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アンビシ勉強会の記録をしよう。
今年に入って第一回目の勉強会。
発表者は、僕だ。

選んだ本は、これ。
堤 未果 著 『沈みゆく大国アメリカ』.2014.集英社.

アメリカの国民皆健康保険?を
目指したオバマケアの影に光を当てた本。
とてもよいルポで、
丁寧な記述に好感が持てる。
で、この本が示そうとしている
アメリカの医療界の市場化構造が
とても面白かったので、
それを今回の勉強会では
TPP後の農業界の市場化に当てはめて
まぁ、かなり大胆な形にはなったが
予想してみた。

ただ当てずっぽうではいけないので、
僕の考えを補完してくれる本を2冊用意した。

ジグムント・バウマン 著 伊藤 茂 訳 
『リキッド化する世界の文化論』.2014.青土社.

トマ・ピケティ 著 
『21世紀の資本』.2014.みすず書房.

さて本題。
もともとアメリカには「メディケア」
(65歳以上・障害者&末期腎疾患)と
「メディケイト」(最低所得層)の
2つの公的医療保険があった。
5000万人いると言われる無保険者に
医療保険を提供するため、
オバマ大統領は、医療保険を義務化し、
さらにメディケイトの条件を緩和した。
保険会社は既往歴や病気を理由に解約することができなくなり、
保険会社が支払う金総額の上限を撤廃する一方で、
保険加入者の自己負担額には上限(6350ドル)がつけられた。
さらに
収入が少ない場合は一定額の補助金が支給される。
そして従業員50名以上の企業には
社員への保険提供を義務化した。
なんだ、とても素晴らしいことばかりじゃないか。
だのに、なぜ、
オバマケアの影に光を当てた本なんだ?

それはこの制度の下に民間企業の競争が入ってくるから
とても素晴らしい理念も、
大きく捻じ曲げられて行ってしまう。

メディケイトのような安価な保険は、
使用できる薬剤と医療サービスに限りがあり、
本当に必要な治療を受けられない事例が
本書では紹介されていた。

保険加入者の自己負担額の上限に制限ができたため、
メディケイト保険者を医療機関が断るようになってしまった。
なぜなら保険会社が負担する分と患者の上限との差額は、
病院側の持ちだしになってしまうからだ。
また医者は保険会社にお伺いを立てながら、
マニュアルに沿って患者を診療しなければならなく、
保険申請の書類手続きで医者の業務がかなり膨れ上がっている。

さらに訴訟大国アメリカでは、
医者は常に医療ミス訴訟のリスクにさらされている。
そのため、医者は高額の訴訟保険に入っており、
裕福で勝ち組と思われた医者も
ワーキンプアのような状況におかれているという。

またオバマケアでは
一律の保険サービスのガイドラインを作り、
それに沿っていない民間保険サービスは無効になった。
一気に膨れ上がった保険市場で
民間の競争が激化し、
保険から撤退もしくは買収される民間保険会社が続出し、
一部の企業が保険事業を独占するような寡占化が進んだ。

一方で市民の負担も
軽減されたわけじゃない。
免責額は2500ドルから5000ドルで、
これを払ってからようやく保険が適応される。
また著者は、1993年に成立した資産回収法を
問題視している。
55歳以上でメディケイトを受給している者は、
死亡した時点で自宅などの資産を没収されるという。
家族が住んでいる場合は、
すぐに没収とはならないとのことだが、
借金の担保に家を当てることが多いため、
その時になって、家が自分のものではないことに気が付く。
一度メディケイト受給者として
社会の底辺層に落ちてしまえば、
その家族を含め、
リスタートを切ることすらままならなくなる。

50名以上の会社へ保険加入義務は
とても良いように思えるが、
実態としては、
保険加入義務をめぐって、
正社員数を50名以下に抑える企業が増え、
パートタイムへの降格事例も報告されている。
低賃金化と失業と資源回収法によって
中流以下層の負担は増大した。

アメリカは営利企業の病院経営が合法で、
公的病院への民間営利病院企業のM&Aが横行している。
低価格医療サービスを掲げ、競争によって地域の医療機関の買収の後、
採算の取れない分野を閉鎖してしまう。

また
労組で入れた組合保険は、
充実しすぎているとして課税率を40%にしようとしたが、
これは2018年まで延期になった。
だが廃止ではなく、延期なので2018年には
リストラと非正規化と労組保険の課税率アップによって
労組弱体化は必至だ。

著者はこの事態をリーマンショックと構造的に同じとみる。
高額な欠陥商品を強制的に買わせ、
払えない人には補助(以前に彼らから集めた税金)を出して買わせる。
保険の売り手には補てん費用を払い、
損が出ないように強力に守る。
メディケイト受給者のマネジメントを担う
センテネ社とモリナ社のCEOの報酬は
いずれも71%と140%上昇した。
政府は保険収益の8割を医療に充てるよう義務付けたが、
海外の保険会社を子会社化し利益分散は簡単に行われている。
TPP後は、日本にも病院の株式会社参入が進み、
公的保険適応範囲縮小と混合診療がやってくるだろう。

