どんなに勉強をしても、
どんなに経験を積んだつもりでも、
僕は農村開発の素人だ、と
自覚させられる出来事が良くある。
イラの卒業研究でも
それが今頃になって
僕の中で意識させられた。

イラは研修3年生。
だからこの一年、
一所懸命卒業研究に力を注いだ。
彼のテーマはとてもシンプル。
羊のエサ不足の解消、というもの。
彼の地域では羊の飼育が盛んだ。
雨季は草が豊富でエサに困らないが、
乾季は雨が降らないので、草が生えない。
だから、乾季はエサが少なくなるので、
自然と飼育できる羊の頭数は限られてくる。
各家庭で5頭前後ならば、
少ない草をかき集めたり、落ち葉やバナナの葉や
近くの豆腐工場で出るおからなんかを集めて
なんとかエサにできるが、
近代的な畜産業として
ある程度のまとまった頭数を飼育しようとなると
エサの確保に困ってしまう。
それを何とか解消しようというのが
彼の研究テーマ。
日本の畜産を勉強して
エサの問題を克服するつもりだった。

イラは日本の畜産の現場を回って
サイレージや配合飼料などについて勉強を重ねた。
その結果は、
まだまとめている最中だが、
先日の発表で、どうもそのエサのコストが
かなり高くついてしまって、
羊の飼育で導入すると赤字になることが
次第に分かってきた。

研究を始める前、
今年の3月まで
僕らはイラと良くディスカッションをして
エサのコストと羊の値段についても
おおよそ予想を付けていた。
その段階では、羊を近代的な畜産業にすることで
かなり割のいい、つまり儲かる産業になると
思っていた。

だが研究を行っていく過程で、
しかも最近だが、
僕はあることに気が付いた。
それは、
エサのコストと羊の値段が合わないということ。
なぜだ?
事前の予想と大きく違うぞ?

それはとても単純なことだった。
イラの地域の羊の市場に対する
僕の常識のスキームがあまりに固定的だったということ。

イラの地域の羊の市場は、
非合法な闘羊イベントの会場だ。
といってもそう怪しい場ではない。
とてもオープンで、
その地域の人たちの楽しみでもある
伝統的な闘羊の会場である。
その場には、イラの地方で飼育盛んな
ガルット羊であれば、誰の羊だろうと
参加可能で、その日は大勢の人でにぎわう。
で、羊同士が戦い、
強い羊や走るのが早い羊、毛並、角の形などで
羊の値段が決まるらしい。
高い羊で1頭50万円もするというから、
インドネシアとしてはびっくりな値段だ。
で、戦いに敗れた羊は肉用として売買され、
高くても数万円くらいだという。

たぶんカンの良い方はすでにお気付きだろう。
そう、日本の畜産業は太らすための技術であって、
戦いに勝つための技術ではないということ。
だから肉用の羊の価格の計算でいくと
日本の畜産での給餌法だと赤字になってしまうのだ。
1頭50万円もするような羊は、
給餌法を変えたところで生まれるわけもなく、
それで効率よく太らせることはできても
強い羊にはならないということ。

市場のカタチが日本の畜産業のカタチとは
まったく違ったところに価値を置き、
そこに目が上手くむかないまま
僕らはこの時期になって
自分たちの間違いに気が付いた、
というわけだ。
いや、ちょっと言い訳をすれば、
その技術もインドネシア風にアレンジできないか?
と考えていたのだが、
それもまた産業が成り立つストラクチャーの違いに
挫折した。

イラの説明も
僕の指導も
どちらも最終の市場の価値を
取り違えたまま
今日まで来てしまっていたことを
僕らはこの1年かけて研究して
その気付きを得た。

こう書くと
なんて馬鹿げたことに時間をかけているんだ?
と思われるだろうな。
その批判は、それで正しい。
でも、そのくらい僕らの認識には
断絶があるのだ。
でも、ここまで長年インドネシアと関わってきたんだから、
もうそんな断絶には事前に僕も気が付くだろう、という
僕自身に対する過信があったんだろうと思う。
今回は、僕もイラも
そして他のインドネシアの子や
一緒に関わってくれているスタッフの佐藤にとっても
良い学びになった。
その産業において価値と認識を成り立たせている
ストラクチャーを読み解くのを
農業構造論でいやというほど
僕らは議論し合っていたのだが、
意識の断絶の前には
それもある意味無力なのだろうか。
とはいえ、
卒業研究はこれからまとめて発表するという
大詰めの段階に来ている。
最後までしっかりと指導しよう。




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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
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