戸田山 和久 著 『科学哲学の冒険』:サイエンスの目的と方法をさぐる.2005年.NHKブックス.

本書は、科学的実在論の立場で書かれた科学哲学の入門書である。
科学は、世界を理解しようという試みである。しかし、科学は本当に世界を理解できるのだろうか。そのことに疑問おき、仮にもし科学が世界を理解できうる活動だとすれば、それはなぜか、を問うのが科学哲学の分野である(この考え方自体が、ちょっと実在論よりか)。

本書は、大学1,2年生を対象に書かれている。内容も対話形式で読みやすい。
3部構成になっており、第1部では、科学哲学とは何か?や、科学の方法(演繹・帰納)、科学の目的や説明などの基本を押さえている。第2部では、科学哲学のそれぞれの立場を説明し、実在論の立場で、社会構成主義・反実在論と対決する。第3部では、実在論の立場に立ち、科学理論とは何か?を帰納の正当化も含めて議論している。

科学を哲学ではどう捉えようとしているのかは、それぞれの視点がどう捉えようとしているかを見ていくことで、解ってくる。まず、世界はあらかじめ秩序や構造を持っていて、人間の認識活動(科学も含まれる)とは、独立に存在しているかどうか、を考えなくてはならない(独立性テーゼ)。次に、認識とは独立した世界があり、科学理論はその正しい描写を目指すものなのだが、それに成功するかどうかが問題となっている(知識テーゼ)。実在論は、知識テーゼも独立性テーゼも認める立場である。

独立性テーゼを捨てた考え方として、社会構成主義がある。この立場では、世界の秩序は科学者集団の社会的活動によって世界の側に押し付けられるものだ、と考える(p148)。つまり人々の認識から独立した秩序や構造をもつ世界は無く、人々がそういう見方をするから、秩序や構造をもつ世界に見える、という考え方だ(科学的事実はすべて社会構成物)。
知識テーゼを認めるか認めないかという議論では、実在論と反実在論が争っている。反実在論は、知識テーゼを観察不可能な対象についてだけ否定する(電子など)。マクロな物体の振る舞いや法則については知りうるけど、観察不可能な理論的対象についての語りを含む科学理論が世界についての文字通りの真理を語っていると信じる根拠はないと主張する。反実在論の立場に立てば、出来るだけ多くの観察可能な真理を帰結するような理論を構成して「現象を救う」ことが科学の目的であると考えている(p160-161)。

また第3部では、実在論と反実在論の議論の中で、理論を文の集まりだと考えて議論していること(文パラダイム)が問題だとして、科学理論の意味論的捉え方を提唱する。文パラダイムは、三つの理由で科学理論のさまざまな側面を理解する妨げとなる。①科学的説明を一種の推論と考えるため、文パラダイムでは原因突き止め的な説明をうまく扱えない。②文パラダイムは、理論の説明力を法則の必然性と普遍性に求める。しかし、科学理論のなかには、そうした法則と呼べるものを含まないものが数多くある。③文パラダイムは、「一つの同じ理論が手直しされながら徐々に変わっていく」ということがどういうことなのかをうまく捉えられない(p225‐226)。意味論的捉え方では、理論を文の集まりと同一視するのではなく、むしろ文の集まりが当てはまるモデルと考え、そのモデルは実在システムそのものではなく、実在システムの単純化されたレプリカであり、理論(モデル)と実在システムとの間には、類似関係が成り立つ、とする(p232-233)。この捉え方によって、実在論が認める知識テーゼを認める一助になる、としている。
またヒュームが否定した帰納の正当化では、自然主義的な態度で科学哲学をすることを提示する。「帰納がうまく働くかどうかは、この世界がどうなっているのかに依存している」(p261)という素朴な考えから、我々が住むこの世界の中で、目立つ現象の中に斉一的で周期的であるようなものがかなり存在する、そんな場所だから「帰納するようにできている」われわれがいる、と結論付けている(p266)。

ボゴールの大学院時代に科学哲学を受講したが、その時は反実在論の立場に立つ先生の講義だったため、実在論的見方への懐疑ばかりが身についてしまっていた。本書は、逆に実在論の立場から、科学を端的に説明している良書。意味論的捉え方や自然主義的な立場で哲学をすることには、かなり共感を覚えた。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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