P1020359.jpg

インドネシアに行く。
今回の目的地は、スラウェシ島のゴア県。
スラウェシ島は、
インドネシアの地図で、
真ん中あたりにある「K」のような形をした島。
協力隊の時に居た島であり、
大学院時代に修士論文の調査をした島でもある。

さて、今回の旅行は、
ゴア県の水利組合を調査するのが目的だった。
妻が参加している研究会の調査で、
僕は妻の「鞄持ち」と言ったところだろうか。

ビリビリダムという円借款で整備し直した大きな灌漑がある。
JICA専門家のプロジェクトや
現地NGOや青年海外協力隊などが入り、
その灌漑の利用や建設に力を注いできた。
そしてその灌漑を村レベルで運営しているのが、水利組合。
だが、上手くいっている水利組合とそうじゃない組合とがあり、
まぁ、ざっくりといえば、
どうしてそんな差が出てくるのかを
予備調査に行ったというわけである。

その水利組合に関する調査は、
妻たちの研究に任せるとしよう。
さて、お気軽な身分の「鞄持ち」は、
6歳の幼子を子守しつつ、
妻たちの調査結果や
関係機関との打ち合わせをつまみ食いしながら、
村の中をぶらぶらと歩き回るのである。
これが一番、美味しい役どころ。

今回、ぶらぶらとした村は、
修士論文で調査した村から、
そう遠くない場所でもあったので、
調査結果のつまみ食いとぶらぶら歩きだけでも
それなりに村人の生計が見えてきた。

水田稲作が中心の村で、
灌漑のおかげで年に2回の米作が出来る。
しかも、その米作の間に、トウモロコシや野菜などの
短期の作物も1回作れるという。
水に困らない地域は、やはり比較的に裕福だ。
家も立派なレンガ造りが多い。
田んぼも見たが、
稲作の一部に深刻ないもち病が出ていたこと以外は、
特に問題もなく、
良く仕事された田んぼが広がっていた。

妻の調査結果をつまみ食いしていて
驚いたのは、皆、大きな農外収入を持っていたことだった。
そしてそれは、
特別な技術は必要なく、
特別な資産も必要なく、
学歴もいらない。
そんな就業機会がその村にあったのだ。
それは「レンガ」。
粘土を固めて、乾燥させ、
積み上げて、軽く焼くだけの、
粗いレンガ。
この村一帯の土が、そのレンガ造りに向いていた。

P1020379.jpg


農家の生計戦略の調査でも、
レンガ造りが大きなウエイトを占めており、
米は食っていくために必要として
高く認識されていたが、
レンガ造りのような収入としての期待は低かった。

調査した村では、
所有農地は、平均的に50aを切っており
(調査した農家では25a程度だった)、
たとえ灌漑で2、3回作付出来たとしても、
何か特別な差別化が出来なければ、
通常の作物では、ちょっと食っていけない面積なのに、
みんなレンガ造りのやや裕福な家に住んでいた理由は、
これで解けた。

修士論文の調査をしたのは2005年のこと。
その時も、確かに調査村で、今後期待が持てる産業として、
村の中のレンガ造りを調査した。
だが、その時は、数件の事業者が、
やや大きな規模で、専業でその仕事をしていた。
今回の調査した村は、その村とは違うが、
それでも各家庭レベルで小さな家内工業として、
レンガ造りに取り組んでいたのは、
僕にはとても特異に映った。

では、その粗雑なレンガの需要はあるのだろうか。
答えは、街にあった。
この村は、
マカッサルという地方の大都市から1時間と離れていない。
そしてそのマカッサルは、今、建設ラッシュ。
次から次へとショッピングモールやホテルが建ち、
東南アジア最大の遊園地まで出来ている。
車やバイクが喧しく行き交い、
昔馴染みだった店たちも、
すっかり新しく様変わりしていた。
隊員時代に、
良く行っていた簡素な郊外にあったプールは、
とっくに廃業になり、
周りは住宅やモールが立ち並び、
その跡地には、シェラトンホテルの建設計画があるらしい。
もう、別世界。
その好景気というか、建設ラッシュが、
村々の家内工業で作られたレンガを吸い上げているのである。

マカッサル建設現場


村の中に、無作為にできているため池は、
レンガのために土をとったからだという。
農村が、農業に必要な土を切り売りして生計を立てているなんて!
これじゃ、資源の食いつぶしで、再生産できない。
そんな危惧をしていたのだが、
NGOの職員は、
「最近は、村人は自分たちの土地の土を使わず、外から買ってくるみたい。レンガを燃やす木も外部から買ってくるようです」
と教えてくれた。
街を中心に建築資材の生産という形で
近辺の村で家内工業が発展し、
そしてさらにその外部では、資源を切り売りする構図というわけか。

一方、街のスーパーなどもぶらぶらと見学した。
相変わらず、そこにあったのは品質の悪い野菜たちだった。
市場ではいろんな野菜が手に入るようになったと、
マカッサルに住んでいる日本人から聞いたが、
品質はどうなんだろうか。
差別化可能な農作物の市場が、
急成長の街で生まれない限り、
その近辺の村は、農地やその資源を大切に扱わない。
村だけが、急成長から取り残されるのは、
まっぴらごめんだが、
消費され続けて、再生産できないのも、
農の営みのサイクルからは外れてしまう。

街のショッピングモールにあった野菜には、
堂々と「オーガニック」と記載されていたが、
黒ずんで見るに堪えないものばかりだった。
雑多に集まる既存の一般の市場では、差別化が難しい。
販売戦略と流通経路、そしてその価値が分かるような、
市場の仕組みが欲しいが、
今のところは、それは感じられなかった。
無ければ作ればいいのだが、
どこまで農家がマネジメントできるかというと
かなり難しいだろう。

帰りにマカッサルの大きな本屋に立ち寄った。
農業関連の本棚には、
「有機」「オーガニック」の文字をつけた表題の本が溢れていた。
機運はあるんだろう。
だが、家内工業に手を出す方が、
今はもっとも実現可能な「成功」なんだろうか。
街の成長は、どの方向にゆくのか解らないが、
近郊農業の行く末は、
その市場をこじ開けられるかどうかがカギになるのだろう。
そしてこれは、何もマカッサル近郊だけの話じゃない。
うちでやっている研修の卒業生たちと、
その市場をどうこじ開けていけるか、
農家主導でどこまでマネジメントができるか、
それが今後の課題だと思う。

喧噪の絶えないマカッサルの夜な夜な、
ビールを飲みながら、そんなことを考えていた。



関連記事

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
Comment
Trackback













管理者にだけ表示を許可する

Comment form

田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
taya.tアットマークnifty.com
です。
(アットマークを@に置き換えて送信ください)

プロフィール
10 ≪│2017/11│≫ 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
カレンダー(月別)
カテゴリ
月別アーカイブ
ブロとも申請フォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

メールフォーム

Page Top

Powered by FC2 Blog |

FC2Ad

| Template Design by スタンダード・デザインラボ