少しずつ、移動させている。
協力隊の時のエッセイを。
これもその一つ。
こんなこともあったなぁ、と今では懐かしい思い出。


キバタ編

 最近、困っている。
パンテル(長距離の乗合タクシー)に乗せてもらえない。
マカッサル(アレジャンから120㎞離れた大都市)で、
休日ビールとしけこんだ翌日、
バル(アレジャンのある県の県庁所在地)に帰ろうとターミナルに行っても、
パンテルの運転手連中から乗車拒否にあう。
それどころか、多数のパンテル運転手に囲まれて、脅された事さえあった。
なぜ?
原因は、数ヶ月前までさかのぼる。

panter.jpg

『パンテル』

 休日にどうしてもビールが飲みたいと思う私は、
120㎞をおんぼろバスで移動しマカッサルに行く。
アレジャンやバルではお酒が手に入らないからだ。
マカッサルほどの大都市であれば、気のきいたレストランには必ずビールがある。
日本の生活で、毎日のように晩酌を習慣としていた私には、
たとえ1週間の禁酒でも耐えがたい苦痛である。
痛飲し、翌日アレジャンに戻る。
帰りは、バスを使う事は少ない。
なぜなら、アレジャンへ行く途中のペッカエ(老兵のいる町)で
バスを乗り換えなければならないからだ。
乗り換えたバスはすぐには出発せず、時として2時間や3時間待たされる。
そのため、マカッサルの帰りは、パンテルを使う事が多い。
幸い、パンテルはアレジャン集落を通過する路線があるのだ。
マカッサルから待たされる事無く、直接アレジャンに帰れるため、重宝していた。

 ある日、いつものように休日ビールの翌日、ターミナルへ行き
アレジャンを経由するパンテルに乗り込む。
バスやパンテルといった乗り物は料金表が無く、
目安でいくらいくらと運転手と話をつけなければならない。
特にアレジャンのように利用者が少ない場所は、
運転手によって言い値が違う。
語学力と交渉力の見せ所である。
また、外国人と見るととかく高値を言ってくるので、
それを現地人の価格まで下げる事は、かなりの根気がいる。
旅行者では、まず値下げは無理だろう。
しかし、この環境にすでに半年以上いる私は、
運転手の言ってくる法外な値段をたやすく値下げすることが出来るのだった。

 アレジャン行きのパンテルを見つけ、値段交渉をする。
運転手は8000ルピア(当時のレートで80円)と言うが、相場は4000ルピア。
4000ルピアで嫌なら、乗らない!と強気で押すと、
運転手はあっさりと4000ルピアで乗せてくれた。
車のシートが埋まるまで、何時間か待たされたが、
出発してからは特に何のトラブルも無く、アレジャンに向かう。
途中の町ペッカエを通過。
パンテルはアレジャンの集落を通過するため、直接アレジャンに帰れる。
実にスムーズな乗り物だった。
アレジャンに着く。
集落に入り、降りたい場所を運転手に告げる。
車が止まる。アレジャンに到着。
運転手が降りてきて、お金を精算する。
4000ルピア。
最初に合意した値段だ。
しかし、お金を手渡すと運転手がごね始めた。
『おい!足らないぞ!10,000ルピア払え!』。
は?
4000ルピアで合意したではないか、なぜ今になって10,000ルピアも要求するのだ?
訳もわからず、まごまごしていると、運転手は今にも殴りそうな勢いで、
『10,000ルピアだ!さっさとよこせ!』と怒鳴り始めた。
困った事になった。

 アレジャン集落には若者が多い。
日頃懇意にしている若者も当然たくさんいる。
村の中心で怒鳴られる私の姿は、当然目立つ。
その怒鳴り声を聞いて、アレジャンの若者がそのパンテルを囲むように集まりだした。
彼らの顔は決して友好的な表情ではなかった。
その中の1人の若者が、
『おい。なにをもめているんだ?田谷、何があった?』と聞いてきた。
私はあるのままのことを説明し、運転手が突然高く値段を請求してきた事を皆に話した。
それをきいてある若者が、運転手に言った。
『田谷は、俺たちの仲間だ。俺たちはキバタに所属している。
田谷に文句をつけるのなら、キバタに文句をつけているのと同じだぞ』。
話し声はごく普通の感じだったが、どこか威圧感のある声だった。
運転手の顔がみるみる青ざめる。
『キ…キバタ…!?』。
運転手は急いで車に乗り、お金も受け取らずに急いでアレジャンを出て行ってしまった。

 キバタ。
少し説明を要する。
インドネシア語のKipas Baru Tanya の略語で、
とりあえず殴ってから事情を聞くという意味がある。
武闘派で鳴らした権太集団の名前で、
マカッサルを拠点に多くの若者を抱えている。
バルにもその支部があり、運転手にとって運悪くも、
バルの支部のヘッドを勤めているのが、アレジャンの若者だった。
自然とアレジャンの若者の多くは、キバタに所属している。
警察でもどうする事も出来ない存在で、バルでの大乱闘事件後、
警察の介入で一時解散する騒ぎも起こしている。
運転手風情では、逃げるが勝ちだったのだろう。
この日はキバタに助けられる形となった。
しかし、後日問題となる。

 そう、パンテルの運転手の間で、私がキバタの一員だと言う誤解が生じ、
パンテルに乗せてもらえなくなってしまったのだ。
実に困っている。
この前、パンテルに乗ろうとした時などは、
例の運転手に鉢合わせになり、
彼の呼びかけで大勢のパンテル運転手が私を囲むと言うひと騒動もあった。
今後パンテルは乗れないかもしれない。

 その後の話。
問題を起こした当時私はひげを蓄えていたのだが、
その後ある事情でそのひげをきれいに剃ってしまった。
それからと言うもの運転手には、私とキバタの一員と烙印を押された日本人の区別がつかず、
パンテルに乗れるようになった。
揉め事よりも少々ぼられても良いと考え、
あらかじめ少し高めに払うようになったのも効いたのだろう。
しかし、しばらくは私が降りた後に、アレジャンの若者が、
『おい、今回はぼられていないか?』と尋ねていた。

関連記事
Comment
Trackback













管理者にだけ表示を許可する

Comment form

田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
taya.tアットマークnifty.com
です。
(アットマークを@に置き換えて送信ください)

プロフィール
07 ≪│2017/08│≫ 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
カレンダー(月別)
カテゴリ
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

メールフォーム

Page Top

Powered by FC2 Blog |

FC2Ad

| Template Design by スタンダード・デザインラボ