先週の土曜日は、
福井県のJA青年部協議会(県青協)のイベントがあった。
その中で、ちょっと面白い研修会があったので
それを記録しておこうと思う。

「農業政策を考える」というお題を付けた
農政研修会があり、
県青協の役員が農水省から来ていただいた方々に
農業政策のあれこれをぶつけていくという研修会。
農水省からは
国会で総理大臣や農水大臣の農業関連答弁を
すべてチェックする立場の経済局長・奥原さんの
ご出席をいただけた。
国の農業政策のトップともいえる人が
参加してくれたことで、
研修会もちょっと特異な熱を帯びていたようにも思う。

さて、研修会では
8つのお題が事前に県青協の事務の方で用意されていて、
それを役員で順番に質問していき、
その質問に奥原さんが答えていくという形式だった。
奥原さんの説明はどれも明瞭で
とても平易な言葉を選んで使っていただき
僕ら農家でも農政の方向性を知ることができた。
そのロジックは、端的な言葉で言ってしまえば
「市場原理主義」ということになるだろう。

さて一つ目の農政のあり方に対する
猫の目農政という批判に対しての奥原さんの答えは、
大きな転換期にきちんと対応できる農政ということだった。
その中で、本当に大切な部分は変化させないという
態度で臨んでいるようで、
戸別所得補償は今後廃止されるが、
認定農業者などには別対応を用意しているとのことだった。
その中で、
納税者が納得できなければ、コスト割れしていることに対して
お金を投入することはできない、
というお話をされていた。

面白かったのは規制制度改革と中山間地域の維持だった。
規制制度改革ではJA改革の議論だったのだが
戦後農地改革後の1ha専業農家時代から
第2種兼業農家が大半を占める農業構造の変化に
現在のJA組織がうまく対応できていない
といい、
食の市場は90兆円もあるにもかかわらず
農業生産の販売額は8兆円にとどまっている現状で
1円でも農家・農村にお金が回るような仕組みを
作っていくために必要な改革らしい。
そういう意味では、解らないでもない。
そのような議論は僕が大学生のころに(20年くらい前)
周りのリーダー的存在の農家たちは
よく議論していたのを覚えている。
だが、なんで今なんだろう?という疑問はある。
あのころには僕には見えていなかった
農地を通じてつながっている地縁を
JAの組織の性質がうまく重なり合って
地域内では主要な活動組織になっているという意味では
市場原理主義の立場から眺めれば、
それは意図せず派生した効果に過ぎないかもしれないが、
僕らにとっては
大切な地域福祉向上の結び付きでもある。
そのことを質問したが、
奥原さんからは、JAの総合的な地域へのサービス自体が
今後独禁法に触れると判断されれば
これまでのサービスが行えなくなる可能性もあるので、
農業分野や信用・共済、共同購入はそれぞれに分かれて
地域の結びつきでいうのならば、共同購入を
生協のような形で維持すればいいというお答えをいただいた。
でもそれって、農地によってつながっていた
イエやムラという地縁なんてどっかへ吹っ飛ばした
なんだか別次元のお答えだった。
機能的な共同購入というサービスの維持が
問題じゃなくて、
そこにある絆のカタチをどう維持していくか、が
僕らの関心ごとなんだけど。
たしかに、僕らにはもう
そのお答えに噛みついていけるだけの地縁が
自分たちの手元に残っていないことも自覚している。
だから、やっぱりJA改革は周回遅れだと思っていたけど、
それは
僕ら農村や農家にそんな力がなくなってしまったところを
見計らって、
おえらさん方のやりたいような改革をしようと
しているんじゃないかって思えてならなかった。
回りくどい地域の関係が薄れた今だからこその、
そしてTPPをはじめとするグローバルな社会で
もっと「儲けられる」社会システムを構築するためなんだろうな。

中山間地域では、
実際にそこで営農している役員から質問があった。
鳥獣害がひどく、地域の田んぼを電気柵で覆うとすれば
4000万円以上かかってしまうのに、
作業効率は悪いし、米価も下がり続けているのが現状だ。
中山間地域等直接支払制度もあるが、
超がつくほどの高齢化している現状で、
なかなか制度に手を挙げられる人がいない。
どうしたらいいのか?という
悲鳴にも聞こえる役員の質問に、奥原さんは
そのブレない視点で答えてくれた。

「中山間地だからこそ有利な面もある。」

だそうだ。
観光や魚沼産コシヒカリのようなテロワール、
森林放牧のようなやり方などなど、
中山間地でなければできないような営農をすればいい、
とのことだった。
その上で、
「展望のないところに大事な税金を投入し続けることは、すべての地域で、という意味ではできない。すべての地域が残れるということではないと思います。」
とノタマッタ。
いや参った。はっきり言いすぎで参った。
市場原理主義から全くブレない。
「弱者救済」や「環境保全」の思想は薄く、
儲けられないところに投資はできない、
という考え方。
儲からない山に人は住むな、ってことか。
ま、これがなんだかスッと頭に入り込んできてしまうのだから、
時代の力は侮れないな。

