今もこれについては後悔している。
なぜあの時、彼について行かなかったのか、と。
アレジャン集落の若い連中も、その話は良く知っていた。
もっと聞き取りをしておけば良かった・・・。

第2話 長老伝説

kepala dusun


『田谷、今日は仕事に行ってはならない』
そう、それは突然の出来事だった。いつもの朝。いつものように朝食を終え、いつものように仕事に向かうはずだった朝。仕事場に向かうペテペテを待つ私を、アレジャン集落の集落長が呼び止めるまでは、その朝は特別なものではなかった。
『田谷、今日は仕事に行ってはならない』
彼は私に近づき、そしてゆっくりと言った。

唐突に私を呼び止める集落長に、少々面食らいながらも、どうしてなのかと私は尋ねた。彼は言う、
『今日はこの村の一番の年寄りにお前は会わなきゃならない。だから今日は仕事に行ってはならない』
どうも意味が通じない。一番の年寄りに会うのは良いとしても、何故一日の仕事をぼうにふるわなければならないのか?いつもの私だったら、適当に集落長をあしらって仕事に向かっていただろう。しかし、その朝はいつもと雰囲気が違っていた。いつものようにうまくあしらえないでいると、彼はこう言った、
『信じないかもしれないが、その一番の年寄りはこの集落内に住んではいない。集落の奥にある森に住んでいる。しかし、誰も家の場所を知らない。彼に会うには森の中で待たなければならないのだ。一日待っていても会えない時のほうが多い。が、今日は彼に会える日なのだ。』
話が見えない。なぜ私がその年寄りに会わなければならないのか?とたずねた。
『彼が田谷に会いたがっている』
不気味な話だ。

とにかく、詳しい事を聞こうと思い、集落長にその一番の年寄りについてたずねた。
『彼の年齢は800歳。あまりにも長生きしたので、髪の毛全てが白髪でしかも長い。体中がその白髪で覆われていて、目がとても大きい。顔は猿のようで、人の考えている事を言葉にしなくても理解できる。』
ここまで来るともはや妖怪の話だ。
『しかも、気をつけなくてはならないのが、決して目を合わせてはいけないということ。どんなに呼びかけられても、彼の目を見てはいけない。』
私は問う、目を見るとどうなってしまうのか?と。
『彼と目が合うと・・・食べられてしまう。』
そんなあほな・・・。

ペテペテが来る。いつものように乗り込む私。なにかを言っている集落長を横目に。私には農業指導の仕事が待っている。集落長には申し訳ないが、妖怪伝説には付き合っている暇が無い。走り出すペテペテ。それでもなお、何かを言い続ける集落長。どこか気持ちの座りどころが悪くて、走り出すペテペテの窓から、今度機会が会ったらその長老に会いに行きます、と言った。

仕事後、アレジャンに戻る。集落長に長老の話を聞きに行くが、彼はもうその事には触れなかった。3年間アレジャン集落に住んでいたが、結局白猿の長老話は二度と聞かなかった。しかしあの時の集落長の真剣さぶりは、ただの妖怪話で片付けてしまう事が出来ないものがあった。白猿の長老は本当にいたのだろうか?今となっては知る由もない。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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メールは
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