週末は、以前書いたエッセイをせっせとお引越し・・・



落花生考


menanang kacang
落花生を植える青年



先日ある友人からメールが来た。
『愛しのアレジャン面白いけど、田谷って本当に協力隊として活動してたの?』と書かれていた。
失敬なことを書く輩もいるものだ。
しかし、彼の言う事も解る。
なぜなら、この愛しのアレジャンだけを読んでいる限りでは、
私の活動らしい活動といえば、第7話の『冷蔵庫編』で
村人に正しい冷蔵庫の使い方を教える場面しかない。
これ以上あらぬ誤解を受けないためにも、今回はしっかりと協力隊活動について書く。
まずは、落花生についてだ。


私は、村人に農業指導をするために派遣されていた。
農業指導なら何でも良いのか?というとそうでもない。
バル県の農業局と協力するという建前があり、農業局の意向を無視した、
勝手な農業指導はあまり好ましくは無かった。
そのした中、私が派遣されてすぐに農業局から協力を依頼されたのが、落花生指導だった。
しかも、私の前任隊員も落花生指導に携わっていたため、私の意向がどうであれ、
落花生指導をする事になった。


アレジャン集落は、山村である。
無数の棚田が広がり、その斜面にへばりつくようにして、皆暮らしている。
雨季には、その棚田で稲作を盛んに行なうが、
乾季は雨量が極端に減るため、稲作はできない。
そこでアレジャンでは、乾季は落花生を栽培していた。
落花生(ピーナッツ)は乾燥に強い。
雨量の少なくなる乾季でも心配なく栽培できる。
しかも稲と豆の栽培の組み合わせは、とても良い。
専門的な言葉で説明することは避けたいので、
簡単に言うと、稲は土の中のある栄養(窒素)をたくさん吸収する。
そのため稲を栽培する前には、結構その栄養(窒素)を肥料として、畑にやらなければならない。
しかし、落花生を栽培すると、その土の中にその栄養(窒素)が増える特徴がある。
つまり、稲ばっかり育てていると、その土のある栄養(窒素)はどんどん無くなってゆき、
土地が痩せるのだが、落花生と交互に栽培すると土地は痩せ難くなる。
このメカニズムを詳しく知りたい方は、それぞれ専門書で調べて欲しい。
さて、アレジャンでは、稲作のあと落花生を植えるという理想的な栽培をしていたのだが、
問題があった。
彼らの育てている落花生の品種があまり良くない。
豆が小さく、収穫量も少ないのである。
そこで、私の前任隊員とバル県の農業局は、
もっと粒が大きくて収穫量も多い落花生の品種を普及する事にした。
前任隊員は数多くある落花生の品種から、その土地にあった品種を選定しその活動期間を終えた。私の仕事は、その品種を実際に普及させることだった。


普及重点地域となったのは、
やはり落花生栽培の盛んなアレジャンだった。
そうなるとアレジャン集落長のラエチュの理解が必要になってくる。
収穫量が多いとされる新しい品種を持ってきて、ラエチュに見せる。
『ほほう、粒が大きいなぁ』と第一声。
好印象だった。
これ播けば、収穫量もぐーんと増えるよ、と得意になって説明する私。
さっそく試験的に栽培するための畑をラエチュが準備してくれた。
アレジャンでは、落花生を植える時に、棒を使う。
棒を地面についてくぼみを作り、そこに種を入れて土をかける。
仕事の分担は、青年男性が棒で地面を突き、女性や子供が種をくぼみに入れていく。
アレジャンの土は固く、石が多いため、稲作以外ではほとんど耕さない。
私としては、しっかりと耕してから種まきをして欲しかったのだが、
『面倒だ(耕すことはあまりにも大変だ、の意味、だと思いたい)』とラエチュに言われたので、
この件は目をつぶった。
しかし、すぐに次の問題が出てきた。


アレジャンの近隣の集落では、落花生を播く時に、種に農薬をまぶす。
これは、ねずみや蟻に播いた種を食べられないようにするためのものだが、
アレジャンでは違っていた。
播く前日の話。明日はいよいよ種まきだね、とうきうきする私。
ラエチュも『あの種なら収穫が楽しみだ』と期待感を持っていた。
播く準備はできてる?と訪ねる私。『ばっちりだ』と笑顔で答えるラエチュ。
お互いのコミュニケーションにインドネシア語を使っているのだが、
お互いあまりインドネシア語に自信が無いため、何度も作業確認をしてきた。
この時もその確認をした。道具や種子の保存状態等々。
特に問題は無かったのだが、ひとつ、農薬が見当たらない。
お父さん、種にまぶすはずの農薬が無いのだけど、どこにやった?と私。
『ああ、あれなら丁度家の裏手にあるマンゴの木に虫がついたので、それに使っちまった』と悪びれる様子も無く答えるラエチュ。
えっ!?あれは明日落花生にまぶす予定だった・・・
あれがないと、播いた後に蟻やねずみに種を食べられちゃうよ!と声を荒げる。
しかし、ラエチュはいたって冷静で、
『田谷、種に農薬をまぶすのは良くない』と答える。
はっ!もしや、この親父は農薬の人体に及ぶ危険性を指摘しているのだろうか?
その予想は半ば当たっていたが、半ば違っていた。
ラエチュは続ける。
『種まきは女子供の仕事だ。そして、彼女らの楽しみでもある。子供たちは、種を播きながら、その種を食べるんだ。だから、種に農薬をまぶすと子供が死ぬ』。
・・・へ?なんで種まきしている女性や子供が、その種を食べながら播くんだ?
それじゃ減っちゃうじゃないか!
ラエチュはなおも続ける。
諭すように。
『田谷だって、小さい時経験があるだろう。美味しそうな種を播いていると、ついつい食べたくなって、食べてしまう事が』。
ない!絶対無い!それにその落花生の種は、美味しそうに炒ってあるわけでもない。
生なのだ。美味しいわけも無い。


こうして、種はみんなでおいしく食べられながら植えられ、
あまって播いた種は、ねずみと蟻とが仲良く分け合っていた。
共存を喜ぶにはあまりにも寂しい畑の状態を見て、ラエチュは
『種が美味しすぎるんだな』と本気なのか冗談なのか解らないセリフをはいていた。
それでも大部分は元気に育っていたが、
その後その畑は98年に来たラニーニャ(第15話)の影響で、水没した。
そして、私の1年目の活動が終った。





つづく
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
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