昨日のつづき・・・


『異国の紙幣』 下

彼には借金だけが残った。
しかし幸運なことに彼は、全財産は失っていない。
また、彼は暗く落ち込むよりも、行動を起こす事を愛する。
換金性の高い落花生の種を購入し、持っている土地一面に播いた。
天もそうそう1人に不幸を与えやしない。
栽培は順調に行き、少ない土地ながらもかなりの収量を得た。
落花生の相場は、収穫が早ければ早いほど高い。
アレジャン集落の中で彼は、最も早い時期に収穫をした。
彼は成功した。
大丈夫、こうやって稼いでいけば、借金は返せるさ。
そういう明るい兆しが、見え出していた。
さぁ、肝心なのはこれからだ。
どこまで高く売れるかだ。
アレジャン集落に来ている落花生商人は何人もいる。
商人によって買値が異なる。
サハルディンはいろいろな商人と商談をした。
慣れない仕事で根気も要ったが、
その甲斐あってか今までに聞いたことも無い高値で買ってくれるという商人に出会った。
たまたまアレジャンに寄った商人だった。
しかし、彼が支払いの段になったときに、

『残念な事に、今はルピアのもちあわせがない。しかし、キミは幸運だ。私は外国の紙幣を持っている。これでよければ、これで払いたいのだが。もし、この外国紙幣が気に入らないのなら、あとでルピアを持ってくるよ。問題は無い。でも、ルピアで払うなら、もう少し安くしか買えないなぁ』

と言った。
要するに、どこの外国かもわからない紙幣で、
彼の努力の結晶落花生を買おうと言うのだ。
ルピアでは安くしか買えないと言う。
サハルディンは迷った。しかし、少しでも高く売りたい。
彼は、こうして南アフリカの紙幣を手に入れ、落花生の収穫物は全部その商人に売り払った。
そういうことがあってから、何ヵ月後かにサハルディンは私を訪ねてきた。
南アフリカのお札を持って。
彼は
『田谷。このお金はどこの国のものなんだ?どこで換金できる?』、
そう唐突に聞いてきた。
私には何のことだかわからない。
説明を求めた。
彼は、今までのいきさつと商人から得たそのお金をバルの町で換金しようとしたが
出来なかったことを言葉少なく、語ってくれた。
手渡されたその紙幣は、手垢で汚れふちがちぎれていた。
多分この数ヶ月、何度となくこの紙幣を眺め、
はじめの内はこのお札が如何に大金になるかを夢見、
そして今は見るたびに考えたくない絶望を想像していたのではないだろうか。
彼はこう言った。
『きっと、バルみたいな小さな町では、このお札の良さがわからないのだと思う。だから換金できないんだ。田谷がジャカルタ(インドネシアの首都)に行く機会があれば、このお札を換金してきてくれ。ジャカルタなら外国人も多いだろうから、きっと換金できる』。

なぜ、彼は南アフリカのお金で落花生を売ってしまったのか。
これは、インドネシアの不況とアレジャンの辺境性が絡んでいる。
ルピア大暴落の時、テレビやラジオでは、
米ドルと比較した現在のルピアの相場を連呼していた。
それまで、自国のお金に不動の価値があると信じていた村人には、
暴落といわれてもピンと来ない。
しかし、何度となく聞く相場のニュースに、
『そうか、今1ドル何ルピアなんだ』とぼんやりと想像するに至る。
こうして彼らは米ドルという単語を知る。
その認識の多くは、『米ドルは高い。不動のもので、ルピアより良い』といったものだった。
村に2台しかないテレビから得られる情報なんて、完全なものではない。
そんな折に現れた外国の紙幣、南アフリカのお札。
サハルディンは無条件にルピアより高くて良いものだと思ってしまったのだった。
無理も無かった。

