船瀬 俊介 著 『悪魔の新・農薬「ネオニコチノイド」』.2008年.三五館.

最近、僕のブログに「ネオニコチノイド」というキーワード検索で訪れる人が多くなった。はてな?と思い、検索すると本書に行き当たった。僕はネオニコチノイド系の農薬を使用している。ので、これは読んでおかねば、と思い、手に取る。

本書では、ネオニコチノイド系農薬(殺虫剤)の危険性を訴えている。
特に、ミツバチに対する影響が大きく、帰巣本能を狂わし、巣箱からハチがいなくなる現象が多発していると警告する。その事例として、フランスにおいて、ミツバチの大量死とネオニコチノイド系殺虫剤「ゴーショ」との因果関係についての事例が紹介されている(第8章)。2006年4月29日、フランス最高裁は、ミツバチと「ゴーショ」の因果関係を認め、その薬剤の全面禁止の判決が出されている。

本書では、有機リン系殺虫剤の次世代殺虫剤としてネオニコチノイド系殺虫剤が登場したと紹介している。低毒性として登場したネオニコチノイドの毒性や残留性、魚毒性、さらには水質汚染の度合が高いと鋭く批判している。さらには、もっとも汚染原因になっているカメムシ防除に使われるネオニコチノイド系の農薬を無意味だと批判する。サイロ選米で光学センサーによって斑点米を弾いてしまうのであれば、1等2等3等の格付けは必要ない、と指摘している。等級が必要かどうかや、カメムシ防除自体が農薬産業との癒着かどうかは議論が残るだろうが、少なくとも、農家からの買い上げ時の等級は、かならずしも小売り米の価格に反映されていない状況なので、ある意味著者の批判は的を射ている。

著者は、受粉を媒介するハチが居なくなれば、農業収益が減少し、農業の壊滅になり、それがひいては食糧危機になると危惧する。ネオニコチノイド系に限らず、農薬の散布から脱却し、自然農法などの技にシフトすることを提案している。

数点、異論がある。
まず、ネオニコチノイド系の殺虫剤は半径4㎞四方に拡散する(通常農薬は100m)という記述について。ミツバチへの影響として4㎞四方の話をしているのだと思うのだが、それは薬剤が拡散して影響を及ぼしているのか、無味無臭でミツバチが無警戒に農薬で汚染された水などを巣に持ち帰るために引き起こることなのか、詳細な記述がない(ミツバチの行動範囲は、3㎞四方程度)。そのため、ネオニコチノイドの農薬が、あたかも4㎞四方を汚染するような書きぶりが目に付く。こういった正確ではない記述は、読者の不安感を煽るだけであり、本書の立ち位置をよく表している。僕は現場で、ネオニコチノイド系の殺虫剤「モスピラン水溶剤」を22ℓ噴霧機で使用しているが、数メートルも離れていない圃場の無散布区は、害虫の食害にあっている(放っておくと、作物は全滅)。薬剤が4㎞四方も拡散するのであれば、こうした事態もあり得ないはずではないだろうか。拡散するのはミツバチが運ぶからなのか、それとも薬剤がそこまで飛ぶのか不明なまま。散布の仕方の説明も無く、情報の出し方が正確ではない。

次に、海外の論文を引用してネオニコチノイド系の農薬の毒性を鋭く非難している記述について。海外の論文で取り上げられているのは、ネオニコチノイド系の一つの化学物質である「イミダクロプリド」。その毒性を引用しながら、ネオニコチノイド系すべての化学物質の毒性を語るのは、あまりにもお粗末としか言いようがない(p128の箇所)。イミダクプリドでの結論を引用し、本文において、さりげなくネオニコチノイドに言葉をすり替えて批判しているのは、意図的なのであろうか。それとも著者が化学系の知識に乏しいからであろうか。英文の専門書から毒性を考察する力があるところをみると、著者はわざと議論をすり替えて、読者の不安感を煽っているようにも読めてしまう。悪意を感じる。

さらに、有機リン系農薬からネオニコチノイド系農薬への転換について、ある専門家の意見を紹介し、除虫菊成分のピレスロイド系というすばらしい農薬への転換の方が重要と紹介している。しかし、合成ピレスロイド系農薬はすでに90年代にかなり登場していて、どちらかといえば、有機リン系→合成ピレスロイド系→ネオニコチノイド系と進んできたといえるのだ。しかも、過去の合成ピレスロイド系殺虫剤は、害虫による抵抗性獲得がかなり進んでしまっている。なぜいまさら合成ピレスロイド系なのか、不可解でもある。農薬の開発にかなりの資金が投入されており、そのため企業は毒性をあまり公表せず、農薬の販売を優先させる、と農薬開発の構造的問題を著者はとりあげているが、もしかしたら、著者がインタビューをした合成ピレスロイド系の農薬を紹介した農薬専門家は、合成ピレスロイド系農薬の利権にかかわりがある立場かもしれない、と逆に勘ぐってしまう。情報の出し方が偏っているため、読者に不信感を与えており、憶測が絶えない。

また、2006年以来ネオニコチノイド系殺虫剤「ゴーシュ」を使用しなくなったフランスでは、ミツバチへの影響は改善されたのかどうか、その点も現状を紹介すべきであろう。すでに禁止になって1年以上経つのだ。その経過報告と因果関係が気になるのだが、それについての記述は一切ない。

本書の終わりには、農薬会社や農水省へのインタビューが書かれている。そこでは、都合の悪い情報をひた隠しにする農薬会社や無知な農水省役人という具合に、描かれていて非難されているだが、本書においても、著者にとって都合の悪い情報については一切記載されていないのだ。僕から見れば、著者も同じ穴のムジナである。

ネオニコチノイド系の毒性について、考えるきっかけにはなる本だけに、公平な記述が無いことに、ますます怒りを感じる。都合のよい個所を批判するだけの書は、なにも生まない。もっともっと勉強と研究を重ね、農家の農薬について考える書となるようなものを書いて欲しい。また農薬の毒性だけを取り出して、それを批判し、自然農業の提案だけでは、現代の農業か抱えている構造的問題の解決にはならない。もう3,4歩踏み込んで議論してほしい。それができないのなら、不安を煽るだけの情報が偏った本は書かないほうが良い。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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