今年の12月から地元JAの直売所の
値段ラベルが新しくなる。
今日は、その説明会があり参加した。

直売所の値段ラベルには、
生産者名と商品名と値段が記載されており、
それらはこれまで比較的自由に発行でき、
生産者がそれぞれの生産物に貼り付け、
直売所に商品を並べていた。

今回の大きな変更点は2点。
まず1点目は、生産者がいつでも勝手に
ラベルを作れなくなった、ということ。
こう書くと少し語弊があるかもしれないが、
生産者の立場としては、こう感じることが
多いだろう。
「勝手に」作れなくなったというのは、
生産者がラベルを発行するのに
ある条件が必要になったからだ。
それは栽培履歴書を事前に提出という条件。
栽培履歴書とは、野菜の品目&品種、播種日や圃場の広さ、
使用した農薬や肥料など栽培に関する情報が
書き込まれたモノを指す。

トレーサビリティが
うるさく言われたころ(2007年ごろだったか?)から、
直売所でも栽培履歴書の提出をするようにと
言われていたが、実際には年に数回程度提出すれば、
それで値段ラベルを作って直売所に出荷できた。

それが今回から、すべての野菜において、
毎回栽培履歴書の提出を事前に行わない限り、
値段ラベルの発行はできないように
なってしまった。

もう1点の大きな変化は、
消費者がその直売所内にある専用端末で
野菜についている値段ラベルを読み取ると、
専用モニターにその野菜の栽培履歴が映し出される
ようになった。
これまでは消費者がそんなに手軽に
栽培履歴を見ることはできなかった。
それは栽培履歴のデータベース化がされておらず、
栽培履歴自体も生産者側の管理下にあったためだ。
もちろん、消費者が見たい、と言えば、
提示する義務は生産者にあることは当然だが。

さて、この2つの変化は何を生み出すのか。
一つは、消費者が生産物の履歴を確認しながら
買い物が可能になったということだろう。
より多くの情報を自らで確かめながら
購入することが出来るようになったことだろう。
このことで消費者の購入するきっかけが
大きく変化することもあるだろう。
これまで何気なく買っていたモノや
生産者のイメージや商品の見た目で
安心を得て購入していたモノでも、
自分でその栽培履歴を確認しながら
購入するかどうかを判断できるようになったのだ。

もう一つは、そういった目にさらされているという
意識を生産者に植え付けるという変化。
商品の履歴は、どこかで誰かが見ているだろうという
まるでフーコーが指摘した
監視システムの内面化とでも言おうか、
直売所もよくもまぁ、現代にぴったりのシステムを
創り上げたものだ。
内面化された監視のもとで、
僕らは生産をし、
情報の食い違いやちょっとしたミスも
『偽装』と疑われないように
細心の注意を払う必要が出てきたということだ。
当然のことと言われればそれまでだが、
精神的な窮屈さと
アドミの煩雑さが増したことは確かだ。
しかもそれは値段に容易に転嫁できず
僕らの負担は増した形だろう。

さて、これらの変化なのだが、
果たして健全な生産と売買につながるのだろうか。
少し疑問に思う節もある。
まず、消費者が栽培履歴を
正確に理解できるかどうかだろう。
今回の説明会でも、
栽培履歴の書き方で重要視されたのは
使用農薬の欄だった。
栽培履歴の大半は、どういった農薬を使用しているかを
書き込む欄で埋められている。
つまり、情報開示は使用農薬だといっても過言じゃない。
その農薬情報を消費者は
正確に理解できるかどうかが気がかりだ。

うちの農園では、使用する農薬は厳選している。
害虫ではない他の虫がしなないように、
ピンポイントで効くような農薬を使用し、
食べる側にも散布する人にも安全なものを
出来る限り使用する努力をしている。
だから農薬登録されていても、
農園独自基準で使用できない農薬も多々ある。

農薬間で環境に対する影響度合いは
大きく違うのである
(人体の場合は農薬登録されているのであれば、
ほとんど問題ないように思われる)。
その違いをその履歴から
消費者は正しく読み解きながら、
購入することが出来るのだろうか?

