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山岸 俊男 著 『社会的ジレンマ』:「環境破壊」から「いじめ」まで.2000年.PHP新書.

社会は今、多くの社会的ジレンマの問題に直面している。副題にもあるように、環境問題も然り、いじめの問題も然り。社会的ジレンマとは、一人一人が、こうすればよい結果になる事を知りながらも、それをしない、さらには、それをしようと意思の強い人ほど、ひどい目にあってしまう(もしくは損をしてしまう)、という問題である。

本書では、社会的ジレンマを平易な文章と、わかりやすい事例で紹介している。「わかっちゃいるけどやめられない」という状況を脱出するには、それを守らない人に課す制裁や規制を強くしたり、教育を強化したりすれば良いと、我々は思いがちであるが、筆者は、それには限界があり、さらに2次的ジレンマの問題に陥る事を指摘している。たとえば制裁や規制を強くすれば、ある程度は社会的ジレンマの問題の解決にはつながるだろうが、その制裁や規制を行うことのコストが大きくなれば、それを行い続けることは困難になってくる。また教育をもってして、他人のために行動しなさいという基本的に人間性に反する行動をとるようにしても、うまくは行かない。なぜならば、教育の成果には個人のばらつきがあり、社会的ジレンマが起きている状況においては、教育の成果が良く愛他的な行動に出る人ほど、利己主義的な人の搾取にあうばかりで、その人は常に清貧に甘んじる、というジレンマに陥ってしまうからなのだ。社会問題の解決において、精神論ばかりに帰結してしまう世論において、本書の指摘は重要な意味を持つだろう。

10年前に出版された著者の社会的ジレンマの本では、ゲーム理論の繰り返しの実験から、利己主義を徹底していけば、愛他的行動に行き着く、と結論付けられていた。そしてその徹底した合理的な利己主義(利他的利己主義と筆者は名付けていた)こそが、社会的ジレンマの解決の糸口になるとしていた。

しかし、本書では「合理的な利己主義者が協力行動を取るのは、えびで鯛を釣れることができる場合だけです(協力行動を取ることで得られる長期的利益がえられる場合)。現在のように、社会に存在する大規模な社会的ジレンマでは、このような「えびで鯛の原理」がうまく働きません」(p210)と結論付けられている。では、社会的ジレンマの解決には何が必要なのか?本書では、その解決には、「みんなが」原理が働きやすい環境に整備すればよい、としている。「みんなが」原理とは、「みんなが協力するなら自分も協力するが、誰も協力しないのに自分一人だけ協力して馬鹿を見るのは嫌だ」(p142)という行動原理のことを指す。本書ではさらにこの「みんなが」原理は、「私たちがほとんど意識しないままほぼ自動的に生じているらしい」(p181)と著者は指摘する。さらに、この「みんなが」原理は、何百万年という人類の進化の過程で身に着けてきた能力の1つとして、大脳の中に組み込まれてきた認知モジュールの1つだと論じている(筆者はこれを社会的交換モジュールと呼ぶ)。

以上の事から筆者は最も重要な指摘をしている。「社会的交換モジュールの働きにせよ、感情の働きにせよ、一般的に非合理的で「おろかな」心の働きだと考えられていますが、その中にこそ、合理的な利己主義者には手におえない問題の解決を可能とする「本当のかしこさ」が隠されているのだというのが、(中略)筆者の主張です」(p213)と結論付けている。

途上国援助において、モラルの無さや正直者がバカをみる社会的ジレンマの問題に直面することは、多くある。インドネシアの留学生とも議論になった、ゴミ問題もそのひとつだろう。ただその場合、我々は教育の質の問題や、文化の問題にしてしまいがちである。中には、ひどい人になると、自民族優位主義などを持ち出す人までいる。そのようなロジックに陥りがちな我々に、本書は正確に社会を見抜く視点を提示してくれているのである。社会的ジレンマの問題は、「みんなが」原理が起こりうる環境を整えることで(限界質量と行動の変化については、p192)、行動の連鎖反応は起き、解決へと向かっていく。この指摘は、今後大きな意味を持つであろう。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

俳句もしております。「雪解」「街」「いつき組」に所属しております。

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