週末は、青年海外協力隊の時のエッセイをお引越し。
こういうことがあったのは、たしか2002年の秋だったと思う。




僕達の失敗


gonbo.jpg



暑さの残る9月上旬。
何気に行ったごんぼ畑に、奇妙なものが生えていた。
赤白の棒。もちろん雑草ではない。
なぜなら7月、8月の暑い時期、うちの婆さんと近所の婆さん達が、
3回にわたって、一所懸命除草したから。
と言うよりも、こんな雑草はあるわけない。
それは、自然物とは思えない鮮やかな赤白の棒だった。


その数日後である。
村の区長さんがわざわざ自転車に乗って、仕事場まで来てくれた。
『田谷さん、明日の火曜日空いてるやろか?午後の3時から国土交通省の役人さんが来るらしいんやけど』。
明日?3時?国土交通省?なんのこと?
『川のしも(下流のこと)で水門の工事があるらしいんやけど、うちの村の堤防から工事用の車両とダンプを出入りさせることになったって、昨日国土交通省から連絡があったんやわ。田谷さんちのごんぼ畑に赤白の棒立ってたやろ?あれ、測量の標やそうです』。
ますます混乱した。
そこであれこれ区長さんに質問をした。
どうやら、うちのごんぼ畑に、幅6メートルの工事用の道路が通るらしい。
下流にある、うちらとはあまり関わりの無い水門を修理するためだとか。
そして、どこからか工事用の車両を入れる必要があって、
うちの村の堤防から入れることになったらしい。
明日、午後3時から区長さんに対して、国土交通省から説明をすると連絡を入れてきた。
区長さんは、その場所に畑を持っていないし、農業もしていないので、
自分だけ説明を受けても話が分からない。
そこで、村の蔬菜組合長と、道路が通る予定になっている場所に畑を持っている農民も呼ぼうと、
自ら判断し各農民に声をかけていた所だった。
その場に居たうちの父は、ぶっきらぼうに
『明日は田んぼの稲刈りや。急に言われても都合がつかん』
とだけ言った。
そこで、明日は出席できないが、
説明の内容と役人が持ってきた資料のコピーを後日いただくと言うことで、お願いした。


この話は、うちのごんぼ畑の位置が、少々事態を難しくしている。
すこし説明しよう。
私のホームページで、ごんぼ畑を見ていただいている読者諸君には、
説明は入らないかもしれない。
うちのごんぼ畑は、川辺にある。
きめの細やかな砂地の土地が良いごんぼを作るための必須条件で、
そのため川辺の土地が適している。
昔から、この辺はごんぼを良く作っていた。
しかし、いつの頃からか川の氾濫を防ぐために、堤が作られた。
そして、川の管理を建設省(今の国土交通省)がするようになり、
それと同時に堤防から川までの間にある土地も建設省の管轄になった。
しかし、一部耕作地を定め、今までと同じように、川辺の畑で耕作は出来ていた。
ただ、農民は建設省との単年度契約で耕作権が与えられ、土地の所有者は国となった。
どこにでもある話。
お上には逆らえない。
そして、畑を見にも来ない役人は、
クーラーの効いた涼しい部屋で、お茶をすすりながら、定規で地図の上に線を引く。
水門工事用の道路のために、無造作に線を引く。
罪悪感は無い。
なぜなら、国有地だから。
そして、その線の下に、うちのごんぼ畑があった。


次の日。
区長さんが早速知らせに来てくれた。
しかし、手ぶらだった。役人は配布資料を用意していなかった。
1枚の地図を見せ、すでに引いてある線を指し、
『ここに幅6メートルの道路が通ります。工事は来月10月からです』と説明しただけだったそうだ。
蔬菜組合長や他の農民は『しょうがないかなぁ』と言っていたそうだ。
それでも区長さんはがんばって、
『今日来ていない農家の方も居ます。それに今日は私だけに説明と言うことでしたので、次は農家の方を含めた会議を開いてください』
とお願いしたらしい。
しかし、役人は非積極的なポーズで決まりゼリフを吐いた、
『考えておきます』と。
区長さんは、私に『10月になれば、説明会があるかもしれないから・・・』と
か細い声で力なく教えてくれた。


 私達は全くの弱者だった。
単年度契約で、国土交通省から耕作権を与えられた農民だった。
実際には、その土地は長い時間をかけて、有機肥料や資材を投入し、
うちが作り上げてきた農地なのだ。
そこに工事用の道路ができる?
ごんぼがだめになるだけでなく、土地もだめになる。
道路をひくという事は、砂利を入れるということ。
長年かかって育てられてきた土地が死ぬ瞬間だった。


