FC2ブログ
ヴァンダナ・シヴァ 著 山本 規雄 訳 『アース・デモクラシー』:地球と生命の多様性に根ざした民主主義.2007年.明石書店.

本書は、シヴァの思想の集大成と呼ぶべき書であろう。多岐にわたって論じられてきたこれまでの論文(単著・共著も含む)が、地球生命体の民主主義という多様性への肯定思想の下に、本書に収斂されている。その根底には、生きるために必要な最小限の資源の利用自由の確立がある。

シヴァは、生命中心の「経済」「民主主義」「文化」を訴えている。その中でも、種子、食糧、水に焦点を当て、一部の大企業や利権者による囲い込みにより、多くの人々が貧困に追いやられ生命の危機に瀕している、と訴えている。しかしそれらは、どちらに利用権があるのか、といった2項対立的ではなく、一方的な囲い込みによるモノカルチャー化していく現状を批判しつつ、多様性の中でこそ我々は存在するのだ、とするパラダイム転換をシヴァは促している。

生命中心の経済の章では、市場経済・生命維持の経済・自然の経済の3要素のバランスが崩れ、市場経済優先になっていることを批判する。資本と労力の投下により、市場経済価値が生まれるとしているが、市場経済は自然の労力を認識していないため、本来は自然の労力に大きく頼っているはずの水などの資源を、資本が囲い込みすることを可能にしている批判する。「水を山から降ろし、海までの何千キロもの道のりを運び、蒸発させ、再びそれを地球に戻している自然の労力を認めようとはしないのです。」(p85)とシヴァの批判は明快だ。その批判の中でシヴァは、自然の経済が基礎となし、それを優先する経済のあり方を提案する。そしてその自然の経済を決定的に壊すことなく営み続ける生命維持の経済、つまり、小農的な営みを市場経済よりも優先させるべきだ、とシヴァは指摘している。

さらにシヴァは、生命中心の経済の章の中で、ハーディンの共有地の悲劇を偽りの悲劇と批判する。ハーディンに見えていないものは、それは、「共有地の存在そのものが、じっさいの共同管理と所有を前提としている、ということです」(p103)という。競争が社会の原動力となっているわけではない、という批判をしている。これは社会心理学者の山岸俊男氏の著書『社会的ジレンマ』:「環境破壊」から「いじめ」まで(2000年)の結論と合わせて考えると、より世の中について解るであろう。山岸は、社会を構成するほとんどの人が、「みんながやるから自分もする」(みんなが主義と山岸は名づけている)という態度で行動をしていると指摘している。つまり競争が社会を動かす原理ではなく、一部の人間が共有地の法を破り、資本の投下を重視し、自然の経済を貪るかたちで競争を生み出したため、現在のような狂喜な競争が、みんなが主義の中で蔓延しているのかもしれない。だとしたら、われわれが本当に目を向けなければいけないのは、市場の経済ではなく、自然の経済であり、それを維持し育む多様性の中で生きる小農の営みであろう。

生命中心の民主主義の章では、これまで人類が長きにわたり選別してきた種子の利権を、一部の大企業がパテントを取ってしまっている現状をするどく非難している。遺伝子組換え等の技術により、子孫を残すことのない種子が登場したことで、農民の多様性は失われ、モノカルチャー化していくと批判する。そしてその単一化された農業が、安定性の面でも、生産力の面においても、在来の小農的な農業よりも劣ると指摘している。市場や一部の大企業が中心となる制度よりも、民衆の生命中心の民主主義を訴えている。

生命中心の文化の章では、小農的な有機農業が、近代的な農業よりも生産性が高いことをシヴァは指摘している。食糧生産というカロリーや量的な問題だけでなく、それを生産する視点にもシヴァは考察する。家父長主義によって作られた資本主義により、生産を司る女性的な部分が排除されていると指摘している。生命の持続と分かち合いを保証していた女性中心の世界観、知識体系、生産体制を取り戻すことが重要だと、シヴァは語っている。

私が、自家菜園と食をつなげて農を考える時、シヴァのいう「人間としての女性」を感じる。それは性ではなく、その眼差しなのであろう。生産と再生産の繰り返しの中で、持続させつつも育んでいく小さな菜園とわれわれの生命との関係が、男性的なものではないことを私も感じることがある。シヴァは、そうした眼差しについて端的に語っている。伝えるための言葉を与えてくれたという意味で、至極重要だと思う。

シヴァの思想は多岐にわたる。が、その根本は、多様性を認め合うその眼差し、に収斂されるのではないだろうか。良書。
関連記事
Comment
Trackback













管理者にだけ表示を許可する

Comment form

田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

俳句もしております。「雪解」「街」「いつき組」に所属しております。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
taya.tアットマークnifty.com
です。
(アットマークを@に置き換えて送信ください)

プロフィール
03 ≪│2021/04│≫ 05
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
カレンダー(月別)
カテゴリ
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

メールフォーム

Page Top

Powered by FC2 Blog | | Template Design by スタンダード・デザインラボ