とここまで読むと
あることに気が付くだろう。
そうこういう規制緩和はなにも医療だけじゃないってこと。
同じような単語が農業界でも飛び交っているってこと。

小さな政府を目指した保守革命後(サッチャー・レーガン・小泉ら)、
僕らは民間のフェアな競争によって
より安価でより行き届いたサービスを受けるはずだった。
そうそのはずだった。
それが資本主義だとも思っていた。
でも今回の事例からは、
そんな安価で行き届いたサービスを僕らが享受することはなく、
反対に、僕らは市場化され
投資家のターゲットになってしまうだけだった。

買収による寡占化が進み、
大企業化(財閥化)した企業は
「大きすぎてつぶせない(リーマンショックの時の合言葉)」ために
問題が起きても公的資金
つまり税金をたっぷりもらって
強力に守られる。

強い資本力を持った会社がその分野を独占し、
どんな制度もその企業が
儲かるような仕組みに変えてしまう(アメリカのロビー活動)。
バウマンやピケティが指摘したように、
リッチスタンの住民はタックスヘブンに逃げ込み、
資本の増強を易々とやってのけていく。
中流は市場化され、
資本家のターゲットとなって崩壊し、
ピケティのいう資本主義は格差
(r>g:資本収益率は経済成長率を常に上回る)を
生み出すだけの装置になろうとしている。
それがアメリカ式の新自由主義のなれの果てなんだ。
そのルールに乗っかっているのがTPP。
だから、中央会解体もその眼鏡で見ると
すこしこれまでと違ったように見えたりする。
つまりアメリカ式の新自由主義のルールが
より適応しやすいように
つまりは僕らが市場化されやすいように
農業界のもろもろを変更しようとしている、といったようにね。

全農によるコメ市場独占を解体し、
地域農業もすでに集落営農の名のもとに集約化。
法人にしておけばM&Aしやすいよね。
小難しい地域に思い入れのある爺さんや婆さんを
これで農地から引っぺがすことに成功した。
農地を握っている
農業委員会も面倒だ。
農業委員会のメンバーをどう決めるかの改革も
準備した。
メンバーは首長に決めてもらうのが一番だよね!
農業委員会のメンバーにイエスマンを据えて、
地域の産業を大局から見て、
大企業の誘致もあわせてやっちゃえば?
中間管理機構もつくったよ!
ばらばらにあった農地は
簡単に集積できるよ。
株式会社の農地取得も緩和しよう。
じゃないと資本の強い企業による買収&寡占化に向かわないよね。

中央会の監査権を無くし、
単協をばらばらにしよう。
地域参入を考える株式会社は、
地域JAが持つ農業施設(赤字部門)を買収し
(そういえばJA福井市は店舗事業の譲渡案があったが、ご破算したね)、
資本力を活かして安価な米や野菜を作り続け、
価格競争で敗れた農業法人・集落営農を買収しちゃえ。
政府の補助によってちょっと贅沢に整備しちゃった
集落営農の施設と農機と農地を
二束三文のお金で買いたたけるね。
そして採算の合わない分野(農地:地区)を切り捨て、
農地の転用(農業委員会は骨抜き済み)と
その企業体の転売で儲けを出すってどう?
新しい財閥:ホールディングス化した企業が、
譲渡受けたもしくは買収した部門(農協関連施設や集落営農)を
子会社化してもそのまま売却の対象になる。
だから譲渡するときにどんなに条件を付けても
地域やJA組合員の想いはくみ取られないな。

どう?
こんだけ条件を整えれば、
かなりのお金が農業界に流れ込んでくるんじゃないかな?
いろんなものを市場化したよ。
さぁ、どんどんじゃぶじゃぶお金を投資して
マネーゲームを始めよう!
あっ失敗しても大丈夫だよ!
大きくなりすぎてしまえば、潰せないから。
公的資金で守ってあげるよ。
「地域に多大な影響を与えてるわけにはいかない」
と苦渋の顔をした政府の偉い人がそういえば、
それだけで大丈夫だよ、きっと。
これが僕らの首相が声を大にしていっている、
「強い農業」ということさ。
投資も促進されるから
ずいぶんと賑やかになるよ。
お金まわりもよくなれば、その産業に群がる人も増えるね。
あっ、もしかして高齢化問題も解決しちゃうかな?
というのは、僕の作り話。


でも
本当にこれは作り話なんだろうか。
TPP締結後の数年で、
僕らはもう農業界の主体的なプレーヤーじゃ
なくなっているかもしれない。




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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
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