原 洋之介 著 『「農」をどう捉えるか』:市場原理主義と農業経済原論.2006年.書籍工房早山.

農をどう捉えるか、と題をうってあるが、農業を経済学でどう捉えてきたか、というほうがより本書を的確に表現できるだろう。現在、資本主義のグローバリゼーションの一環として、資本主義的競争を原理とする市場経済が世界中の農業部門にも浸透しはじめている。そんな中、WTOやFTAなどで日本の農産物関税が大きな問題の焦点となっている。筆者は、『どの地域の農業も、世界基準とされる画一的な市場制度に「合理的」に適応していけるのだろうか』と問いを立て、日本の農業経済学発展を明治期の農正論からサーベイすることで、農業の地域独自性とそれを農業経済学がどう捉えてきたのかを明らかにする。そして最終章では、それぞれの地域・国を比較しつつ、新古典派経済学の市場原理主義とは別にそれぞれの農業をどう捉えていくべきなのかを探る。

明治・大正・昭和の農政論や農業経済学各理論の検証を通じて、筆者は農業における経済循環や市場経済取引が完成された状態にあるという経済理論を暗黙の前提とはできないことを示している。農業における土地、労働、資本といった生産要素の利用とその価格形成(それら要素の市場)は、何らの制約もなしに完全に競争的になっているわけではない。現実的には、『土地や労働力の取引は、その土地や労働者をある程度知っている経済主体間だけといった、空間に限られた範囲内での相互依存型戦略ゲームとして成立する。市場が不完全であるかぎり生産要素の利用は、「戦略型補完性」ないし「制度的補完性」の下に置かれつづけることになるのである』と指摘する(p184-5)。その上で、『「農業部門で戦略的補完性」をもってその配分・利用が決められている以上、経済の全部門を連結させるにしても、要素市場が長期的にも完全競争的に機能することはないだろう』と述べている。歴史的発展の考察を経て、要素市場がそれぞれの地域の制度や価値感に大きく影響を受けて不完全化している現状を見るに、政策介入を撤廃したとしても、市場メカニズムが効率的に機能するとは期待できないであろう。その上で、特定の地域における独自の農業経済学の確立を強調している。

新古典派経済学が、農業部門を席巻する昨今、原氏の指摘は大きな意味を持つように思われる。経済学用語が多く、その意味では門外漢の自分としては、読むのに一苦労。また本書は日本農業経済学の歴史的発展の検証が大部分を占めるのだが、その膨大な議論を250ページほどにおさめてあるためか、論旨が見え難い部分も多い。ただ筆者がもつ考察のフレームワークはとても素晴らしく、必読の書。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

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