3年生のカダルスマン君(以下:ダルス)の
卒業研究は、コシヒカリの栽培法の研究だ。
ポット栽培を行い、
コシヒカリという品種のポテンシャルも研究し、
農園の水田でコシヒカリの栽培も体験した。
集落の作見会にも参加し、
日本での慣行栽培のデータも集めた。
病気や害虫、その防除法も勉強した(これはまだ足りないけどね)。
調整乾燥の施設も見学して、
網下米を大量に出しながらも
良い品質のコメ作りがどんなものかも
実際に見た。
そしてその真っ白で形の揃った米ばかりの
コシヒカリを食べて、美味しいとも思った。
で、そこまでやって
彼は初めて気が付いた。
これらすべての技術がその社会の価値に
合わせて存在していることに。

インドネシアでもコシヒカリは高く売れる。
通常のお米の3倍の値段だそうだ。
しかもあちらでは化粧品の原料にもなっているらしい。
だからダルスは、帰国後インドネシアで
コシヒカリを作りたいと思っている。
で、一所懸命日本での栽培技術を
集めてみた。
で、いろいろと比較してみた。

このあたりの一般的な水田では
コシヒカリの収量は10a500㎏。
インドネシアでも収量は同じくらいだと
ダルスは言うが、
日本は玄米の収量であり、
インドネシアはモミ収量。
それだけでも1割以上は重さが違う。
さらに、インドネシアは
調整時に網による選別がいい加減だ。
というより、してないと思う。
詳しくその構造を観察したことが無いが
調整乾燥施設で網下米が出ているところを
僕は知らない。
今の福井は1.9ミリの網で選別するから
割れたコメや未登熟粒などの網下米が
大量に出る。
インドネシアの収量は
もみ殻重+網下米+玄米ということになる。
もう2割くらいの違いでは収まらないくらい
その収量に差が出ることが分かった。

ここでダルスも気が付く。
なんで網で選別するのか?
インドネシアでは、少なくとも村では
そんな選別されたコメはない。
日本じゃ、網だけでなく
色選といって色の悪い米もはじく選別機械が
あるくらいで、
そのおかげで一般の方々は
白いお米が当たり前になっている。
当然インドネシアに色選はない。
そこには、異常なまでに
白くそして粒のそろった米に
固執する日本人の価値観が見えてくる。

そしてその白さと粒への固執が
カメムシ防除にもつながる。
斑点米は食味に関係しない。
だが見た目が悪くなるので敬遠される。
で、斑点米が多ければ
JAの蔵前検査で二等米になり
価格は安くなってしまう。
だからといって
カメムシ防除は必要ないのかと言えば、
その程度にもよろう。
かつて
僕が南スラウェシのバルー県に
青年海外協力隊隊員として赴任していたが、
ある年、カメムシが大発生し、
ほとんど収量が無かった、
ということもあったからだ。
ただ日本の現状として、
多少の食害も許さないというのは、
やや行き過ぎかな、と思わないでもない。

そんな議論をダルスとしていると
またまたダルスもあることに気が付いた。
それは販売。
農家から米商人に販売するのだが
(インドネシアには農協はない)
その時の販売は、
日本とはずいぶん違う。
収穫の前の田んぼごと販売することもある。
商人が田んぼの広さでその田んぼの収穫物を買い取り、
収穫の人足を商人が連れてきて収穫をする。
もちろん田んぼの持ち主が
収穫の人足を用意して収穫して、
その成果物を販売する場合も多い。
その場合は、未乾燥のモミでの販売だ。
つまりどちらにしても
もみ殻がついているので
中身の品質はわかりにくい。
斑点米があろうが乳白米があろうが
胴割れがあろうが、
そんなのお構いなしだ。
だから多少のカメムシが発生しても
その防除は農家にとって何の魅力もないことになる。
販売の時に、リスクを負うのは商人ということになる。
だから買い取り価格は驚くほどの低価格。
しかも品質を上げても
モミでの販売のため付加価値はつきにくい。
こうなってくると農家もできるだけ
手間を省いて、モミをたくさん取る方法の栽培法が
「良い栽培」となる。
社会の価値とそれをスケールにしたときの基準、
その違いで、良い栽培も変化する。

インドネシア市場向けとしてのコシヒカリなら
日本の技術がそのまま当てはまることはない。
もしダルスが、都市部にたくさん住んでいる
日本人向けにコシヒカリを栽培したいのなら、
異常なまでに白くて粒のそろった米が
当たり前になっている日本人には、
それなりの設備と手間が必要になるだろうけど。
いわんや日本向けなら、その手間と設備投資は
恐ろしく増えるだろうね。
良くあるアジアに同じ米文化だからといって
その違いに気が付かないまま
米栽培で進出する人たちが
そろいもそろって失敗するのは
そのあたりの浅はかさがあるんだろうと
見当しているのは余談。

さて、もう少し栽培の話を続けよう。
水管理でも日本とインドネシアではずいぶんと違う。
ダルスの地域では田越しに水を入れたりする。
だから間断潅水(入水後自然落水を繰り返す灌漑法)なんてありえない。
水が入らない時は何時まで経っても入らないし、
雨が降っても落水はスムーズじゃない。
無効分げつを止めるための中干しも
だからスムーズにはいかないだろうな。
さらに
肥料は上部の田んぼから水の流れと一緒に
どんどん流入してくるから施肥計算は大変だ。
下の田んぼではコシヒカリの倒伏は避けられないね。
これらすべてが日本と違うのだ。
それは、その品種とそれが栽培可能になる技術、
ひいてはそれを是とする社会の価値観の
違いとしか言いようがない。

同じアジアの同じ米文化。
なんてよく言ったものだ。
まったく別文化で別の食べ物なのさ。
やってみるとこうも違うのか、と
僕も改めて驚かされた。
その上で、ダルスは
インドネシアのコシヒカリに挑戦しようとしている。

高品質で勝負するのなら、
カダルスマン君、
君は米の買い取り商人と同じだけの施設を
用意しないと
君の努力は報われないよ。
もし日本人向けに勝負するのなら、
そこにさらに設備投資をしないといけないよ。
ただコシヒカリを作るだけじゃ、
商売にはならないんだよ。
それが少しでも君に伝わることを
僕は切に願う。



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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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