ジェームズ・ワトソン編 前川啓治・竹内惠行・岡部曜子 訳『マクドナルドはグローバルか』:東アジアのファーストフード.2003年.新曜社.

生産様式からグローバリゼーションを考えてきたが、どうもいまいちピンとこない。さらに、この前読んだ原田津の『農の原理 食の原理』で、食と農の原理は対立しないという言葉もしっくり来ていない。悶々とする中、以前読んだ本書を再び手にする。それらの解決の糸口になるかもしれないと考えながら。

本書は、北京・香港・台北・ソウル・日本で展開されているマクドナルドの現象を人類学の視点から考察したもの。マクドナルドについて考察した本で、ジョージリッツァの『マクドナルド化する社会』では、生産様式がマクドナルド化していき、労働において脱人間化が進むことに警鐘をならしていた。その意味で平準化していく労働の価値についてリッツァはマクドナルリゼーションと名づけた。しかし本書では、労働のマクドナルド化についてはある程度認めるものの、それ自体をグローバル化とするには疑問を投げかけている。

本書は、マクドナルドそのものを研究対象にすることが目的ではない。マクドナルドを通して、外来の文化や価値観が如何にしてそれぞれの地域で受け入れられていくのか、に主眼が置かれている。そのためマクドナルドをただ単純にグローバル化とは見ず、それぞれの地域でマクドナルドがローカリゼーション(現地化)していくプロセスに焦点を当てている。未知との出会いによって新しい価値を得ていく一方で、その価値にその現地なりの意味づけをしていき、その未知なるものを現地化していくことで現地の文化に変化を生み出している。マクドナルドは現地文化を変化させつつも、マクドナルドの意味が現地化していく中で、それぞれの地域のマクドナルドも標準的な事業のやり方を修正させている。本書の訳者でもある前川氏のいう『文化接合』の格好な事例ともいえるだろう。

本書がこれまでのマクドナルド関連研究本と決定的に違う点は、生産や経営に焦点をあてるのではなく、ファーストフードシステムのもう一方の次元である『消費』に焦点をあてていることである。文化が我々の食事の規則を如何に形成し、如何に強制していくか、そして我々が文化をどの程度変えていくのかを考えさせられる。我々は時には頑迷に伝統的味に固執するが、時にはいとも簡単にそれらを放棄してしまうことがある。味覚(テイスト)という言葉が持つ価値とは一体何なのか。
本書では全体を通して、マクドナルドの客が食べ物以上のものを買っていくことを指摘している。マクドナルドと言う組織はあらゆる面で西洋的で、設備・加工・サービスにおいて、客に対してほかとは違った気配りをしている点で近代的である。組織としては近代性を商品の一部として売ってはいないものの、客は近代性を組織が供給する商品の一部としてみなしていることがわかる。さらにそれらの近代性も、現地化されつつも変化にさらされている価値のなかで捉えられたものでしかない。

本書を読んでの感想として。価値に普遍性は無い。それは解る。しかし同時に、ジョゼの『地球は売り物じゃない!』:ジャンクフードと闘う農民たち、に書かれていることも共感してしまう。何か得体の知れない未知なるものが、自分たちの価値を変えてしまおうとしている事に対する恐怖感は、前川氏のいう『文化接合』といった言葉では表現できるのだろうか。変化のプロセスに目を向ける本書には、僕は諸手をあげて賛成する。しかしその変化の中で、何か価値が平準化していくような恐怖感は常に付きまとう。それはただ単に変化を受け入れられない保守的な考えからくるものなのだろうか。それとも現地化する価値と同時に、何か平準化・標準化していく価値があるのではないだろうかと過敏に反応しているだろうか。よく解らない。

文化変容について考えたい人や前川氏の著書に共感を覚えた人は必読。また食育とは何かについて考えるにも適しているだろう。本書を読んで、食と農の原理は、やはり常に一致するものではない、ということが解った。
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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

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