C.K.プラハラード 著 スカイライト コンサルティング 訳 『ネクスト・マーケット』:「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略.2005年.英治出版株式会社.

1日2ドル以下で生活をする世界の「貧困層」を市場として開拓しよう、という本。
と、要約してしまえば、ただ単に、貨幣経済のより一層の浸透と市場主義的な発想で、書かれた新たな従属論的関係を構築させようという本にも思えてしまうが、たぶん本書の意図はそうではないだろう。

これまで多くの資金が「援助」という名の下で、貧困層解消のために投入されてきたが、ほとんど効果を上げていないと、著者は指摘し、「大企業の投資力を、NGOの知識と取り組みや、支援を必要としている地域社会に活かせないか?他にはない解決策を共創することはできないのか?」を出発点に、企業の投資力・資源・活動範囲を活かして、世界の貧困層を購買力のある中間層に変えようという試みが、本書の意図するところであろう。

貧困層と言える人々は日々の生活に追われ使えるお金がない、と見るのは先入観だ、と著者は指摘している。確かに「購買力は、先進国に住む人々とは比較にならないが、人口の多さからいえば貧困層はかなりの潜在的購買力を持っている」(p37)と著者は言う。また貧困層は、途上国ないといえども物価の高い環境で生活している傾向が非常に強く、それらは「地方での独占状態や、モノや情報を満足に入手できない状況、不十分な販売網、昔ながらの強力な中間搾取業者の存在の結果である」(p37-38)と指摘している。
確かに本書の事例におけるITCのケースの場合、インターネットを利用した農産物取引(農家はパソコンを購入)においては、既存の市場による搾取にあっている農家の構造的貧困の解消に一役買っている。またマイクロクレジットなどの小規模金融商品も、その一助となるであろう。こういった事例から考えれば、貧困の構造が解消されることにより購買力が向上し得るといえることもあるであろう。

だがしかし、自給できていたはずのものを購買させ、ただ単に消費するだけの存在に貶めてしまうケースはないのだろうか。我々のもつ先入観を払しょくさせ、途上国の貧困層こそがネクストマーケットだとする著者の主張は、その行き過ぎた先にあるであろう金銭的な価値基準のみでの発展を批判しきれはしない。その意味では、本書はバンダナ・シヴァの対極にあると見てもよいだろう。確かに、本書のケーススタディで伝えらていることは、企業側のイノベーションによりグローバリゼーションの本当の意味での恩恵を、貧困層の人々も受け取れるようになっている。前記したように構造的貧困などには、本書のアプローチも大いに有効であろう。また貧困層が抱える特有の問題にも、企業のもつ技術は大いに役に立つであろう(ヨード欠乏症事例など)。しかし、人々の生きる歓びに対して、本書のアプローチは毒にもなりえる部分があることに無批判のままである。

人々の生きる歓びとは、その基本は「自治」であろう。本書のアプローチは、構造的な搾取の解体や金融資源に対するアクセスを容易にする面で、個人やコミュニティの「自治」向上に益しているであろうが、自給できていた存在を金銭的な従属関係におく可能性があることを忘れてはならないだろう。自治の力を失わせる大きな力としてグローバリゼーションがあることも頭に入れて、本書を読まれたい。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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