「ギャルウリ」というウリがある。
なんとも夏向きな名前をしたウリだが、
実は、この辺りでは、「ギャル」は方言で
「カエル(蛙)」を意味する。
最近ではあまり聞かないが、
悪口に、「このギャルッペ」などと言うことがあるが、
それは「この蛙野郎」という意味。

さて、そのギャルウリ。
いわゆる、ガワズウリのこと。
縞模様が蛙のようだということで付いた名前。
ガワズウリは、一般の種苗店で簡単に手に入るが、
実はここ高屋集落にしかない品種のギャルウリが、
かつてはあった。
うちの祖父世代にたくさん作ったギャルウリは、
種を種苗会社から買うことなく、
自分たちで種取りを行っていた。
夏場は、あまり葉菜類がとれないのだが、
その代わりに、しこたまギャルウリを作っていたそうだ。
高屋にしかないギャルウリは、
普通のガワズウリと違って、
そして赤みがかった色の果肉で甘い。
さらに表面の模様も連続した縞模様ではなく、
点々とした縞模様。
ウリ肌もごつごつして見栄えも良くない。
調理は、漬物オンリー。
果肉が軟らかすぎて、しかも若干甘いので、
僕が子供の頃に、この漬物が机の上に山盛りになっていたが、
あまり美味しかった記憶はない。
しかし、祖父はこのウリの漬物が大好きで、
毎年、夏になると大量にこのウリを栽培していた。

そのウリ、種苗会社から肌のきれいで
実のしまりが良く、歯ごたえの良いカワズウリが発売されると、
徐々に人々はそちらを好んで作るようになった。
さらに黒ウリなど他にもっと漬物に向いているウリが
出回り出すと、皆、高屋にしかないギャルウリには、
目を向けることもなくなった。

僕は、その間に成人し、
ギャルウリという単語自体をどこかに忘れ去っていた。
それを作っていた祖父も、農業の一線から退き、
いつしか作らなくなり、
今では、要介護になり昔の記憶すら曖昧になってしまっている。
誰からも完全に忘れ去られてしまったウリだった。

それが、数年前にある業者から、
「高屋に昔からあるギャルウリってまだある?」と
聞かれたことが、僕に再びギャルウリを意識させた。
それが無ければ、たぶん、僕は死ぬまでそのウリを
忘れていただろう。
業者は、伝統野菜なので探している、と言っていた。
あの甘ったるい、いつも食卓の端に
皿に山盛りなっていた
美味しくない漬物ウリをか?
伝統がブームになり、最近ではご当地の伝統野菜が
あちこちの直売所をにぎやかにしている。
このブログでも、何度も書いたが、
過度なノスタルジーに乗っかった、
再生産し消費されるだけのため伝統種は
たとえそれが復活しても、
やはり美味しくないモノは、美味しくない。
いつかはまた、同じ理由で廃れるのだ。
吉川なすのように、
新しい文脈による新しい関係と
作り手が新しく伝統を築いていく場合においては、
また別の話だが。

だから、業者から言われた時は、
それほど僕は熱心ではなく、
とりあえず探すだけ探してみた。
高屋の集落でかつて作っていた人に尋ねたが、
誰もその種を持っていなかったし、
その評価もポジティブでもなかった。

そんな話をしていたら、
県職だった叔母が、
「農業試験場にならあるかもしれんざ」と言い、
問い合わせてくれた。
去年のことだった。
そして奇しくも、試験場では高屋からもらってきた種を保存しており、
その年が種の更新のために栽培をしていた年だった。
5年に1回の種の更新らしく、
沢山種ができたので、高屋集落ならその種を分けても良い、と
言ってもらえた。

種が来てからも、
僕の周りの人は、
「美味しくないざ」「売れんざ」と言っていた。
僕も高屋にしかない品種だったということと、
祖父がやけに好きだったという記憶だけで、
その勢いで種を貰い受けたが、
売ることなんてあまり考えていなかった。
このウリの風景を見てみたい。
たぶん、それが僕がこのウリを作ろうと思った理由なんだろう。

ウリは、どうしても古臭いイメージがあった。
だから、何十品目も作っていても、ウリなんて作らなかった。
なので、どう作ればいいのかも、あまり知らなかった。
父から、ひどく久しぶりに
野菜の栽培法を教えてもらったのも、なんだか新鮮だった。
「芽かきは怠るな」「孫づるでとるんや」などと
話が聴けると、ギャルウリとここらの人の風景が、
その話の肩越しに見えてくる。
「あの頃は、夏はウリしかなかったんや」と父と祖母。
水もあまり入らない土地と砂地が強い畑。
調理法も漬物が主流だった、父と祖母のいう「あの頃」。
だから、食卓にギャルウリが山盛りになっていたのか。
そして、子供の僕には、
その漬物が美味しくなった、という記憶。
ゆっくりゆっくり、ウリがつるを伸ばしていくように、
記憶と風景が読み解かれていく。

出来上がったギャルウリは、みんなが言うように「ぐでぐで」だった。
つるっとしておらず、ぼこぼこしたような様を言うらしいのだが、
みんなが言う「ぐでぐで」という方言も、
僕の中で、蘇った。

しかし、このウリは漬物で食べようとは、
僕は思わなかった。
そこは幼少の記憶が邪魔するのだろう。
それに、これはギャルウリとの新しい関係の取り組みなのだ。
今の文脈に合わせて、ギャルウリが復活しなければ、
やはり同じ理由で廃れていく。
風景は見えてきても、そこから先には派生しない。

そこで、妻と一緒に食べ方を考えてみる。
赤みで柔らかくてやや甘い。
まるで駄目なメロンみたいなこの味は、
デザートなら美味しいけど、調理としては甘すぎていまいちの
メロンの逆バージョンじゃないか、と妻が気付く。
そこで、ハムで挟んで食べることに。
メロンの生ハムまきはあるが、あれは甘すぎるので
いまいち好きになれないのだが、
ギャルウリならば、ちょうど良い甘さでおかずになった。

さらに冷たいスープにしてみる。
皮をむいて、ミキサーにかけるだけの単純スープ。
味付けはコンソメの粉と塩と、ミントを一緒にミキサーにかけてみた。
ギャルウリの口当たりの良い甘さと味と、
ミントの香りとの、なんとも言えないハーモニー。
これは絶品だった。

昔ながらのギャルウリとの付き合い方と
その風景を僕は見ながら、
このウリを今の文脈で新しい食べ方で復活させたい。
今は、その味とその全体像から、そう強く思う。
また新しい品目が一つ、僕らの農の営みに加わった瞬間だった。

関連記事
Comment
Trackback













管理者にだけ表示を許可する

Comment form

田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
taya.tアットマークnifty.com
です。
(アットマークを@に置き換えて送信ください)

プロフィール
10 ≪│2017/11│≫ 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
カレンダー(月別)
カテゴリ
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

メールフォーム

Page Top

Powered by FC2 Blog |

FC2Ad

| Template Design by スタンダード・デザインラボ