11月は千客万来。
記録し忘れていた「風」があったので、
慌てて記録しよう。
その風はインドネシアは
スラウェシ島のマカッサルから吹いてきた。

彼女の本名は至極難しくて
覚えられたことはないのだが、
みんなは彼女を、イブ・アグネスと呼んでいる。
マカッサル大学で教鞭をとりながら、
NGOを自ら組織し、地域住民の福祉を考える、
まさに学問と実践の両立を体現している方。

ちょうど京都大学との共同研究で来日されており、
日本の農村見学(水利組合・土地改良)ということで
僕らの地域に来てくれたのだが、そのついでに、
僕らが行っているインドネシア農業研修プログラムについても
いろいろと議論を重ねることが出来た。

これまでのお客さんと違って、
インドネシア人としての意見は、
主体がインドネシア国内にあるので
その視点で僕らのプログラムがどうみえるのか
そこに関心があった。

彼女と研修生の議論で面白かったのは、
やはり資金の話。
日本で研修生をしていれば、
ちょっとした新車一台は買えるだけの貯金が出来る。
それが帰国後のビジネスの原資となるのだが、
それに群がる人々が多いので困るという
話があった。
それまで家族・友達付き合いのなかった人たちが
急になれなれしく近寄ってくるのだとか。
最初は、
「日本のお土産をお願いね」
くらいらしいのだが、
だんだんエスカレートしていき、
最後は、
「困っているので金を貸してほしい」
となるとか。
彼女もそういう経験が多くあったという。
でもそのほとんどが返済されなかったらしい。
研修生たちもそれが悩みの種のようで、
貸さなかったら貸さなかったで、
偉そうになった!などと陰口をたたかれる。

イブ・アグネスはそんな研修生に
他人へのお金を貸す条件を教えてくれた。
原則としては、直接お金を渡さないことらしい。
必要なことに対してその人に代わって
支払うという。

ますひとつは病気。
これは急を要する場合には
出来る限り協力するとのこと。

そして、教育。
教育のためであるならばその費用を負担する。
教育であればその人のためにもなるので。

そして必需品は物品で。
決してお金を渡さない。
米が必要ならば、米を買って渡すとのことだった。
嗜好品や贅沢品はこの中に入らない。

そういうルールを作ってからは、
周りの人もあまりお金を貸してほしいと
言ってこなくなったとか。
その代り未来を拓く教育のために
お金を借りに来る人はいるとのことだった。

研修生たちはその余裕も当座はないだろうから、
やはりお金を他人に貸すのは、
自分たちがもっと成功した後だろうと
話は盛り上がった。

さて、農家の所得向上でも議論したのだが、
やはり流通システムに問題があることで
意見が一致した。
農家側は販売に対してイニシアティブを
ほとんど持てない。
その理由は、ちょっと乱暴にまとめると
資金と輸送手段と販売ネットワークからの除外に
収斂されるだろう。

営農資金を商人から前借するケースが
現在も少なくなく、これによって販路は
その商人への販売にほぼ固定されてしまう。
この場合、買取もその商人の言い値になる。

輸送手段も大きな障害だろう。
個別に車両を持たないため、
多量に取れた場合の輸送手段がない。
そのため買い取り商人が車でやってきて、
庭先集荷をするのが通例だ。
庭先集荷の場合、価格交渉もその場で行われる。
決裂すれば、次に商人がいつやって来るかはわからないので、
大抵はその場での商人の言い値で
決着がつく。

これはあるのかどうかは
まだ僕自身が実際に確認はしていないが
研修生たちは口をそろえて、こう言う。
「買い取り商人に売らずに直接市場に持っていくと、その商人から連絡が市場にも入っていて、農産物を買ってくれる他の商人がいない」
とのことだった。
つまり、商人間の販売ネットワークが出来上がっていて、
そこに無理やり入って行こうとしてもできない、
と言うわけだ。
実際にそういうことがあるかどうかは
必ず確認しなければいけないが、
それ以上に、そういう認識が農家子弟の中で
広がっていることも注目すべきだろう。
つまりそういう意識があるため、
新しい販路開拓の意欲が削がれているからだ。
どうせそのネットワークには参加できない、
という社会通念があれば、
農家の行動は制約されることにもなる。
もちろん、実際にネットワークがあった場合は、
かなり由々しき問題であり、
自由に交渉して売買する行為は、
かなり限定されるだろう。

これらの答えに、
イブ・アグネスは良いモノを作り続けていけば、
きっと市場も認めてくれるだろうという答えだったが、
僕はそうは思えない。
実際に、ほんとうに良いモノだけが
高い評価を受けているわけではないのだ。
良いモノを生産するだけでは、
やはり高く評価してくれることへの
必要条件にはならないだろう。
だから僕の答えは、
研修生たちが、自分たちで移動手段を持った、
そして農家を取りまとめて必要資材を共同購入できるような
農家寄りの買い取り商人を兼ねる営農スタイルだ。
だから僕の研修では、
技術うんぬんよりも、プレゼン練習や
市場や社会構造をよみとく講座ばかりをやっている。
特定の農法が、農業を発展させることはないからだ。

その期待に反せず
一期生のヘンドラは、
帰国後集落の農家を取りまとめて
ABCケチャップ社とトウガラシの契約栽培に
奔走した。
結果は条件が合わなかったため、白紙状態だが、
そのプロセスのおかげで、
彼は20代にして集落の農家グループ長になった。
なかなかすぐには成功しないだろうが、
農家が自分で市場を見つける力と
交渉する力を得れば、
多様で活気ある農業が生まれると
僕は信じている。

あちらの視点に立った方(インドネシア人)と
研修生と一緒に議論をするのはとても楽しかった。
おかげで一方的な関係になってしまっている
僕と研修生の間で、伝えきれなかったことや
僕が聞き取れなかったことの多くを
相互に得ることのできた夜だった。

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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
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