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またこの日がやってきた。
インドネシア農業研修3年生
クスワントの成果発表の日。
毎年、福井農林高校で行われている
3年生の研究成果発表会にジョイントさせてもらって、
研修生が卒業研究で取り組んだ成果を
日本語でプレゼンしている。
今回は、ちょっとしたアクシデントがあった。
僕が1日間違えて覚えていたようで、
火曜日だと思っていた発表会は、
実は月曜日だった。
で、急きょ、昨日発表となった。

クスワントの発表は、
クローブ(丁子)のサプライチェーンについての研究だった。
クローブがどんな作物なのかは、
それぞれネットで検索してもらいたい。
彼は、地元でクローブを栽培していた。
そしてこれからもしていこうと考えている。
だが、そのクローブは、
仲買人が村までやってきて、
どんなクローブでもクローブでありさえすれば
すべて買い取ってしまう。
値段の交渉権はほとんど農家にはない。
彼には一つ疑問もあった。
クローブを香辛料として使っていることは
なんとなく知ってはいたが、
彼の地域ではそれを食する文化はなく、
タバコに混ぜるくらいの利用しか知らなかった。
だから、一体どこのだれがどんな風に
クローブを使用しているのか、それを知りたかった。
そこでクスワントは
最終消費地の一つと思われる日本で、
どう利用されているのか、と
いくらで売買されているのか、と問いを立てて
リサーチすることにした。

まずは、手当たり次第に
福井のカフェや外国料理店などを渡り歩いた。
そこでチャイやカレーなどに
クローブが使われていることを知った。
その仕入先も調べた。
業務向けの小売りでも情報を集めた。
そこで蕾がついているものが高品質だと
初めて知った。
クスワントは、
今までクローブを生産してきたのに、
そんな事実は、全く知らなかった。
その小売りも上野のスパイス業者から
購入していることを知った。
いろいろと見ていく内に、
クスワントが生産してから
日本の僕らがクローブ入りの料理を
食べるまでの間で、
少なくとも8回ほど売買が
繰り返されていることが解った。
クスワントが仲買人に販売する価格と
カフェが小売りからチャイの原料として仕入れる価格とで
10倍の違いがあることが解った。
サプライチェーンは長くなれば長くなるほど
価格がとてつもなく跳ね上がっていく事実を
クローブ農家の彼はつきとめた。

これまでもこういう議論を
研修プログラムの中で繰り返してきた。
その中で、こういったサプライチェーンを断ち切るには、
農家自身が移動力や
交渉力(クループ化を含む)を身に着けて
新しい市場販路開拓の必要性を議論してきた。
しかし、それらは論理的には理解できても、
事実として生の感覚では、なかなかわからなかった。
だから議論も現実味を持たず、
どこか空転していた。

だが、クスワントは、農家として
サプライチェーンを丁寧に見ていくことで、
全体像にはまだまだ近づけていないけど、
それでもその一端を掴み取った。
その想像図から彼は、3つの結論を得た。
一つ目は、品質を分け、良い物は高く売る工夫をすること。
栽培農家をグループ化して、仲買人ではなく、
市場へ直接販売するルートを探そうと考えている。
二つ目は、よくない品質(蕾のとれてしまったもの)のものを
粉加工して、いままでアクセスしていなかった市場
(たとえば香辛料の小売りやレストランなど)へ
販路開拓をしようと考えている。
三つ目は、日本で知ったクローブの料理や食べ方を活かして
ちょっとしたカフェを開こうと考えている。
大きな店舗ではなく、ちょっとした屋台風のカフェで、
インドネシアでは結構日常的なカフェ。
そこでクローブ農家が栽培したクローブをふんだんに使った
チャイなどを提供したいと思っている。

これまでクスワントは
クローブの全体像を知らされないまま
クローブ生産に携わってきた。
そこでは、品質で分けることもなく、クローブでありさえすれば
すべて同じ価格で買い取られていた。
そんな立場に置かれた農民の行為を発揮する機会は、
不可測に変動する市場価格に一喜一憂するかしかない。
合理的な生産を試みて
廉価で量をたくさん作ればいいのかもしれないが、
人口密度が高くなりすぎて農地を得にくい西ジャワでは
なかなかそちらの方に行為を発揮することは難し、
小さな農家個人で発揮できる行為でもない。
つまり、グローバルなサプライチェーンのなかで
彼らクローブ農家は、その情報から隔離された場所で
生産を繰り返してきたのである。
だから、それぞれの農家の創意工夫という能力は
発揮されず、というか、そういう機会を収奪されてきたのだ。

今回のクスワントの研究を
一緒に経験して思ったことは、
技術的な部分の改善以上に、
それぞれの農家の行為能力を発揮できるために
情報の変化もそれ以上に必要であることだった。
今回は3年という時間をかけて、
クスワントが市場やサプライチェーンなどを
自ら意識化することで、なかなかタフな研究を
やり遂げるモティベーションとなったのも
今回の大きな成果と言えるだろう。

多くの識者がグローバルサプライチェーンの弊害を指摘し、
多くの活動家がフェアトレードを実践しているが、
途上国の生産者が
日本までやってきて、そこのあるサプライチェーンを
丁寧にたどっていく事例はほとんど無いだろう。
ここから得た知見から
クスワントはまさに自ら行為能力の箍を外し、
考える農家として新しい行動を起こしていくのだろう。

彼のプレゼンは本当に素晴らしかった。
彼の未来に僕も期待したい。



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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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