機会を得て、ジャカルタに行く。
もちろん、南アフリカのお札も持っていった。
私は不安だった。このお札にどれくらいの価値があるのか分からないが、
はたして換金できるだろうかと。
しかし、1人の青年の夢がこれにはかかっている。
きっと換金してみせる。
早速銀行に直行した。
カウンターに並びながら、両替の順番を待つ。
カウンターの後ろにある看板には、その日のレートが乗っている。
相変わらず低迷したままのルピアが目に付く。
ドル、円、マルク、バーツ、ドン、元、ユーロ、各国の通貨レートが記載されていた。
ずーっと下まで見ていくと…
!あった!南アフリカ!なんだ、あるじゃないか。
サハルディン、待ってろ!今すぐ換金するぞ。
両替の順番が来る。
意気揚揚とカウンターに向かう私。
すこし手垢で汚れているが、サハルディンの努力の結晶であるお札をだす。
換金してください。
店員は少し苦笑気味にそのお札を眺め、
『これ換金できません』と冷たく言った。

それから間もなく、サハルディンは結婚した。
婿養子のような形で、アレジャンから一山超えた向こうのソッペン県にある集落に、行ってしまった。
その結婚の多くの理由に、借金があったと聞いている。
そして、私の手元に南アフリカの紙幣だけが残った。
ジャカルタから帰ってきて、彼に換金できなかった事を伝えると、彼は、
『…そうか…。えっ?紙幣?いや、もうその紙幣は要らない』
とため息をついた。

二度とこのような青年を出してはいけない。
この青年だけではない。
アレジャンはいつもだまされる側にまわっている。
きちんとした情報が少なかったり、たとえ情報がしっかりしていても、
受け手が理解できない事が多いからだ。
この様な事を少しでも無くすために、私がここにいるのだ。
そう自覚し、農業指導の活動を本格的に展開した。
しかしその頃には、サハルディンはもうこの村にはいなかった。

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先日は、ルバーブと根セロリをありがとうございました。
根セロリのカツ、すっごくおいしかったです。スコットランド人とオーストラリア人が一緒だったのですが、2人とも初体験のようでした。
美味しい美味しいと、あっという間になくなってしまいました。特にオーストラリアの子は、ベジタリアンなので喜んで食べていました。
ルバーブは、スコットランド人が懐かしがって喜んでいました。
二人とも、日本の食の豊かさに感心していました。世界中の食材が手に入るんですもの。
ただ、日本の食料自給率は、4割前後なんですね。
その中での、田谷さんの自家菜園は、すばらしいと思います。

また、野菜中心の日本食の生活をして、20kg無理なくやせたそうです。
もっと、日本人も野菜やお米をたべると、簡単に脱メタボできるのでしょうかね。。。。
日本に勉強しに来ている外国人と話をいていると、日本人より、よほど日本人らしいと思います。日本の良いところをよく知っています。

また、珍しくて美味しいお野菜を紹介してくださいね。
美味しい調理法も、発見したいと思います。

しみずさん

コメント有難うございます。
根セロリとルバーブが好評だったようで、なによりです。
先日の来園では、自家菜園まで案内できなくて申し訳ありませんでした。
お連れの方が、ハイヒールを履いていましたので、
近場の圃場のみの見学と、勝手にさせてもらいました。

自家菜園ではいろいろと取れるのですが、
消費できなくて、沢山野菜を捨てています・・・。
ほんとうに狭い菜園なのですが、
収穫物の量がとても多いのです。
冷蔵庫なんて、とっくに満杯です。

こういう菜園をしていると、食料自給率の問題は、
生産力の問題というよりも、社会構成上の構造的問題だなぁ、と
あたりまえなのですが、しみじみ思うことがあります。
だのに、時々、自給率の問題を農業生産力の問題に摩り替えて、
自分たちの都合の良い方向に持っていこうとしている輩も
散見され、危惧しています。
『食べるから考える農ある営み』、これをこれからも追求していきましょう。
美味しい食べ方を見つけたら、教えてくださいませ。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
taya.tアットマークnifty.com
です。
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