「農薬=危険」という構図は今も健在だ。
農薬を一滴でも使えば危ない、
と思っている人が多い一方で、
天敵昆虫も農薬資材に登録されている事や
微生物を利用した農薬があることも
あまり知られていないようにも思う。
しかもそういった資材も
一般の消費者では商品名だけで他の農薬と
判別することは難しいだろう。

すこし農薬名を書いてみよう。

アディオン乳剤
アドマイヤー乳剤
バイオキーパー水和剤
コルト顆粒水和剤
ゼンターリ顆粒水和剤
エルサン乳剤
ガンバ水和剤
ハチハチ乳剤
ジュリボフロアブル
アフィパール

と、ある野菜に使用した農薬情報が
並んでいても、
どれが天敵昆虫の農薬で
どれが微生物農薬か皆さん解りますか?

しかも、環境配慮型の農薬は
そうでないものに比べて散布回数が増える傾向がある。
だから、
栽培履歴の農薬散布回数だけを見ると、
たぶん環境に配慮しながら
農薬を使用している農家の方が使用回数は多くなり、
履歴の見た消費者の感覚では、
そちらの方がなんだか「危ない野菜」に
見えてしまうようなミスリードも起きかねない。

もう一つの懸念は、すべての生産者が
果たしてそれを正確に記述することが
出来るのだろうかと言うこと。
いい加減に書いても、
それをチェックすることはないので
とりあえず形ばかり提出をすることもあり得る。

いい加減に書いて、使用農薬を記載しない方が、
真面目に書いている生産者より
栽培履歴上の情報では、なんだかより「安全」に
見えてしまうだろう。
そういったシステムへのただ乗りを
どうチェックするかは、
今回の説明会ではなかったし、
たぶん、そんな機会はないのかもしれない。
抜き打ちで農薬検査でもすれば
良いのだろうが、
それも実はシステム上の別の問題が
発生してしまうので、現実的ではない。
さらにこれは、その次の問題にもつながる。

今回説明を受けたシステムでは、
栽培履歴を提出して生産者が値段ラベルを
発行できるまでの間は、約2週間とのことだった。
職員がシステムに慣れてくれば、
1週間ほどのタイムラグで値段ラベルは
発行できるらしい。
しかし、圃場では毎日変化する。
農薬でも収穫前日まで使用できるものが
増えており、その場合、
直売所に出荷する前日に農薬を使用した場合、
たとえ出荷と同時に申請したとしても
1週間のタイムラグがあるため、
その情報は消費者がいくら端末機に野菜をかけようと、
それが表示されることはなく、
その日の売買は成立してしまう。
もちろん、その農薬で健康被害が出ることはなく、
ほとんど無視できるレベルのはずなのだが、
それとこれとは問題がまた別なのだ。
少なくとも消費者が農薬を確認して
買うことが出来るというシステムが目的だった
はずなのに、申請してシステムに反映されるまでの
タイムラグがあること自体、
その目的が達成できていないのだ。
システムへのただ乗りをする生産者のために
抜き打ち検査をすれば、
タイムラグ間で生じる情報の違いも出てくるので、
やはりそこが逃げ道にもなる。
つまり、このシステムでは、
農薬の使用履歴を適当に書いた方が
得になってしまいかねない。

専門家と一般人の専門知識の差の問題と
市民感覚を科学へ反映させることは、とても重要なので、
情報開示と倫理観の共有は重要かもしれない。
だが、
今回のシステムが
消費者と生産者のコミュニケーションの向上に
つながるとも思えないし、
タイムラグなどのシステム自体の問題もあり
ただ乗りを防げないだろう。
多額のお金をかけて値段ラベル発行機を導入するのなら、
その辺りにも、もっと配慮すべきだったように思うが、
たぶんこの辺りが現実的に限界なんだと思う。

結局は、これまで通りに消費者は
生産者に託した「安全」でモノを選ばないといけないだろうか。
ブラックボックス化した「安全」が
本当に安全か、それともただの神話かどうかを
3.11以降、僕らは自覚して考え始めているのだが、
その対話の場は少ない。

さて、12月から導入される値段ラベル発行機は
実際にどんな「対話の場」になるのだろうか。
これからも注目していきたい。



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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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