FC2ブログ
青年海外協力隊の経験を元に、書いたエッセイ。
元のホームページが閉じられてしまったので、
このブログにお引越し中・・・



春になって考えたこと

tumbu tukushi


春がきた。長い冬がすぎて、春がきた。
今まで雪に覆われていた田んぼや畑が顔を出す。
雪の下になっていて、ついこの前までじっと耐えていた野草も、ここぞとばかりに花をつける。
つくしも顔を出す。鳥のさえずりも多くなる。
ああ、春だなぁ。

先日、春の陽気に誘われて、田畑にトラクターをかけにいった。
青のイセキトラクター。
20a(20m×100m)ほどの畑を1時間もかからずに耕し終えた。
読者諸君には、なかなか解って貰えないかも知れないが、
トラクターで耕すというのは、実に心地が良い。
冬の間、雪の下になっていた田畑。
表土が固くなっていて、雑草が表面をびっしりと覆っている。
そこを有無も言わさず耕していく。雑草の根を切り、硬い表土を叩き割る。
トラクターの通った後には、ふかふかの土が顔を出す。
これがなんとも言えず快感なのだ。
いかにも大地を耕しているって気になる。
青空の下、春の陽気で、トラクター。
つらい農作業の中でも、一番すがすがしい時なのだ。

torakutar.jpg
     
     イセキの青のトラクター

近所の田畑も、トラクターがフル稼働していた。
この陽気だ、みんな考える事は同じなのだろう。
しかし、そんな光景を見ていて、ふと思い出したことがあった。
アレジャンである。

アレジャン集落でも、雨季の始まる前に、稲作の準備として田起こしをする。
しかし、トラクターは無い。
鍬で起こす。
お金持ちの家は、馬で起こす。
どちらにしても、私が快感だと感じている田起こしとは、程遠い。
それどころか、アレジャンの田起こしは、かなり苦痛なのだ。
とにかく土が固い。
石がごろごろしているので、普通の鍬では、土に食い込まず、跳ね返される。
ジャワ島(首都のある島)で売られていた備中鍬を一度買って、アレジャンで使ってみた事があった。
最初の一振りで、3つある刃のうちの1本が折れ、三振り目には備中鍬は完全に破壊された。
バルの町に売られている鍬でも、十振りに一度は刃が曲がってしまうので、
石か鉄鎚で叩いて元に戻さないといけない。
それほど固い。
だからアレジャンでは、一般に売られているものよりも半分くらいの刃の鍬を使う。
その刃も一般のものよりも2倍の厚みがある。
その鍬で、『土を耕す』というよりも、『石ごと叩き割る』といった表現がぴったりの耕し方をする。
赴任して直後、村人に囃し立てられて、田起こしをしたことがあったが、
1a(10m×10m)も耕さないうちに手のひらの皮が破れ、
血がにじんできてしまい、村人に笑われた事があった。
アレジャンの農業は偉大だ、そう感じた。

今、日本にいて、トラクターに乗り、スイスイと田畑を耕している。
すこし地盤が固いところでも、ギア比を変えて、
すこしエンジンをふかし気味にすれば、難なく耕せる。
石だってほとんど無い。高速で回転するトラクターのロータリーが、
小気味良く大地をふかふかにしていく。
なんて気持ちが良いんだろう。
そして、なんて不公平なのだろう。

私が隊員の時、アレジャンでトラクターを使用したときがあった。
トラクターは、協力隊のチームの機材として買ったもので、
今現在はバル県の行政に供与されている。そのトラクターは、乗用ではなかった。
ハンドトラクターと呼ばれるもので、人がトラクターに乗らずに、歩きながら使用するタイプだった。
ロータリーという幾つも刃が回転して土地を耕すタイプではなく、
大きな鉄製の鋤を引っ張って歩くという簡単なタイプだった。
ロータリー式もあったのだが、石の多いアレジャンの土地では、
ロータリー式だと石を巻き込むごとに、トラクターが跳ねたり、
刃が折れる危険があったので、鋤を引っ張るタイプを使用する事にした。