それから数日後。
区長さんが自転車にのって、うれしそうにやってきた。
この時点で、私は工事が始まれば、座り込みをしててでもごんぼとその土地を守るつもりだった。
そのせいか、自然と口調がきつくなり、顔はこわばっていた。
なんのようでしょう、と私。
区長さんはそんな私を気にもせず、
『計画が変更になったそうです』と言った。
なんでも昨晩、国土交通省から電話が入り、
『下流のほうから資材を入れることになりました。そちらの村は通らなくないましたので、通知します』
と言ったそうだ。
どうして変更になったのか、区長さんに聞いたが、
区長さんも『何の説明もなかった。私も狐につままれた感じや』と言った。
こうして、さらに数日後。
暑さも感じられなくなってきたお彼岸前。
ごんぼ畑に立ってた赤白の棒は、跡形も無く消えていた。
夏の暑さが見せた幻だったかのように。


赤白の棒が消えたごんぼ畑を前に、今回のことを思い返していた。
心の奥に引っかかっている記憶。
どこかで味わったことがある、そんな感覚。
デジャブ?いや、確かにそれは過去に犯した過ちだった。
話は、また南の島に飛ぶ。


それは私がまだ、『僕』という言葉が一番似合っていた頃の話。
当時の仲間なら、これから書くことは知っているし、同じ過ちを犯した経験があるかもしれない。
しかし、主に私の記憶の中では、私が一番この間違いに気が付いていなかったかもしれない。
なんせ、今ごろになって、ごんぼ畑の前でその過ちを身に染みて知ったからである。


僕が、アレジャンに住んでいた時。
幾つかの作物を普及させる活動をした。
市場価値が高く、直接農民の儲けにつながるはずの作物だった。
そしてその計画を僕は安易に村に運んだ。
まず村の長に説明を付け、理解を得てから村人を呼んでもらって、村人に説明をした。
しかし、村人の集まりが悪く、事業はなかなかうまくいかなかった。
努力嫌いで答えを他人に求める事に慣れていた僕は、
『来ない村人はMalas(なまけもの)だ』と断定し、
だからいつまで経っても貧しいままなんだと、
貧しいということ自体が罪悪であるかのように吹いてまわった事があった。
もちろん、今私は、全くそう思ってはいないし、
当時の僕も大病を犯してから、考えをあらためるようになった。
彼等は間違っていない。
ただ僕のアプローチが間違っていたのだ、と。


 しかし、それは事業者側の反省だった。
やられた側の気持ちは、どこまで行っても推し量るだけで、推測の行きを出ない。
ただ、今回幸運(?)にも私は、やられた側、弱者、
そして『僕』からなまけものと断定された立場だった。
会議には仕事で行けなかった。
もし、10月に事業が実行されていたら、
私はどこで自分の考えを述べることが出来ただろうか?
座り込むしか手が無かっただろう。


私が持っていた現実は、『僕』には理解できないものだっただろう。
近年農機具は高価だ。
トラクターはベンツくらいの値段がし、田植え機はホンダのフィットが2台は買える値段だ。
コンバインも相当高い。
そのため、コンバインと田植え機は、うちでは近所の農民と共同購入している。
1台のものをみんなで順番に使う。
でも田植え時期、収穫時期は同じだ。
1日の遅れが後々の仕事にひびいて来る。
皆早く使いたい。
説明会があったのは、そんな火曜日の午後だった。
誰が私の現実を理解してくれるだろうか?
『僕』が決めつけた怠け者には、こんな現実があったかもしれない。


そして、国の計画はいつも雨のように上から降ってくる。
今回はしばらく雨宿りをしたら、通り過ぎていったが、また雨は降る。
私たちの知らないところで、『僕』達は計画し実行しようとしている。
こうして『僕』達は、私たちから信頼を失い、
私たちは『僕』達に何かを言うよりも、お金をもらってしばらく耐えることに慣れていく。



赤白の棒が消え、季節はだんだんと秋めいてきた。
11月上旬には収穫ができそうだ。
今年は夏が暑く、雨も少なかったので、ごんぼが十分に熟しきれないかもしれない。
収穫は、少々早まりそうだ。
虫の音が耳に心地良いごんぼ畑で、そんな事を考えていた。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
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