ジュールス・プレティ著 吉田太郎訳『百姓仕事で世界は変わる』:持続可能な農業とコモンズ再生.2006年.築地書館.

エセックス大学環境社会学教授が、世界52カ国の事例をもとに、現代の農のあり方をグローバルイシュー(特に環境問題)とともに考察した本。

著者は、世界各地で営まれてきた伝統的な農業は、環境を破壊するのではなく、それどころか自然を生み出してきた要素でもあるという。原生自然についての議論においても、なんらかの人的な操作が介在しているとし、自然と対置して人類を考える愚かしさを説く。それを踏まえたうえで、近代的農業を鋭く批判する。モノカルチャーと生産重視の農業が、如何に自然に、そして我々の生活環境に大きな脅威になっていることを指摘する。

大量生産大量破棄のなかでは、農家自身の経営コストと流通価格のみで、コストについて考えられているが、大量に同じものを生産することで環境に負荷をかけたコストは常に表に出てくることは無い。奇しくも白菜の大量廃棄の年でもあり、この記述には興味深く読めた。メディアでは廃棄する農家の悲痛な映像が流れていたが、それら農家がこのコストを考えることは無いのだ。全体の積み重なったコストを考えれば、空恐ろしい。

本書では、途上国で進む有機農業革命も紹介されている。近代的農業から有機農業や伝統的農業へのパラダイム転換を促している。特に、立場の弱い農民(小作・土地なし農民・近代的農業において競争力の無い農民)などは、このパラダイム転換によって大きな利益を得るだろうと指摘する。日々の物資にも事欠く農民こそが、有機農業や伝統的農法によって自らの手で食糧を確保できるのであると。

また地産地消やスローフード、遺伝子組み換え農産物、さらにはソーシャルキャピタルとコモンズの再生まで、幅広く農業に関する問題を取り扱っている。コンパクトによく1冊にまとめたものだ、と思うのだが、それが本書を曖昧なものにしてしまっている。一つ一つの事例を検証することは、僕には不可能だが、インドネシアのケースにおいては、著者の記述は正しくない。総合病害虫防除(通称IPM)のプログラムでは、農民のムーブメントがあるかのような記述があるが、実際には行政によるトップダウン型の押し付け農法でしかない。バリの事例(Jha, Nitish 2002 “Barriers to the Diffusion of Agricultural Knowledge: A Balinese Case Study”) では、IPMという外部から権威付けられた農法と現地の伝統的リーダーによって支えられた農法との間に確執を生み、その間で苦悩する農民などが紹介されている。本ケースでは、普及員がIPMこそ正しいと思い込みを強めることで、現地の多様な価値に気がつかないまま、現地の農法を否定していく。このようなケースが、果たして近代的農業と対置させて語られるに足る農業のあり方なのであろうか。

本書をよく読み勉強すればするほど、実は同じような失敗をする可能性がある。農業自体に目をむけ、それがどこへ行っても同じ意味を持つものだと勘違いをし、本書で紹介されている農法が正しいのだと思ってしまえば、その人と関わる現地の人は不幸だ。実はこの普遍性こそがモダニティなのであって、近代的農業がモダニティではないのである。普遍性あるものとして農業を捉え、有機農業や伝統的農業と呼ばれているものこそ正しいと、逆にそれに普遍性を求めれば、実はそれこそがまさにモダニティの問題なのである。52カ国の事例を横断的に考察するという暴挙は、まさにその事例に普遍性を捜し求める著者の姿勢がうかがえる。それこそ批判されるべきではないだろうか。

52カ国の事例は必要ない。その代わり、厚みのある記述で、1つの事例についてのしっかりとしたケーススタディを求めたい。その視点と調査方法論こそ、我々に新しい農業の可能性を示してくれるに違いない。

余談だが、農村開発関連の良書をすべて引用しているが、なぜかチェンバースのみがないのが不可解。仲が悪いのか?
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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