大学生からの質問の続きに答えようか。
残っている質問は3つ。

③研修生の研修のためには大きな経費がかかると思うのですが、それは農業収入から全て賄うことができていますか?

④インターネットなどを見ていると、研修生を受け入れる農家さんと研修生の双方の目的が農業研修ですが、それは形骸化していて実際は労働力の確保、収入確保の目的だそうです。田谷さんの農業研修を行う目的はどのようなものでしょうか?
また、そのためにどのような活動をしていらっしゃいますか?

⑤日本の外国人農業研修生制度について考えていることなどがあれば意見をお願いします。

まず③だが、
当然、「YES」。
原稿執筆や講演などの謝礼として
微々たる収入は他にもあるが、
そんなもので賄える経費ではない。
農業収入で賄うしかない。
経営規模が大きくなったから人を雇ったのではなく、
研修をしたいから規模を大きくしたというのが
僕の農業経営の経緯。
経営内容は確かに僕の場合ずさんで
その方面の学問にはまったくの素人だが、
人を雇用するという前提なので、
季節に左右されない通年の仕事づくりと
それを支えてくれる市場の開拓と
経費がねん出できるだけの価格設定などのバランスは
常に気を使っているつもりだ。
たぶんそれが幸いしてか、
現在では10名以上の人を雇用できる規模と
市場と価格を得ているんだと思う。
確かに農業は労働が大変な割に薄利だが、
それでも工夫次第では未来が無いわけでもない。
なんでもやり方次第なんだ、と思う。

で、これらの話は④の答えにもつながるんだけど、
技能実習生は雇用の確保のためか、と言われれば
僕の場合はそんな経緯ではないのだが、
実習生が100%研修だけなのか、と言われれば
もちろんそんなこともない。
実習生らは、それなりに一所懸命働いてもらわないと
農園の野菜生産はおろそかになり、
売り上げも出てこない。
だから実習生にも給与や彼らにかかる経費が払えなくなる。
これは彼らともよく話をしている。
僕を儲けさせる必要はないが、
このやり方が今後も続くような
後輩たちもこのやり方によって
ここに運命を変えようとやって来られるように
彼らの給与と経費の分だけは仕事をしてほしいと
お願いしている。
給与以外にどのくらい経費がかかっているかも
彼らと一緒に毎年計算もしている。

そしてこれも肝心だが、
インドネシアで研修は「magang」(マガン)と言うが
それは研修という意味の単語だが
あちらの人は、それが出稼ぎだってことも良く知っている。
ただ単に会社や学校の研修の場合は他の単語を使うのだ。
だから「magang」というと労働が伴う、
研修というよりも出稼ぎという意識で言葉を使っている。
だから日本側が国際貢献だのなんだの言っても
あちらではそんな広報は全くなく、
先進国の最先端の技術を現場で見ながら
お金を稼げる制度というのがすでに一般的だ。
だから来る側は、出稼ぎ労働だってことはよくわかっている。
なので、この意識で僕らは時々もめる。
4期生のクスワントは
この出稼ぎ労働だと思って、僕のプログラムにやってきた。
もちろん、事前にここのプログラムは
他の技能実習と違って、本当に研修をする機会も多いと
説明してきたのだが、
彼はそれをただの文言だと思ってやってきた。
だから僕が用意する授業や宿題などが
初めは余計な活動と思ったようで
授業や宿題に労働としての対価が払われないことに
苦情をいった事を今でも良く覚えている。
授業時間や出された宿題を行う時間も
労働時間とすべきだと彼は言ったのだ。
その発言には
僕はずいぶんと動揺したし、
一緒にいた2期生と3期生も動揺した。

そこでいろいろと話し合いを行い
みんなでアイディアを出し合い、
授業などの活動は「農園たや」ではなく
僕とインドネシア人とそれを支援してくださる人とで作った
任意団体「Yayasan kuncup harapan tani耕志の会」で
行うことにした。
授業にかかる経費(プリンタのインク代など)は
僕も含めてメンバーの会費で会計をし、
僕が代表を務めるが
会の運営は、庶務と会計を
インドネシア実習生に任せて行っている。
現在では、卒業研究にかかる経費もここから出ていて、
また新しくやってくる実習候補生の
ビザ代やパスポート代などのお金も
この会計から貸付を行っている。
口座とお金の管理はインドネシア実習生の会計役が
行っていることを良く他の人から驚かれるが
一緒に組織を作り運営していくプロセスさえ
しっかりしていけば横領なんて起らない。

こうして研修を労働と切り離し、
それ自体は労働ではなく、
僕らに必要な研修・学業として独立させている。
この会に入るかどうかは任意ではなく、
ここに研修に来た人間は絶対に入ってもらうようにしているが
事前の候補者選考で、この説明は何度も行うようにしている。
クスワントも僕らとの話し合いと
会を一緒に立ち上げる作業を行う中で
僕らの意図を理解し、
それからはとてもよく勉強に励み、
最後にはとても素晴らしい卒業論文を残してくれた。
クスワントの卒業論文発表はYoutubeのリンクあり

だから技能実習生の制度が
形骸化しているかどうかは、
たぶん日本人向けのコマーシャル自体の問題かな
と思うことも多い。
実際に参加する側は、すでにそんな意識はほとんどないから。
もうそろそろ日本人向けの建前論を捨てて
移民を含めた議論をしっかりと行った方がいいと思う。
というのは⑤の答えにもつながるかな。

制度はなんでも使いようだと
僕は思う。
その意図がどのようなものであれ
その中身を充実させるのも
形骸化させるのも
それを使っている人たちということだろう。
僕は技能実習制度を利用しないと
個人で外国人のためのビザを取得できなかった。
だから農園独自のインドネシア人の農業研修も無理。
それが分かった時点で
この制度を使おうと決めた。
批判を受けるのは覚悟の上だった。
それ以前は僕もこの制度をブログ上で
何度も批判していたから、
僕自身も苦渋の決断だった。
でも、前に進むにはこれしかなかった。
そしてその一歩から今年で8年目になる。
走り出した当初は、
いろんな問題が起こっても10年間は
突っ走ろうと思っていたが、
もうすぐその10年になる。
思ったほど成果が上がりにくいという点と
とても地味で、とても根気のいる作業だというのが
今の感想だが、
人が驚くほど育つ場面に出会える、という意味では
とてもやりがいのある活動だと思っている。
技能実習制度がどうなっていくかはわからないが
本当に外国から来る人たちと関わって、
その人たちと一緒に成長しようという意識があれば、
この交流の場はとても素敵な場にかわるだろう、と
僕自身の事例から、僕は確信している。

大学生君、
これが今の僕の答えだ。




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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
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