こんな本にも出会った。

浦島充佳 著 『ハーバード式 病気にならない生活術』:「疫学」の力でやせる、健康になる.2014.マキノ出版.

健康おたくではないので、
普段はこういう本に食指は動かないのだが、
ラジオのある番組に著者が出ていて
その話の内容がとても興味深くて
手に取ってしまった。
僕の興味を引いたのは、
「疫学」についてである。

著者の言葉を借りて言えば、
疫学とは、統計学的なリスク分析に留まらず、
これを実践して病気の発生を予防したり、
病気の治療を促進したりする学問、ということになる。
科学的医学的な根拠(つまりはここでいう統計的データ)に沿って、
そこにあるであろうリスクを知ることができるというわけだ。
まさに僕のこれまでの探求のテーマの一つだった
リスクをどのように測るか、に合致する学問だ。

この疫学が面白いのは、
因果関係がどうのこうのではなく、
因果ははっきりしないが
統計的にそのリスクがあることを示す点だ。
本書でも例として挙げられているのが
明治期の脚気が分かりやすい。
海軍では疫学的見地から(高木兼寛が軍医総監)
脚気と食べ物の統計的な関係を見出し
いち早くその予防を確立した。
その反面、陸軍では(森鴎外が軍医総監)
脚気菌が脚気を起こすとし、
その存在を究明することが優先された結果、
日清戦争では、陸軍の戦死者の4倍の兵隊が
脚気で死亡した。
原因究明よりも
目の前にあるリスクを予防する。
それが疫学らしい。

本書では食べ物や生活習慣と
それぞれの病気との関係を
科学的統計的な根拠(エビデンス)を元に
事例を羅列する形で進んでいく。
副題の通り、「やせる」「健康」がキーワードなので
どういう生活習慣がやせるのか
より健康的なのかを示している。
それ自体はあまり関心はなかったのだが、
加工肉を50g多く食べると
心筋梗塞の発症リスクは42%、
糖尿病のリスクは19%増えるというので、
これ以降、我が家では加工肉を
ほとんど食べないことになった。
で、おかげでベーコンや鶏肉ハムなどの
燻製品を手作りするようになったので
生活がより豊かになったという
副産物もあった。

詳しいそれぞれの事例は
本書を読まれたいが、
メッセージとしては
食事は量よりも質の改善を行うべし、
ということだった。
ただ単に量を減らすのではなく、
GI値といった食事後の血糖値の上昇度合いの値が
低い食品を選ぶことや
手軽に食べられる加工肉等を避けるなど
そういう改善に努めるというメッセージが
とても自分の志向と合っていた。

さて、
そのような内容でとても面白かったのだが、
承服できない点が2点ある。
まずは、農薬や遺伝子組み換え食品についての記述。
その題で章立てられていたので、
すわ、農薬や遺伝子組み換え食品はすでに
疫学的にエビデンスがあるのだろうか?
とかなり驚いたが、
そんなことはまったくなく、
エビデンスはないが、と断りを入れつつ
それらの食品が危ないかもしれないというかきぶりは、
「先生、疫学としてはそれで良いんですか?」
と問いただしたくなった。
たぶん、編集者の横やりか要らぬ入れ知恵だろう。
その方が本が売れます、とでも言ったのか?
他の章は、徹底して疫学的見地で書かれているのに、
農薬と遺伝子組み換え食品だけ
やたらと歯切れが悪い。

もう1点は、
それぞれの事例でエビデンスを得られた実験について
引用が書かれていないこと。
専門書じゃないからそこまではいらないかも、
というのは、もしかして編集者の提案なのだろうか?
本書の「はじめに」にも書かれていたが、
本来であれば、本のタイトルは
「病気になりがたい」とすべきかもしれない、
とのことだったが、
分かりやすさを重視したとのことだが、
分かりやすくするための作業というよりは
これら2点に関しては、
より売れ筋の本に仕立てるという
意味合いの方が強い気もする。

とても良い視点だと思うので、
ぜひぜひ疫学的視点をきちんと広める意味でも、
こうした一般書でも守らなければいけない点は
はしょらず、きちんと書いてほしいと思う。

多くの時間とたくさんの研究者の努力によって得られた
エビデンスを元に確率論的に
安全の物差しとして
僕らの周りにあるリスクを
きちんと測りえることができる
稀有な学問だけに
そういった記述がとても残念だった。
それ以外は、とても良い本。
今後も疫学について勉強しようと思う。





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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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