新年を読書録で迎えるのも一興だろう。
えっ?酔狂?
まぁまぁ、今日は元旦ということで。

リンダ・グラットン 著 池村千秋 訳 『ワークシフト』.2012.プレジデント社.

ちょっと前の本だが、とても評判になった本。2025年の孤独と貧困から自由になる働き方の未来図という帯がついていた。2025年には今とは違う働き方への変容が生まれるというのが本書の趣旨。今の職業生活を見直し、変容の生まれる要因を理解し、それに合わせたよりよい働き方へのシフトを提案している。では、シフトすべき働き方はどのようなものなのだろうか。

それは、ピラミッド型の組織と交換可能なゼネラリスト的技能よりも水平型のコラボレーションと磨き上げられたスペシャリスト的技能へのシフトと筆者は言う。その変化をおこす3つのシフトを著者は説明する。第1にゼネラリスト的な技能を尊ぶ常識を問い直すべきだとする。インターネットにより何十億もの人がつながり合う世界では、ゼネラリストは必要なくなり、それぞれ個人の技能を高めセルフマーケティングが重要になってくる。第2に個人主義と競争原理の常識を問い直し、人間同士のコラボレーションと人的ネットワークがタスク成功のために重大性を増してくる。第3にこれまでの常識どおり、貧欲に大量のモノを消費し続けることが幸せなのか問い直すべきだ、としている。質の高い経験と人生のバランスを重んじる姿勢に転換するほうが幸せだ、と説いている。

そしてこのようなシフトが起こる要因として5つの要因を解説する。テクノロジーの進化・グローバル化の進展・人口構成の変化と長寿化・社会の変化・エネルギー環境問題の深刻化を挙げている。グローバル化の進展と人口構成の変化がその時代時代の常識を変えていき、それを支えるテクノロジーが進化することで、人々は瞬時に世界とつながることが可能になる。だがその一方で深刻なエネルギー不足により、実体的な移動が困難になり、人々の仕事はバーチャルな世界へと切り替わる。著者はそんな予想をたて、3つのシフトが起きた世界とそうでない場合とをいくつかの物語を作ってケーススタディしている。

そのケーススタディで何度も出てくる考察として、第2のシフトと関係するが、3種類の人的ネットワークだ。まずは、ポッセと称されるネットワーク。ポッセは、比較的少人数のグループで、同じような専門分野の集まりだ。職場の同僚の場合もあるし、友人だったり、異国の知り合いという場合もある。目の前の課題を解決する場合に必要な力を貸してくれる仲間たちだ。声をかければいつでも集まれる(バーチャルも含めて)、そんな仲間たち。次はビッグアイディア・クラウドだ。自分の人的ネットワークの外縁部にいる人たちで構成されており、自分とは違うタイプの人間とのつながり。友達の友達がそれに該当する場合が多い。ある専門的問題をまったく自分とは異なる視点から物事を見られる人たちの集まりで、メンバーの数は多い方が良い。ポッセは問題を素早く解決する力になってくれるかもしれないが、本当の意味でのイノベーションを生み出す源泉にはならない。ビッグアイディア・クラウドは、ポッセで出来ないイノベーションを生み出してくれる。そして3つ目は、自己再生のコミュニティ。テクノロジーの進化でバーチャル空間の魅力は広がり、ビッグアイディア・クラウドの人間関係の中で多くの仕事をこなすようになるだろうが、それとは異なり自己再生のコミュニティはバーチャルではない関係性。専門技能の持ち主の集まりでもないため、ポッセでもない。コミュニティのメンバーと現実的にかかわり合うことで、プライベートな時間をくつろいで過ごし、生活の質を高め、心の幸福を感じるような人間関係のことを言う。テクノロジーに頼れないのも特徴的だ。

こうしたシフトとそれを生み出す要因によって、僕らの仕事や生活への価値観が大きく変化するという未来予想図だった。3種類の人との関わり合いが、そのシフトを大きく支えてくれるというのも著者の主張だった。著者の主張では各論ではいくつも反論できるが、直感的にそのシフトが向かう方向にあながち間違っているようにも思えないのが本書の魅力だろう。モノを大量に消費することを目的とするよりも何かを創造することが目的となる仕事。金銭的な評価よりもやりがいと充実感を得られる仕事。まさに、僕らが直面している価値観にこの本は、ある程度の答えを僕らに示してくれている。

これを僕らの仕事に当てはめてみようか。
僕らは農業というスペシャリストの集まりだ。ここに入ってくる若者も初めはゼネラリスト的な役割を夢見ていたかもしれないが、業務内容は自然のダイナミックな変化に生産技術で対応するという専門技術とさらにその成果物と市場とのバランスを読みぬいてすり合わせていくというこれもまた専門技術による仕事だ。ネットの進展で、僕らの市場も地元の市場のシェア率を徐々に減らしながら、日本中に野菜を送り届けるようになっている。インドネシア農業研修では、金銭的な儲けは全く見込めないという意味では産業としてなりえるのかどうか不安はあるが、人口の変化に今後不足するであろう労働人口への補完的な一種の事業となりえるだろう。ただ単に安い労働力を確保するという意味ではなく、僕らの場合はその意味ですでに本書のようなシフトを遂げているが、ここに集まって労働することで僕らはインドネシアの彼らの地域の問題も解決するタスクを負っている。近くを単焦点に見れば、僕らの関わり合いは、農園ビジネスを発展的にさせるポッセということになるが、望遠的に眺めてみれば、それはグローバルな問題解決の糸口だったりもする。ビッグアイディア・クラウドがもっとバーチャルな世界で進めば、これから先は、ここに居ながら彼らとのつながりをより発展的にし、それを通じて今よりも広範囲の農村問題や環境問題にも僕らは関わるつもりだし、その用意もしている。自己再生のコミュニティという意味では、まさにこれは僕の主題でもある地域を創る活動に入っているだろう。既存の組織の盛り上がりを含めて、仕事とはちょっと離れた社会的な活動への参加とそこでの人との関わり合いが、まさにそのグループとも言えよう。生産と生活とが相まって、現実的なフィールドでの労働と生活、そしてバーチャルな空間での僕らのつながりがいろんな問題を解決する、もしくはそれに立ち向かうためのツールになることを、僕はこの本を読んで夢想した。

2015年の最初の読書としては、とても良い本に出会った。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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