12月7日にあった有志の勉強会を
今更ながらに記録しよう。

この日の勉強会は、僕の発表の番。
読んだ本はこれ。
斎藤 潔 著 「アメリカ農業を読む」. 2009. 農林統計出版

TPPで日本を食い物にしようとしていると、
激しく喧伝されているアメリカのおひざ元の農業は、
一体どうなっているんだろう?
ざぞや、TPPでアメリカファーマー達は、
ウハウハになるに違いない。
そんな疑問から、本書を取り上げる。

本書の構成は2部で、
1部では、現代のアメリカの農業を統計データを使って解説している。
2部では、アメリカの過去の政策に遡って、
今の生産様式が生まれてきた背景を統計と政策史から読み解いている。

今回勉強会で取り上げたのは1部のみ。
全体を取り上げるとテーマが大きくなりすぎて、
勉強会の議論も良くわからないままになりがちなので。

さて、この本は、統計データで
アメリカ農業の一体何を見ようとしているのだろうか。
それは、戦後から80年代にかけて1/3に農家数を激減させながら、
大規模化一直線と小規模兼業の2極化を際立たせ、
規模が多いほど、政府による補助金にまみれ、
遺伝子組み換え作物の導入で農民としての創意工夫を失い、
余り続ける穀類を無理やり加工して、廉価で高カロリーの食べ物で
貧困層に肥満が蔓延するというアメリカを創り上げてきた、
というのが著者の主張の中心だろう。

補助金の統計(2005年のデータ)では、
農業所得が100,000ドル以上の大規模農場が、
全体の補助金受給農場の11%程度だが、
補助金のシェアは44%もあり、
平均で52,624ドルも貰っているのである。
補助金の受給額が150,000ドル以上の農場では、
補助金が農業所得の49.7%を占めているという。
何も考えず、ただただ耕作面積を増やせば、
それで儲かるという農業の図式がここでは浮き彫りになっている。

補助金が社会福祉なのか、
それとも産業活性へのカンフル剤なのか、
いろいろと政治学の中では議論があるんだろうけど、
この統計で浮き彫りになっている生産様式には、
そのどちらも当てはまらない。
ただ単に補助金が既得権益化し、
作りすぎているにもかかわらず、
(それによって肥満による重大な疾患者を大量に再生産しながら)、
さらに作り続けることで、
その疾患で苦しむ人々を含む国民の税金から利益を得られるという、
ねずみ講やマルチ商法もびっくりな構造がそこにはある。
良く破綻しないもんだ。

ただオルタナティブが無いわけでもない。
それがオーガニック農業の台頭だろう。
日本の提携に学んだCSA(Community Supported Agriculture)も
近年盛んになっている。
作りすぎから生まれた、低投入農業をその原型としつつも、
独自にIPMを発展させ、
その中で産声を上げたアメリカのオーガニック農業。
著者は半官制の匂いが残るとやや批判的ではあるが、
上記のような作りすぎの構造から
持続可能な農業構造へのシフトは必要だろう。
日本のように、瑣末な「有機」への定義や方法論、
また正統性の主張合戦にならなければ、
この地平には、まだまだ可能性を感じる。

本書は、
肥満への考察も鋭い。
肥満の指標とされているBMIの値が30以上の人の比率は、
1960年代で全人口の13.3%だったのだが
1994年頃から急激に上昇し、
2002年で31.1%まで上昇している。
またその予備軍としてBMI値が25以上は、
2002年で全人口の65.2%という驚異的な数値。
人口の7割近い人が、肥満かその予備軍というわけだ。
子供の肥満も1994年ごろから急上昇しており、
2004年の肥満率は1980年に比べて3倍以上となっている。

では、何を食べて太ったのか。
1960年から2000年の食品群の1人当たりの供給量をみると、
ダントツに増えているのが、穀類と脂肪・オイル、そして野菜である。
意外に肉はそれほど増えてはいない。
中でも急増しているのが穀類で、4割近くアップしている。
トウモロコシのカスから作られる甘味料や
コーンスターチなどで作り上げられる廉価な食べ物を
大量に食べることで、アメリカ人は人類史に類を見ないほど
太っていっている。
太りすぎをストップさせるために2006年に連邦政府は、
全米の小中高において、加糖飲料および牛乳の販売を禁止したらしい。
コカコーラやペプシなどの大手飲料メーカーは、
カロリーオフのダイエット飲料に移行しているため、
この決定には全面的に賛成だったとか。
こうして、良質の牛乳は子供たちから遠ざけられ、
飲料メーカーの穀類甘味料で太った子供たちは、
そのメーカーのダイエット飲料を
必要以上に摂取する構造のなかであがくことになってしまった。
なんと素晴らしい世界!

作りすぎを助長する補助金と、
栽培管理が遺伝子組み換え作物でさらに簡便化され、
作りすぎるほど儲かる図式を抱えながら
(それは、立ち止まることも考えることも許されない)、
余りすぎる食べ物を砕いて絞って加工して、
廉価な食品に換え、
もうおなか一杯にもかかわらず、
さらにそれをねじ込もうという販売戦略。
著者の肩越しから見えるアメリカの農業は、
暴走列車のごとく、悲鳴ともとれる享楽の笑いを上げながら、
真っ黒な闇に向かって突き進んでいるようにも見える。

これが、TPPを推し進めようという国の農業なのだ。
その暴走列車が、まもなく日本にもやってくる。
バスに乗り遅れないように、と言っている政府関係者のいう「バス」は、
この暴走列車のことなのだろうか。

実は、もう日本もこの列車に乗っているのかもしれない。
作っても儲からない大麦を補助でなんとか黒字にし、
米は砕いて粉にして使い、
飼料として家畜にまで食わす。
戸別補償は、まだ減反の箍が外れていないが、
作っただけでもらえる補助であることは間違いない。
必要なものを必要なだけ作るんじゃなく、
効率と大規模化を刺激する政策にもなりうる。
まるで、アメリカの農業そのものじゃないか。

この列車には、勝者なんて乗っていない、と僕は思う。
乗っているのは、行き先もわからず、悲鳴をあげている人々だけだ。

ほら、列車の汽笛が聞こえてきましたよ。
貴方は、その列車に乗るための心の準備はもう出来ていますか?



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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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