ダニエルさん


アメリカ人の来客あり。
名前はダニエルさん。
イギリス生まれでカナダ育ちで、
アメリカの大学で文化人類学を学んだ彼は、
奥さんの仕事で来日していた。
奥さんの仕事というのが、アメリカ大使館職員。
つまり外交官。
昨年、5月にもアメリカ大使館職員が
農園を見学に来たが、
そのご縁で、ダニエルさんが農園に五日間ほど
滞在した。

今回ダニエルさん来るからと言って、
何か特別なプログラムを用意することは無かった。
五日間居ても、観光に一切連れては行かなかった。
ただ毎日の僕らの農作業に参加してもらいながら、
夜にはビールとワインを飲みながら、
お互いの意見を交換する。
それが僕らの日常で、
ダニエルさんはそれをすごく楽しんでくれた。
彼との意見交換は、
僕にとってもいろんな出発点を
再確認する上で、とても重要だった。
外から吹いてくる風は、
やはり重要だ。

まず、ダニエルさんが気が付いたのは、
僕らの農業スタイル。
彼は、外交官の奥さんと一緒に
これまでいろんな国を旅している。
そしてここそこで見聞きした農業への
知識も豊富だった。
その彼から見て、僕らの農業スタイルは
ちょっと変わっていたらしい。
というか、彼の予想とは随分違っていたらしい。
それは、手作業がほとんどだったということ。
機械化が大いに進んでいると思っていたらしいが、
農園では、ほとんど機械を使用しない。
それは、多品目を輪作形式で作るため、
機械では収穫や植え付け・管理が出来ないからである。
機械化を進めるには、
どうしてもモノカルチャー(単一作物)である
必要がある。
だが、うちはそれを良しとはしない。

それに関連してだが、ダニエルさんは、
日本の農業は収穫と作物管理に多くの時間が
とられていると思っていたらしい。
収穫物とどっかのセンターに持っていき、
調整と選別、そして輸送を行うような
分業体制が確立していると思っていたようだ。
それは、ある意味正しい。
そうしている農家も多い。
余計な手間を省き、効率よく生産する。
それが僕らの命題の一つだったりもする。
ただ、うちの農園は、それに乗っかっていない。
なので、収穫や管理作業よりも
調整や選別、パッキングや輸送に
時間やコストをかけている。
さらに多品目を出荷しているので、
それぞれ作業内容が違い、
作業も複雑かつ煩雑である。
それは、一見不合理に見えるが、
ダニエルさんからはこんな意見を頂いた。
「農業は単調なルーティンワークだと思います。ここもそうだと思うのですが、なんだか少し違いますね。それぞれのスタッフが相談しながら、話をしながら、和気あいあいと作業に取り組んでいるし、常に同じ作業をするわけでもない。もっと人間性を感じるルーティンワークのような気がします」。
ダニエルさんは、学部の頃に
自動車工場の労働者社会を
参与観察した経験から、
労働の在り方については
鋭い視点を持っていた。
その彼から、
僕らの労働に単調さを感じつつも、
それが不合理とするのではなく、
人間性のある職場だと見えたようである。

TPPでも意見を交換した。
カナダ育ちでメキシコにも滞在経験を持つ彼は、
NAFTAがどう影響したのかを
簡単にではあったが教えてくれた。
カナダやメキシコでも作られていた商品が
自由貿易圏が出来上がると
アメリカ産に取って代わられた。
彼は、
「私たちは、ただ単に安い物が欲しいわけじゃない。少しばかり高くても、それでみんなが社会が幸せになる物が欲しいんです」
と話してくれた。
僕も同感だ。
自由貿易のロジックは、行き過ぎた
「もっと多く」「もっと効率よく」のロジック。
そこに平等という考えは、
ある意味捻じ曲げられて捉えられているように
僕には見える。

そして遺伝子組換え作物(GMO)についても
意見を交わした。
彼は、一般的に言われている
遺伝子組換えの危険性については何も
言及しなかったが、
その技術によって得られている利益に
偏りがある点と、
この技術もまた「もっと多く」「もっと効率よく」が
行き過ぎてしまったようにも見える点を
批判していた。

自由貿易も遺伝子組換えも
そしてそれに対抗して生まれてくる
日本での「強い農業」も、
単なる効率性重視の集落営農の考え方も、
すべてが異常なロジックに
支配されていることを
僕らは改めて確認した。

だからこそ僕らは、よりフェアな世界を望み、
日々活動を続けている。
インドネシア研修プログラムや
野菜のおまかせ便などの直販、
そして天敵を活かしたIPMの実践と
微生物相を豊かにする土づくりに
こだわる。

しかし
僕らの仕事は、
煩雑で、そして単調で、
その連続に埋没すると、
そこに意味を見出すことが難しくなる時もある。
事実、それに失望して、
ここを辞めていった若者もいた。
だが、僕らの実践は
(農業・インドネシア研修・地域づくり)
僕らを取り巻くさまざまなモノと
対決をしながら、僕らの価値を創りだしていたことに
外から吹いてきた風・ダニエルさんによって
改めて気付かされた。

辛い労働と
想いの相違が時々生じる研修で、
心折れそうな日もあるが、
そんな僕に、ダニエルさんは、
「Go ahead!(そのまま行け)」
と力強く励ましてくれた。

人類学の視点を持つ外からの風は、
僕らにさまざまな気付きを
与えてくれた。
もう少し、僕はこのまま進もうと思う。


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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

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