フランシス・シャブスー 著 中村 英司 訳 『作物の健康』:農薬の害から植物をまもる.2003年.八坂書房.

この本は衝撃である。
本書は1985年にフランス語で書かれた。それが約20年の歳月を経て、ようやく日本語に訳されたのだ。日本語訳と同時期の2005年には、英訳でも刊行されている。

この書を手に取ったのは、2005年のインドネシアだった。英訳されたばかりの本を、ボゴール農科大学大学院で担当教官から紹介され、「これから農業をする人は、必読です」とプレゼントされた。その先生も、学位をとったフロリダ大学から、出版されるや否や本書が送られてきたとのことだった。それほど本書は衝撃的なのである。

英訳本は、僕の能力のなさから数ページで断念したが、どうにか和訳を探し当て読む。
本書では、農薬と作物内の代謝の変化、それと病害虫の増加の関係を、「栄養関係説」という新たな視点から解読している。農薬の散布後に、害虫や作物の病気が大発生したという経験はないだろうか。僕はある。そしてそれはこれまで、農薬散布によるリサージェンスであり、農薬散布により天敵が減少し、そのために害虫や病気が大発生したと、説明されてきた(その他に、害虫の抵抗性獲得、抵抗性をもった害虫が農薬の刺激をうけて異常繁殖、などと説明付けられてきた)。しかし本書では、そのようなダーウィン主義の見解による説明のみに反対している。「私たちの見解によると、「生物界の均衡の破れ」は結果的に天敵がいなくなるといったことだけではなく、生物界での栄養摂取環境が乱されることである。つまり、作物体内の生化学的状態が新しい合成農薬の導入によって変化を受けるということである」(p3)。著者は、合成農薬によって、作物でのタンパク質合成が抑制され、そのことによって作物の病害に対する感受性が増大し、害を受けるとしている。「寄生者を殺そうとして使われた農薬の毒性は宿主である植物に対しても同じように働き、植物を保護する代わりに寄生者に対する感受性を強めるという事態がおこりうる」(p65)のである。
本書では科学的データをもとに、農薬散布をすることで、微量要素欠乏が起き、それによって作物内のタンパク質合成が抑制され、可溶性養分が体内に蓄積され、そのことで寄生者の栄養が改善され、寄生者の増殖と活力の増大へと繋がっている、と説明している。85年に書かれた本のため、農薬の種類などがどうしても古いのだが、合成農薬が含む窒素や塩素が作物に必要な微量要素摂取の均衡に影響を与えるくだりは、現在でも通用するだろう。自分たちが現在使っている農薬の成分を調べてみるといいだろう。現在でも多く農薬に窒素や塩素がふくまれているはずだ。
また本書では、リサージェンス現象が抵抗性の獲得と農薬による病害に対する栄養条件の改善が混同さ強調文れていると指摘している。

著者は、「農家の裁量に任されているのは施肥、接木、そして作物の健康を考えたそのほかのあらゆる栽培管理技術の三つである。この三つはともにタンパク質合成を高めるという意図をもって行うべきで、寄生者を毒物をつかって絶滅させようとしてはならない」(p202:太字傍線は書評者によるもの)と衝撃的な指摘している。

作物体内のタンパク質合成が抑制されるか高められるか、そこに新しい病害虫防除の鍵があるように思えた。農業を志す者は、是非とも本書を読まれたい。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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