週末は、青年海外協力隊のエッセイのお引越し。
もうすぐおしまい。



ロティ マロス


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一言で言えば、名物。
しかし、お世辞にも美味いとはいえない。
かすかすのパンにやたらめったらあっまい独特のジャムを挟んだだけのもの。
地元の人は、愛着を持ってそれを呼ぶ。
『ロティマロス』と。


州都マカッサルから州街道を北上すると、マロスという町にでる。
マロスから更に80キロほど北上するとバルになる。
そのマロスの町に入りかかる街道沿いに、ロティマロスは売られている。
日本語に訳すなら、『マロスパン』と言ったところだろうか。
味はとにかく甘い。
そして独特の味。
南国のフルーツをつぶして入れたような味がするが、
そこの店主は『味は秘密だよ』といって教えてくれない。
別に真似するつもりはなく、ただ食べ物として真っ当な物なのかどうか知りたくなる味だった。
しかしそれも初めのうちで、食べなれてくると美味く感じてくる。
舌が麻痺したのか、味覚がむこうになじんだからなのか。
とにかく、これはそんなお話。


アレジャンに住み着いてしばらくたった頃、私は味に飢えていた。
毎食殆ど定番となったインスタントラーメンとご飯、
たまに出る魚料理は生臭いかターメリックで同じように味付けされているかで、
どれも私の味覚を刺激しない。
一度市場でいろいろと食材を買ってきたことがあったが、
下宿先の若奥さんは何を勘違いしたか、
その食材を家族に食べさせ、私には定番のインスタントラーメンとご飯だけを食べさせた。
ミスコミュニケーションだったと反省はしているが、
まったく察しない下宿先の家族にも苛立ちをつのらせていた。
そんななかだった、私がロティマロスに出会ったのは。


それは、村から出稼ぎに出ていた若者が帰郷してきた時の事。
山のように持ち帰ったお土産の中に、くしゃくしゃの新聞紙にくるめられたものがあった。
子供達はそれが何物かを心得ていて、しきりにはしゃいでいる。
若者は集落長の親戚に当たる者らしく
(といってもアレジャン集落の住民の殆どはお互いに親戚なのだが)、
ラエチュやその家族にもお土産を持ってきていた。
そして例の新聞紙にくるめられたものもあった。
『田谷も食べるか?美味いぞ』とその彼。
食べ物?といぶかしむ私を横目に子供達は、新聞紙を開き中に在るものを食べ始めた。
見た目にはパンだった。
勧められるまま一つを口の中へ。


まずい。


百歩譲って甘いのは我慢しよう。
しかし鼻に残る匂いがきつかった。
砂糖を飽和状態になるまで混ぜ、
ドリアンやジャックフルーツをつぶして美味くないエキスだけを加えたような、
そんな味だった。
なんてやつらだ!何て味覚だ!
ターメリックは口に合わないし、川魚は泥抜きしていないため生臭い。
インスタントラーメンはぬるいお湯をかけただけで、ばりばりと歯ごたえがある。
我慢ならなかった。


そんなある日、定期健康検診のため首都ジャカルタに行くことになった。
ジャカルタは日本人も多く住んでおり、日本食も多い。
洋食の種類も豊富で、私の味覚は充分に満たされ、そして刺激された。
次の定期検診までしばらく、我慢のアレジャン生活になる。
検診は半年に1回。
半年分の食糧は持って帰れないが、
せめて我慢できなくなった時に食べられるようにと、
ここぞとばかりに日本の缶詰や保存食を買った。
そして村人にも一つお土産を買った。
スラウェシ島ではまだ食べられなかった『Dunkinドーナッツ』だった。
私はそれほどこのドーナッツが美味いとは思わないが、
それでもロティマロスよりははるかに良かった。
まってろよ、みんな。
教えてやる。
美味い菓子パンとはこういう物の事をいうんだ。
そして20個ほどのドーナッツを持って村に帰った。


不評だった。
かなり不評だった。
というか食べてさえもらえなかった。
ひと口やふた口味を見るとすぐに、『美味くない』といって食べてもらえなかった。
あれほど甘い物好きにもかかわらず、
砂糖をまぶしてクリームが入っていて、
チョコレートがコーティングされているDunkinドーナッツは、
村人の口に合わなかった。
そして食べ残されたドーナッツにハエと蟻だけが集っていた。
ロティマロスの10倍以上の値段がしたのに・・・。
食べ残した子供は『今度ジャカルタに行ったら、
ロティマロスを買ってきて』と無邪気に笑う。
ジャカルタのお土産にマロスのパン。
なんだか釈然としなかった。


そして月日がたち、魚の生臭いが美味いに変わり、
インスタントラーメンのバリバリという食感が癖になった頃、
ロティマロスは私の良く食べる食べ物の一つになっていた。
以前も話したが、週末はマカッサルという100キロ離れた街までビールを飲みに行く。
その帰りに、マロスでロティマロスをお土産に良く買った。
暑い国なので甘いものが無性に欲しくなる。
そんなときロティマロスは丁度良かった。
その場所で広く支持されている食べ物は、やはりそこの風土や文化によく合っている。
ダンキンドーナッツも美味いけど、ロティマロスもそれはそれで美味いと感じる。
『相手の価値観を理解して頑張ります!』などと
協力隊出発前のローカル新聞の取材で答えていたが、言うは安し行うは難し。
そんなことを実感させてくれたロティマロス。
読者諸君も、もしスラウェシに行く事があれば、是非食べてみて欲しい。


しかし、最後まで魚のターメリックの味には慣れなかった・・・。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
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