青沼 陽一郎 著 『食料植民地ニッポン』.2008年.小学館.

本書は、海外に食料を依存している日本の現状(61%の海外依存)についてのルポルタージュである。本書では、アメリカ型食生活への変化(肥満)、BSE問題、世界分業化される日本の食卓の状況、中国野菜問題を通して、日本が食に対して主権を失うと意味での「植民地」化している現状を記している。

国家間外交の優劣と国内産業構造の変化によって、さらにはそれによって生じた農業の衰退から、海外依存の日本の食料事情が作り上げられていった。BSE外交では、アメリカのなし崩し的な市場再開の圧力とそれを認めるためだけに立ち上げられた国内委員会のやりとりには、この国に主権はあるのか、と考えさせられた。また中国問題では、その国では食べない食品を加工することから生まれる不信感などが記されていて、読者の背筋を凍らせるような事例が満載である。

本書の本筋としては、それらの事例を並べ、中国やアメリカを批判することではない。海外に61%の食料を依存しながらも、もっとも注文が多いといわれる日本人が、いずれは食料争奪で買い負ける日がくる、と批判していることが本筋であろう。外交的に欧米に追従しながら、国内では中国の食品批判を繰り返すが、自分たちの食卓の構造を鑑みないそれらの追従と批判を、本書は批判しているのである。アメリカについで食料輸入で第2位になった中国に依存しながら規制をしようと言う日本の姿を本書は取り上げている。

しかし、事例のみは満載なのだが、その食料依存と規制の構造についての考察は深くない。ポストハーベスト問題で、アメリカで収穫後に使用される農薬の規制は、普通に使用する農薬の濃度より何倍も濃くても、問題がないように制度的に変更されているのだが、あれほど依存している中国には、農薬の原体は同じだが製品名が違うだけで、残留濃度0.01ppmの厳しい規制がかかっているケースがある。その差はなんなのか。ただ単に外交的問題なのか。それとも日本の深層に潜む心理的・言説的な何かがあるのだろうか。僕は、意図的に形成されていく大衆言説に大きな問題があるとみている。が、本書では、そこには踏み込まず、問題の表面をなでるばかり。

また本書の基幹をなすはずの農業についての記述はお粗末。戦後の近代化の流れの中で、農業から工業へ、小規模専業から兼業化へと農業は変化していったのは事実であるが、その記述の仕方が、農家が制度に乗っかって時流の変化から取り残されたような書きぶりが目立つ。果たしてそうだろうか。21章の農業の記述では、農業の歴史的背景や土地へのこだわりを持つ古い日本の農家が、経営戦略に長けたアメリカ型農業にやられていく、とされているが、では、その日本の農業はどうあるべきなのだろうか。著者は批判はすれども答えはしない。アメリカ型農業や中国の安い農産物に押されているのは事実だが、その自由市場経済の構造や補助金によってしか成り立たない輸出産業としてアメリカ農業が、日本の農業構造にマッチするとでも思っているのだろうか。原洋之助の『北の大地・南の列島の「農」』や暉峻衆三の『日本の農業150年』などを参考によく勉強すると良いだろう。

事例が多く、知らない事実が書かれている点で、面白くは読めるが、そもそも著者の眼差しに疑問を抱く。アメリカや中国との関係で、それらの追従や規制を批判しているが、片方で、日本の農業の在り方については、その自由市場の歪には触れず、アメリカ型の経営農業に凌駕されると書かれている。批判し散らかした後に、一体筆者は何を読者に問いかけようとしているのか、メッセージが不明瞭。また批判の視点も分野間で統一がなく(著者の定見の無さが露呈した結果だろうが)、ただ批判するだけで終わっている。なんとも後味が悪い本。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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