうとする老婆。
陳列棚めがけて野菜を放り投げて場所取りをするおっさん。
どっちが早かったかで、口論になるおばちゃん達。
みんな少しでもお目当ての場所を取るために、
直売所の朝は阿鼻叫喚の巷と化すのである。
そんなものを目の当たりにして、H君はすっかりビビっていた。
ちなみに、シャッターが開く前に、待っている生産者たちの間で
だれだれはどこの場所、だれだれはあそこの場所、などと勝手な談合を
取り仕切るおっさんも居て、
その話し合いなどどこ吹く風で、その場所を取ろうものなら、彼ら彼女らから
「その場所はだれだれさんの場所って決まってるんやー!」
と怒られるのである。
ちなみに直売所の利用規定にはそんなルールはない。
毎日顔を突き合わせている生産者の中で勝手に出来上がったローカルルールのようである。
以上は余談。

H君が最も驚いたのは、それぞれが持ってきた出荷物である。
明らかに葉っぱが黄色く変色してしまった菜っ葉を
山のように出荷しようとしている老婆を見て、H君は
「あれは売り物ですか?」
と僕に聞いてきた。
直売所では、それが売り物かどうかを決めるのはお客さん。
売れれば、それも売り物だ。
商人やお店の人が売り物かどうかを決めるわけじゃない。
そこが直売所の面白いところだろう。

これらを見学して、日曜日に講義。
それでもH君は、
インドネシアの地元の市場や村の中にある市場と直売所の差がないと結論付けた。
表面的にしか見なければ、そこにあるものはどちらも差はないように見えるのだろう。
そこで僕の考えも紹介することにした。
講義の中では、以前、
なぜ直売所なるものが最近もてはやされるようになったかを
90分かけて説明した。
90年代後半からたびたび報道されるようになった中国野菜の残留農薬問題。
そして今世紀に入ってかららは、立て続けにBSE問題や偽装問題。
さらには中国冷凍餃子事件のような犯罪まで、
食に関して多種多様な問題が噴出してきている。
その背景を受けて、履歴が解る物、地元の物、に脚光が浴び始めている。
そしてそれらを手に入れられる(もしくは手に入れられるというイメージをもつ)
直売所がもてはやされているのではないか、と僕は見ている。
インドネシアの村の市場とシステム的に同じように見えても
(生産者から直売という意味で)
そのマーケットの成り立ち・発展の経緯が違うのである。
直売所と同じようなものをインドネシアに作り上げることは
H君の言うように、ある意味ナンセンスかもしれない。
でも、インドネシアでも中国からの食品汚染問題(ミルク)が大きく報道されており
また、インドネシア国内でも添加物の問題として、
政府が使用を認めていない薬品の利用が社会問題にまで発展している。
食の安全が脅かされているのは、なにも日本ばかりじゃないのだ。
そんな社会状況の中で、消費者の需要の方向性は
どのように動いているのか、それに敏感になり、消費者レベルで差異を感じられるような
売場をプロデュースすることが求められているのではないか、と僕は思う。
ここの地域の場合、消費者の需要の方向性を捉えた形として直売所があったのだが、
それがインドネシアでは、別に日本型直売所である必要はない。
ただ、同じものを植え付けようとか、表面的な差異があるかないかで
必要性を論じることは、少なくとも僕の講義の中では避けたい。
直売所の講義で僕が言いたかったこと、そしてH君にも分かってほしかったことは
そういうことだったのである。

H君は解ったような解らないような顔をしていたが、
直売所の講義はこれでおしまい。
表面的な差異でしか差異を捉えられない視点と
その裏にある偏見をこれからの講義で少しずつ変えていくしかあるまい。
まぁ、それが講義を受ける意味なのだから。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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