柴田 明夫 著 『食糧争奪』:日本の食が世界から取り残される日.2007年.日本経済新聞出版社.

グローバル化する農業の風景を経済の立場から眺めて書いた本。
本書は、日本の自給率の低さから(他国依存度が高い)、人口大国(中国・インド・ロシア・ブラジル等)の先進国へのキャッチアップにより、深刻な食糧争奪の危機にさらされていると警告している。世界の穀物取引に関する統計から、穀物市場の脆弱性を指摘し(p30-32)、(旱魃などの影響もあるが)現に在庫を切り崩す形で消費が進んでいる状況を示している。

また人口大国で世界の食糧市場に大きなインパクトを持つ中国の食生活の変化や農業構造と食料供給構造についても言及している。中国では自給率を上げる方策がとられおり、ある程度成果が見られるものの、著者は今後も穀物輸入は拡大傾向にあり市場へのインパクトはこれまで以上になるであろうと予測している。その他、水資源の争奪や、食料に異物が混入するとして遺伝子組み換え作物やBSE・鳥インフルエンザなどの問題にも言及している。
また自給率の低い日本の農業の現状にも言及している。著者は、その解決の鍵として「農地」の利用促進を上げている。担い手に土地が集積し、効率良い生産を行い、また団塊の世代やセミプロ農家なども取り込み、生産性の向上ばかりだけでなく、農業の多面的機能(環境問題)の発揮も促している。最終章では、EUのように日本も東アジアにおける共同体構築が必要と説き、中国に対する技術的支援のみならず、中国農産品の受け入れなどを促している(p252-254)。

さて、ここまで本の構造が読めない本も珍しい。全般的には食糧危機を示すデータを集めたかったのだろうが、それぞれの問題の構造を指摘してはいるものの、表面的にしか考察されておらず、議論がチグハグな感じを受ける。穀物市場の構造と現状については、解りやすくまた論理的にも受け入れられるのは、たぶん、著者の十八番なのであろう。しかし、BSEやGMO、鳥インフルエンザは、同様な食糧危機の問題ではなく、それぞれまったく違った性格を持っていることに言及されていない。たとえば、鳥インフルエンザは現代の問題ではなく、これまで長きに渡り人類とウイルスとの格闘でもあったし、BSEは生産構造上の近代化の問題を含んでおり、GMOはそもそも食に対する思想が近代性の負の面に犯されている問題である。さらに日本の農業問題では、「農地」が鍵だとするが、そもそもなぜ現在の農地利用になってしまったか対する考察・言及がまったく無い。そのため、現在だけを切り取り、乱暴な農地改革を振りかざしているように読めてしまう。一方では担い手による大規模農業を押しつつ、農業の多面的機能の部分で、アマチュア農業やセミプロ農業など小農的発想になっているが、市場においてその2つの農業が並存するために必要なインセンティブの説明が無い。中国農産物の受け入れを進めれば、国内農業は中国農産物との間でさらなる分業化を進めることになりかねないし、農地問題で構造上の問題としてあげている兼業農家と、多面的機能で上げているアマチュア農業・セミプロ農業の違いなどもあやふやなまま。一方は問題なのに、一方は解決策のひとつにあげられており、明らかに論理展開の失敗としか言えない。

何でもかんでも盛り込んでしまって、自分の手には負えなくなってしまった、という感じを受ける本。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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