1年も僕と一緒に農業をすると、
インドネシア研修生たちは、
いろんなことを考え、吸収する。
1年生のイラ君がそうだ。
彼のこの1年もダルス君のように
振り返ってみるか。

彼は、来日当初から
「僕は帰国したらベビーリーフをやりたい」
と月間報告書で書いてきていた。
インドネシアでもそれに近いものが、
ちらほらと見受けられるようになっているようで、
もちろん、食べやすくて、調理が簡単で、
手軽に食卓を飾ることのできる食材は、
それを支える技術や価値があるところでは、
僕らが思っている以上に浸透するに違いない。

だが、それを支える「技術」と「価値」は、
彼らの生活の近くに存在するのかどうか、
僕もわからないまま、過ごしてきた。

この1年、月間報告書と自主学習を通して、
彼は地元の気候でも栽培できそうな
そして若どりしても美味しい野菜をピックアップした。
その多くはレタス類で、
サラダで食べておいしい野菜ばかり。
種も地元で手に入るものばかりで、
雨よけにするかどうかの検討もしてきた。
こういう栽培の勉強は、彼らは御手の物だ。

そして、たいてい次は、マーケティングになる。
どんな市場を狙うのか、どういうプロモーションが必要か、
といった、ビジネス本に書いてあるような方向に向かう。
イラ君もその例外ではなかった。
彼は、少し抽象的なマーケティングの勉強から始めていた。
いわゆる経営学などに解説されているような
マーケティングの勉強の成果が、
月間報告書の中で、ここ半年ほど続いていた。

それは悪い事じゃないが、
抽象的な議論、たとえばマーケティングのコンセプトとして
生産・場所・価格・プロモーションなどに分析する議論を
延々と繰り返しても、
逆に彼のリアリティから
どんどん離れていってしまうような気がしてきた。
そして、この1月に彼の故郷である
ランチャカロン村を訪れた時に、
その乖離を確信した。

彼は頭がいい。
だから、ちょっと難しい経営学の理論なんかも
上手に利用して、それに合った部分だけを
報告書で抽象的に書くことが出来る。
なんだかしっかり勉強しているようにも見えるが、
実はそこにはリアリティがない。
世の中の秀才たちが上手くいかない理由が
この辺りにあるんだろうな、とたまに思うのは余談。

他の座学もそれなりにこなし、
彼自身、自分のプランも冷静な目で
見られるようになってきたのが昨年末ごろ。
だから、もう少し販売のイメージを
報告してほしいと注文をつけていた。
そして先日の報告書で彼は、
「ベビーリーフを消費者に直接販売する直販をやりたい」
と書いてきた。
農業とグローバリゼーションという授業の
影響もあるのだろう。
伸びきったサプライチェーンについて、
イラ君もいろんなことを考えているようだ。
そして、それは上級生も同じだ。
彼らにとっても、生産と販売は大きな課題でもある。
すかさず彼らから突っ込みが入る。
「イラが生産をするのなら、誰が販売を担当するんだ?」
「直接販売するための輸送手段は?」
などなど。
イラ君は、まずはバイクを買って、
顧客も数件の小さな規模から始めたい、と言っていた。
小規模を僕は否定しない。
でも、最低生活していける、
最低生産を続けられる規模ってやつはある。
バイクは、銀行のローンも充実しており、
社会にも広まっている分、
とっつきやすい輸送手段なのだろうが、
残念なら運べる野菜の量は多くない。
彼の言う小規模が、
その地域に合うのかどうかは議論の余地ありだ。

次に、ターゲット(顧客)。
直接販売する相手は誰かだ。
イラ君は、簡単に、近くの町や村の人と答える。
だが、それは一体誰なんだ?
ベビーリーフは、萎びやすい。
当然、熱帯では冷蔵庫での保存は欠かせない。
残念なら、彼の村で、もしくは近くの町でもいいが、
一般の庶民が冷蔵庫を持っていることは少ない。
実はこれが上記の「技術」の一部分。
そして、「価値」。
近くの町の人は、毎日サラダを食べる習慣があるのだろうか。

なので、僕は来月までに、もう一つ注文を付けた。
君の故郷・ランチャカロン村のリアリティがもっと反映した
プラン作りをしてみてください、と。

もっと上手に議論が出来る人ならば、
ここまで来るのに1年もいらないのかもしれない。
彼らが、彼らの持っている常識(受けた教育)から少し逸脱し、
自分の地域のリアリティに近づくには、
僕の力ではどうしてもこれくらいは時間がかかってしまう。

さて、これでダルス君もイラ君も準備は整った。
2年目は、彼らの地域のリアリティの中で、
もっともっと突っ込んだ議論を繰り返していこうと思う。




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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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