鳥獣害や4000万円の電気柵については、
産業政策の問題で、
今後ITなどの新しい技術が導入されれば
低コストかつ効果のある鳥獣害回避の技術が
生み出されるんじゃないか、と
とても楽観的なお答えだった。
奥原さん、あなたの視点であなたのお答えを眺めると、
そこに投資しても十分儲けがある場合だけ、
そうした技術革新があるように見えるんですけど。

福井の農業は米が占める割合が
富山に次いで全国2位の県だ。
だから米価の関心が高い農家も多い。
で、規制制度改革や直接支払制度の質問の中で、
米価の話題もあった。
米価が下がり続けている原因は、
やはり需要が鈍いせいだ。
でもそれ以上に今の米市場が過剰競争だとも
奥原さんは言う。
米市場で売買している会社は100社以上あり、
それが互いに競争し合って安い米を生み出しているという。
現状の中央会や農協の制度維持に力を入れるよりも
全農や中央会がリーダーシップを発揮して、
農林中金の資金70兆円を有効に使って、
米市場の業界再編に乗り出せばいい、と言う。
100社を2~3社に再編してしまえば
過当な価格競争はなくなって、安定して米を販売できる、
とのことだった。
そんな大物、というか化け物、今の中央会にいるの?
というか経済界全体を見渡してもいないんじゃない。
そういう意味で、中央会の株式会社かと
農林中金に信用事業を一本化させるってことなんだろうか。
でも国際的な米価とのギャップや
これからのグローバルな仕組みに変えようという
やり取りを見ていると、
そんなことしても価格維持は一時のことのように思える。

「農家の皆さんが、JAや中央会の方々と良く話し合ってもらうことが大事です」

それが米価を、
そして川下の利益を、
1円でも川上、つまり農家や農村に引き寄せる方策だという。
それは農業者として僕も賛成だ。
僕らの生産業界は、
とにかくびっくりするほど儲からない。
だからその分野を支える人も減っていく。

奥原さんは、だから、

兼業農家の方も居てもいいですが、基本的には認定農業者をどう守っていくか、どう支援していくかが産業政策として肝心です。

とお答えいただいた。
その研修会の場で、
役員と称される人たちの多くは専業農家で
もちろん認定農業者で、
そして最前列に座って奥原さんに質問をする立場にいる。
その後ろにずらっと座っている参加者には、
兼業農家も多い。
僕らは、農業政策を、
そして農協改革の政策を質していくという
農水省の方との対立軸をイメージして研修会を
進めていたつもりが、
なんだか会が進行すればするほど、
「専業農家 対 儲けられない農協」
「1円でも儲けを生み出した専業農家 対 それに乗っかれない兼業農家」
みたいな対立軸になっていっているような気がした。

この研修会が終わって兼業農家の方が、
こういっていたのが印象的だった。
「私らは、農水省の方がいうような経営や営農するほどの時間がないですよねぇ。販路や加工だなんて兼業だから時間ないし。田んぼだから兼業でできるからやっているだけで。」

これまでは、
地域の大切な構成員で組合員である
こういう方々がこれからも営農を継続していけるための
農協のシステムだった。
そのシステムに強化されて地域のつながりが
あった部分もかなりある。
それが今、揺らいでいる。
農水省の経済局長からは、
もっと効率よい営農とそれを支えるシステムを、
とみているのだろう。
僕らが主張していたようなことは、
たぶん総務省の管轄なのかもしれない。
それぞれの立場で縦割りに判断することは
ある意味でロジカルで効率的だろうが、
僕らはそうはいかない。
生産分野で食べていこうという僕らは、
グローバルな競争にさらされる危機感の中で、
1円でも利益を確保することが求められる。
その競争に勝つには、
地域のつながりや文化も縦割り的に判断を
下さないといけないのかもしれない。
むしろそうすることができた方が
ずいぶんと気が楽かもしれない。

でも、僕らの生活や文化は縦割りにはできない。
いつの時代もそうだが、
お上から降ってわいた縦割り政策を
僕らはいつも
それを自分たちの地域のカタチに
翻訳させながら(歪曲させながら)
自分たちも変化をしながら
受け止めていった。
もちろんそれらは、
すべてが自分たちに有利にできたというわけではなく
それによって無くしてしまったものもたくさんある。
翻訳失敗だって
僕らの生活の歴史の中にたくさん埋もれている。
今回のこうした変化は
僕らの農業や農村をどう変えようという力が働くのか
僕らはしっかりと見据えて、
自分たちが本当に守っていかないといけないものを
自覚しないといけないんだと思う。

奥原さん、とても面白い研修会、ありがとうございました。
農水省が、時代の変化に対応しながら、大きな変更を行う中でも、本当に大切な部分は変化させないという姿勢、共感しました。
なぜなら、それは僕らも一緒だからです。
あなた達から与えられる大きな変化も
僕らはなんとか大切な部分においては
骨抜きにできるよう頑張ります。






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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
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