たまには書評でも。
積読が増えた理由に
この本があげられる。
というのも途中で何度も
読むのをやめようと思った本だから。

松尾雅彦 著 『スマートテロワール』:農村消滅論からの大転換.2014.学芸出版社.

さて、何から書こうか。
著書は地域内自給圏の構築を提唱している。その自給圏自体のゾーニングの記述はやや曖昧で、自然環境や歴史的なつながり、郷土愛、現在の経済圏など地域住民から見て一体感のある地域としているが、このゾーニングが著者のスマートテロワールを支える論理の骨子であるのだから、ここは丁寧な説明が必要だろう。もしや思いつきか?と思えてしまったことで、僕の読書はここで1回躓いた。
さて気を取り直して、スマートテロワールだが、無駄のないスマートな、特徴ある地域という意味で、ゾーニングした地域内で食料やエネルギー、経済の自給圏を作りましょう、というのが著者の論点。瑞穂の国という幻想を捨て、米作だけを行うのではなく、地域内自給を考えて、他の品目を多く取り入れていこうというのが著者の意見。ちなみに著者はこれらの自給圏ではエネルギーや経済など多岐にわたる分野も含めての自給圏を提唱しているが、本書では農業に重点を置いて記述している。
さて、その他の品目であるが、著者は加工可能な穀類・エステート作物と、飼料用作物そしてそれに伴う畜産の振興を提唱している。著者はカルビーの元社長であるためか、契約栽培による加工可能な作物にかなり主眼を置いている。減反した水田100万ヘクタールをカルビーの契約している面積とスナック製品の売り上げから試算して、減反分で15兆円分にあたると試算している。しかし、この論理はあまりにも雑だ。日本の食品市場は24兆円程度で、これに15兆円も上乗せができるだけの『人』がいない。海外からの輸入を国産に切り替えるナショナルブランドの形成が大切だと著者はいうが、価格的には疑問符が取れない。飼料用の作物も、資料用米などの取り組みが昨今うるさく言われているが、あれも補助金が無ければ成立せず、その税収をどう賄っていくかの議論はうやむやのままだ。TPPが成立すれば関税収入が激減することが予想され、一部では税収が減になるので、関税撤廃で価格が低下した農産物に対する補助を財務省がしぶっているとも聞いている。しかも飼料用米は食料・農業・農村基本計画の中で平成37年まで生産拡大するように明確に位置づけされているから大丈夫という行政側の説明もあるが、集団的自衛権の議論を見ていると過去に閣議決定されたことなど簡単に撤廃して新しく自分たちの都合よく作り変えていくプロセスを同時進行的見せられると、その法律で明確に位置づけされてもそれが実行される保証は全くない。あまつさえ、憲法違反であってもそれをまかり通そうという、もはや法治国家の体をなしていない現状では、まったく信頼に値しない。とちょっと議論がずれたか。
つまりは、飼料用の作物は低価格の海外産に助成金なしでは太刀打ちできないということ。そしてその助成金は国民の理解を得つづけることができるものなのかどうか、その見通しないこと、その点で論理が崩壊してしまうと言いたい。
さらに、人こそ農村の最大の特徴だと著者は論理展開しているが、飼料用作物や加工工場向けのエステート作物の場合、海外からの輸入に替わっていくには、大規模で機械化を推し進め、低コスト生産が必須になる。つまり、農地にへばりついていた兼業農家をひっぺがし、農業界からの退場を促さないといけない。これはこの前の東海北陸ブロックでの県青協委員長会議で議論したこともあって、この方向への要求は農業の現場でも強い(この内容はまた後日記述しよう)。だが、農村としてのコミュニティはそのことでどのような変容を起こすのだろうか。地域に対する愛着は、農地という縛りがなくなった状況で、世代間でも受け継がれていくのだろうか。農村は寝に帰るだけに場所になりはてやしないだろうか。もっと若い世代はよりよい教育と職を求めて、今以上に農村を出ていってしまわないだろうか。エステート作物の加工場を作って女性の活用を、と記述する著者が見る未来を僕は同じように見ることは不可能だ。ヨーロッパの先進中山間地の事例を並べ立て、日本の農村の現状分析には全くといっていいほど記述がない。それがこの著者の視点だ。
夢を語るのは良いだろう。ちょっと奇抜なアイディアで人を引き付けるのも良いだろう。だが、それがまったく現状からスタートしていないことに、僕はこの本度読んでいる間中、いらだちを感じた。読みやすい平易な文章だが、どこか上滑りしていく論理展開、そしてカール・ポランニーを多く引用しながらも社会に埋め込まれた経済そのものに焦点を当てないその視点にいちいち腹が立ってしまって、読了までにずいぶんと時間がかかってしまった本。批判することで自分を再確認する作業が必要ならば、読んでも良いが、時間のない人はスルーで問題ない。


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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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メールは
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