渡植 彦太郎 著 『仕事が暮らしをこわす』:使用価値の崩壊.昭和61年.農文協.

内山節の著書でたびたび紹介されている渡植彦太郎。内山哲学の中にも渡植の思想が取り入れられているので、読んでみようと手に取った。

本書は昭和61年に書かれたものであるが、現代でも十分通用する、いや、今だからこそ読まれたい本である。

渡植は、その鋭い視点で、もの(商品を含む)の持つ価値について考察している。まず渡植は、テンニースのゲマインシャフトとゲゼルシャフトの社会類型の概念を用いて、現代の資本主義下における社会を分析する。このあたりは、少々古臭い観は否めないが、生活集団から仕事集団に社会構成が移っていく中で、購買力を維持するため(もしくは高めるために)自身の労働を切り売りしなければならなくなってくる、という点は現代でも重要な問題のひとつだと感じる。

では、商品となった労働を通じて購入できるものはなんなのだろうか。本書の第2章では、商品の持つ価値について考察されている。資本主義下においては、商品の価値は量的に決められている。が、使用価値は本質的に質的なものであり、量的なものではない。その様な中で使用価値は無視され(本質的に質的なものを無理やり量化して)、文明社会の人々は、いわば無意識の中でほかのあらゆる社会活動を導く価値を無視して、あるいはこれを量化して、価値の空白遅滞をさまよっているにすぎない、と指摘する。つまり労働を切り売りして保持している購買力で購入できるものは、使用価値の低下した(もしくは無視された)商品にすぎないという。

本書が特に優れている点は、使用価値について深く考察している点である。この点は、内山哲学にも生きている。渡植は、価値とかかわりのない労働は価値とかかわりのない人間の欲求を充足する使用価値を生産する、と指摘している。彼は、商品としての労働力でない労働には、必ず何がしかの『技能』が伴うという。この技能は、専門家の特殊な技能ではなく、金銭との引き換えでなく、一家のためであろうと、他人に頼まれてにせよ、心を込めて労働しているなかにおのずからにして身についてくる能力である。そして、仕事集団の中で労働力を商品として購買できるものは、この『技能』の伴わない使用価値をもつ商品だと指摘する。

本来、人間の営みに必要であったはずの使用価値は、資本主義下の社会が進む中で無視されていき、必要としていた使用価値を得るために労働力を商品にかえていた人々は、必要な使用価値を持たない代替品を購入するという悪循環にはまりこむ。しかも労働力を切り売りする中で生産される商品もまた、必要な使用価値(技能)を持たない。まさにそれらは、副題にあるように、使用価値の崩壊にほかならない。

この渡植の論理には賛否両論であろう。だが、まさに今、この考えは我々に多くの示唆を与えてくれる。長きに渡りデフレを経験した我々には、商品の価値(価格)に対する信頼がまったくない。一体なぜそこまで安くなるのだろうか。

100円ショップもそうである。これらは安いというだけで、本来の価値の一部をほんの少し備えているだけで、まったくの代替品としかいえない(形ばかりは一緒でも、すぐに壊れるし、使い難いし、ときには安全じゃない物質で作られている)。それらに埋もれて、我々は本当に豊かといえるのだろうか。

我々が必要とする価値とは何か。本当ならば、それらは至極当たり前にわかっていることなのだろうが、資本主義下で息をするしかない我々には時々こんな簡単な事もわからなくなる。本書は、その答えを探すのに一役買ってくれる本。価値について疑問を持った方は必読。

ただ、使用価値がその固有のものの中に存在しているような書きぶりであるので、どうしても白黒つけたような議論になってしまっているのが残念。このあたりを乗り越えるのは、内山節著の『貨幣の思想史』の最終章を読む事をおすすめする。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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