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こんなこともあったっけ。
異文化の真っ只中でもがいていた日々だった。


第6話 酒談話

bintang beer

ビンタンビール。インドネシアでもっともポピュラーなビール。

酒談話

イスラムと聞いて読者諸君はなにを連想するだろう。
ラマダン(断食)、毎日の礼拝、コーラン、モスク、そして戒律。
厳格な宗教とイメージする人も少なくないだろう。
インドネシアの8割以上の住民はこのイスラム教を信仰している。
私の居たアレジャン集落もその例にもれない。
しかし、アレジャン集落は、一般にいわれているイスラム教とは少々違った感じを私にあたえたのである。この稿を書くにあたって、あらかじめ断っておきたい事なのだが、私はイスラム教をアレジャンの住民を通じて聞き知っているのみで、それ以外に独自に勉強してはいない。
そのためこの稿で、本来のイスラム教の教えと異なった部分があったとしても、それはアレジャン集落におけるアニミズムとイスラム教の融合による独特の観念であって、本来のイスラム教を非難するものではない。このことを読者諸君が念頭において、この稿を読む事を期待したい。

アレジャン集落に住み始めて3ヶ月たった頃だっただろうか、私はなかなか住民に溶け込めないでいる自分に少々苛立ちを感じていた。どこかでアレジャン集落の住民は、私のことをお客様あつかいをしていた。言葉が出来ない。
習慣が違う。
熱帯気候に慣れない。
それもあろう。
しかし、なにか根っこのところでお互いにお互いを理解できていない気がしていた。
こんな時、日本人だったら何をしただろう?
3ヶ月日本を離れた事で、日本の習慣を思い出すにも少し時間がかかるようになってしまっていた。
・・・そうだ!お酒だ。
会社や大学等々で新人が入ってきた時必ず設けられるのが、『宴会』である。お酒の力をかりて、新しい環境に入ってきた新人に心を開かせ、かつ古参の者も気さくに新人と接する事が出来る。『酒』。水の次に人類に最も慣れ親しんできた飲み物。長い人類の歴史の中で、時には成功者を生み出し、時には敗北者を多く生み出した、酒。この力を借りられれば、アレジャン集落の人とも今ひとつ理解し会えなかったことが、解決されるのではと考えた。しかし、『宴会』をするには大きな障害があった。イスラム教の戒律である。そう、イスラム教信者は禁酒だったのだ。

ある晩、アレジャンの若者連中との談話。
私は思い切ってイスラム教の禁酒について、聞いてみた。
イスラム教は禁酒と聞いたが、やはりみんなも飲まないのか?と。
若者はこう答えた。
『お酒を飲んではいけないとは聞いていない。でも、お酒を飲んで酔ってはいけないと教えられた』。
またこうも言った。
『ビールは時々みんなで集まって飲む。ただ高いのでビンビール1本を4人ぐらいでわけて飲む』。
なんとも寂しい飲み会ではないか。
それならば、私がアルコールを持って来たら?
『もしそうなら、喜んで飲むさ!酔っ払わないように気をつければ良いだけだから』。
どうもアレジャン集落の人は禁酒というよりも、お酒に酔ってはいけないと信じているようであった。
それなら話は早い。早速、街まで行き、地元のウイスキー『ロビンソン』を買ってきた。
工業用アルコールにエナメルか何かで茶色に色付けしたようなアルコール度27%のスピリッツだった。
お世辞にも美味いとはいえない。
しかし、これがこの時私が入手できる最もよいお酒だった。
酒盛りの場は、私の下宿先『100の柱の家』であるアレジャン集落長の家という事になった。
若者はいつの時代も勢いだけで生きている。お酒(禁酒の戒律)についても、自分たちの都合の良いように考えているのかも知れなかった。そのため、集落の長であるラエチュ氏の家で酒盛りをすることは、はたして大丈夫なのかと心配が残った。
しかし、若者たちは私の心配を意に介さない。車座になってコップを用意する若者。
しょうがなく、私は『ロビンソン』をついでまわった。
冷蔵庫なんて無い。だから氷も無い。
割る水はあったが、生暖かくて薄まったウイスキーは、私の趣味に合わないため、この場はストレートでゆくことにした。
注がれたコップを見て凝固する若者。中の液体をのぞきこむ者。臭いをかぐ者。コップの中の液体を光に当てて目を細める者。いろいろな反応を示すが、誰も呑もうとしない。ひとりの若者が言った。
『これはビールではないね』。
そう、彼らはビールは飲んだことあったようだが、ウイスキーは知らなかった。
それを尋ねると、若者たちは一斉に反発した。
『飲んだことある。毎日飲んでる。大好きさ、ウイスキー』。
そうこうと問答をしていると、騒ぎに気がついたのか、集落長のラエチュ氏がでてきた。彼は若者の持っているコップを取り上げ、私をにらみつける。
やばい。やはり若者がイスラム教の戒律を都合の良いように解釈していたのだ。
しかし、ラエチュ氏はにっこり笑って、
『酒は私も好きだ。飲むなら言ってくれなきゃだめじゃないか』。
早速集落長の分もコップが用意され、酒が注がれる。
しかし、彼も若者と同様、コップをにらんで固まってしまった。飲み方を知らないのかと聞くと
『知っている』と答える。
まったく強情な連中だ。しょうがない。私が飲み方を示す事にした。
いいかい、ウイスキーは一息に飲み尽くすんだ、と教え、
その場でウイスキーをストレートで一気飲みした。
それを見た集落長、知っていたといわんばかりの顔で、ウイスキーを一気のみ。

次の瞬間。
『がー、げぼっげほっげろっ』のどを焼き尽くすウイスキーにむせ、咳き込むラエチュ氏。
少々悪ふざけすぎたか。
しかし、咳き込んだ勢いで鼻からウイスキーを垂らしている彼は、
満面の笑顔で親指を立て『Enak(おいしい!)。もう一杯』。
若者たちも長に続けと、一気のみで同じように鼻からウイスキーを垂らす。
そして、『美味しい!もう一杯』。
ウイスキーを鼻から垂らした間抜けな顔々にお互い大笑い。
その夜はそれ以上お酒は飲まず、談笑して過ぎた。
どこか根っこのところでお互いつながりを感じることが出来た夜だった。

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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

俳句もしております。「雪解」「街」「いつき組」に所属しております。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

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