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相川 明子 編著 『土の匂いの子』.2008年.コモンズ.

本書は、園舎を持たず、自主運営で青空保育を実践し続ける「なかよし会」の記録である。

我が娘の通う保育園で、園舎の増改築を自主的に行う運動をしている。その中で、賛成側からも反対側からも園舎の意義について、それで保育の質が向上するのかどうか、が議論された。結果的には、保育の質向上につながるとして、園舎増改築の運動は現在進展中である。しかし、今一度、保育にとって何が必要なのかを考えたいがために、この本を手に取る。また、園児による体験田んぼを主催するに当たって、土との経験が子どもたちにはどう影響があるのか、それも知りたくて、この本を読む。

本書は、4部の構成となっている。園舎を持たず、自然溢れる谷戸(鎌倉)で、その自然と戯れながら1日を過ごす子たちを描いた第1章「子供が育つ」。自主運営でカリキュラムから保育当番、そして畑作り、など保育活動に参加する親たちを描いた第2章「親が育つ」。そして自然溢れる谷戸が、行政により公園に整備されていく中で、その自然を保全しようと「なかよし会」は運動体へと変化をとげる。さらには、その公園の保全ボランティアとして父母たちが社会へ新たな関わりを見つけていく第3章「社会とかかわる」である。最後になかよし会に入っていた園児OBアンケートが、第4章として紹介されている。

どの章も写真を多用しており、しかもインパクトの強い写真ばかりで、子どもの能力の高さを改めて思い知らされる。頭か足先まで泥んこになったり、虫を鷲掴みしていたり、素っ裸で谷戸を走り回っていたり、もぎ取った木の実をくわえていたり。自然とのかかわりの中で、五感をフルに使い、大きく成長していく様が捉えられている。そこには、汚れたら大変、や、怪我したり病気になったりしたら、などという親の先回り的な心配は微塵もない。子どもはこう育つのだ、という強いメッセージを本書からは感じる。

また青空保育による自然とのかかわり以上に、本書では、父母による自主運営、もしくは運営に主体的にかかわることで、かかわった人間が大きく育つことを強調している。私はこの点に刮目したい。運営にかかわることで、保育が誰かに預けて自己の時間を作るだけの消極的な意味合いから、保育を通して関わり合いを深め、そのコミュニティの成長と共に自己の成長にもつながっていくという発展的な意味合いとなっている。子育てで人生を二度生きることができる、というメッセージは、強く心に残った。そして自主的な関わり合いが身についた親たちは、社会にも同じように積極的に参加するようになる。

なかよし会は素晴らしい。しかし、この会は、ある意味理想の形ではあっても、それが現社会の中で、すべての人に受け入れられる形かどうか、という面で疑問は残る。青空保育や自主運営面では、何の疑問もないのだが、保育者以外に、保育当番を父母が順番で受けるシステムは、フルタイムの共働き家族にはそもそもこれらへの参加は非常に困難であろう。また消極的な意味合いとして、保育を自己の時間を作るため、と上記したが、保育に預けるというのは、そういう意味合いも大きいのだ。週に3回だけの青空保育では、参加できる家庭が限定されてしまうであろう。また病児保育や未満児保育、夜間保育など、現在の社会構造の問題であろうが、現にそういう親たちの悲痛なまでのニーズに、この会はどう答えていくのか、それに疑問が残る。理想的なものだけに目を向けて、参加できる人だけを吸い上げていくのであれば、私はやはりもろ手をあげては賛成できない。

園舎が絶対視されている保育園の増改築運動のなかで、なかよし会の有り様は、一石を投じるものであろう。また五感をフルに使い自然の中で過ごすことの素晴らしさや、それに親たちが主体的に関わることで、自分の成長にもつながっていくという点で、大変面白い本である。しかし保育という過程だけを切り取ってみれば、本書は面白いのだが、矛盾と歪みを含んだ現在の社会の中で、本書の理想はどこまで、幼い子どもを持つ親たちを受け入れられていけるのか、その点に疑問は残った。本書を通して、その点がはっきりしたことが、私にとっては大きな成果である。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

俳句もしております。「雪解」「街」「いつき組」に所属しております。

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