何度も言うが、アレジャンは棚田の地である。
そして、農道が無い。
田んぼの畝伝いに歩いて、皆それぞれの田んぼに行く。
つまり、トラクターが通れる道が無い。
平地でもないので、田んぼを横切って目的の田んぼに行くことも出来ない。
一番急な場所では、田んぼと田んぼの段差が3メートルもある。
トラクターをアレジャンに運んだものの、集落から目的の田んぼまで運ぶすべが無かった。
ハンドトラクターと言っても、相当な大きさで重さも500㎏以上あった。
ラエチュ(アレジャン集落長)が『使ってみたい』というから持ってきたのだが、
やはり無理だったのだ。
『トラクターを使うのは、止めよう』と私。
『いや、使う』と強情に言い張るラエチュ。
すると、ラエチュはおもむろに村人を集め始めた。
そして、集まってきた村人たちの手には、青竹があった。
500㎏以上もあるトラクターをエンジンと本体にばらし、
村人たちは器用に青竹を組んで御輿を作った。
驚いてものも言えない私をよそに、6人がかりで田んぼに運び、
そこでトラクターをりっぱに組み上げてしまった。
『どうだ?やればできるだろ?』と得意顔のラエチュと村人。
見事田んぼをトラクターで起こせたのだが、
1枚の田んぼが2~3a(20~30m×10m)もない棚田では、
1枚の田んぼを起こすごとにトラクターを分解し、御輿にのせて次の田んぼに移動し、
またそこで組み立てるという面倒な作業が必要だった。
しかし、血豆を作りながら、それでもうまく耕せなかった田んぼが、
トラクターでスイスイと耕せるのだ。
ボンボンと力強いトラクターのエンジンの響きは、村人の耳に心地よく響いていた。

torakutor dipakai
       
    アレジャンでトラクターを使用したとき


 torakutor dipakai 2       
珍しいのか、子供がわんさかと集まってきた




それから、何年かが過ぎた。
今年(2002年)の1月、私は帰国して1年が経った事もあり、
再びアレジャンを訪れた。
嬉しそうに出迎えてくれるラエチュ。
そのラエチュの家である『100の柱の家』に上がる(高床式で、家の下は物置になっている)。
いや、上がろうとした時、家の下に見慣れぬものがあった。
そう、トラクターだった。
とても個人では買える代物ではない。
どうしたんだ?と尋ねる私に、ラエチュはにっこり笑って、
『借金して買った。田谷が持ってきたやつとほとんど同じタイプだ』といった。
7000万ルピアもしたそうだ。
ペテペテという車なら2台は買える値段だった。
さらに詳しく話を聞くと、日本からの円借款で貸与されたトラクターが、バル県にも何台か入ってきて、それを分割払いにして買い取ったとの事。
『収穫が無い年は、返済は無いんだ。返済期間も10年だか20年だかと役人は言っていた。まぁ、返さなくても良いってことだろう』と、しゃあしゃあと話すラエチュ。
円借款で貸与されているわけだから、ラエチュがきちんと借金を返さないと、
困るのは日本だ。
私は、『自分の払った税金がこういうふうに海外で焦げ付いていくんだなぁ』と思うと、
なんだか可笑しくなって、そのトラクターを見て笑った。
ラエチュは、私が喜んでいると思ってか、彼も笑っていた。
彼の耳はまだ、以前私と一緒にかけたトラクターの音を忘れていないのかもしれない。
『この前の田起こしのときは、大活躍だった』
とラエチュは嬉しそうに目を細めて、その時の様子を話し始めた。


       
 torakutor allejjang

mesin torakutor
    
ラエチュが買った(もらった?)トラクター。
エンジン部分は盗まれる事があるので、はずして家の中に保管している。



まっ平らな大地をドコドコとトラクターをかける。
棚田でもない。
石も無い。
海外からの援助が無くても、何十年もローンを組まなくても、トラクターは買える。
真っ青な空の下、春の陽気とトラクターの振動で眠気を誘われつつ、
『やっぱり不公平だよなぁ』とぼんやりと考えた。
関連記事
Comment
Trackback













管理者にだけ表示を許可する

Comment form

田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

俳句もしております。「雪解」「街」「いつき組」に所属しております。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
taya.tアットマークnifty.com
です。
(アットマークを@に置き換えて送信ください)

プロフィール
06 ≪│2020/07│≫ 08
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
カレンダー(月別)
カテゴリ
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

メールフォーム

Page Top

Powered by FC2 Blog | | Template Design by スタンダード・デザインラボ