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2年生のフィルマン。
月間レポート作成では、やや迷いが多い。
若干21歳なのだから
迷いがないなんてないだろうけどね。

鶏卵事業を4月のレポートくらいまでは検討をしていた。
その前の3月のレポートの時、1年間で事業資金は
いくら貯めたかを検討した時だった。
事業資金として30万円を貯めたと報告があったが
そのほかに残高が50万ほどあった。
それについてフィルマンは
「お父さんが使えるお金です」というのである。
お父さんは大工で
仕事によっては前金を十分もらえないこともあるらしく
このお金を使って仕事を進められるようにとのことだった。
ほかに家族の買い物もこのお金を使うような
そんなニュアンスで話をしていた。
別途家族には1万円の送金をしているのに、である。
こういう時、僕はいつも躊躇する。迷う。
彼ら家族のことなので
踏み込む必要もないし
それをどうこう言える立場でも契約でも関係でもないからだ。
むしろ、そこを踏み込むことで
僕らの関係がこじれることも、これまでは多々あった。
ただ、やはりこのままには出来ない。
実習で得た資金は
フィルマンのものであり
家族だからといってそれは自由にならないのだという
メッセージをフィルマンがしっかりと家族に知らせるべきだと思う。
だから僕は、家族が自由になるお金というその残金の存在を
痛烈に批判した。
それは事業資金であるべきだと。

その辺りから
すこし父親(母の再婚相手)との関係が崩れた。
家族が住んでいるスカブミに戻らなくてもいいか?と
言うようになっていった。
彼は、小学校をタシクマラヤの田舎で育ち、
母が再婚するとスカブミで中学を過ごし、
そして高校はその家族と別れて
叔母の務めるタンジュンサリ農業高校に進学し
タンジュンサリで高校時代を送った。
高校を出ると日本という
各地を転々として過ごしてきている。
彼の根っこはどこなのか、彼もそれが分からず
惑い迷い不安になっている観もある。
母の再婚相手はすごくいい人らしく
フィルマンのビジネスを一緒にしたいと話しているが
どうもイニシアティブが彼が握っているような話しぶりで
僕はずいぶんと苦慮してきた。
それがフィルマンのためになるのなら
それでいいのだが、フィルマンの気持ちが読みにくい。
彼の笑顔はいつも素敵だが
どこか不安定な幻のような自我しか見せない。
怒らないし、あきらめたような笑いが
いつも胸を締め付ける。

君がやりたいことが一番だとは簡単に言えるけど
何が一番やりたいことなのか
それすらもこれまで問うたことのない21歳は
その問いにただただ困ったように笑うだけなのだ。
スカブミには戻らないといったとき、
お父さんとは喧嘩はしていないと言っていたが
仕事は一緒にしないとハッキリと言った。
何かあったんだろう。
そしてあれほど鶏卵をすると言っていたのを
お父さんが無理だと言ってるので、やらないと言い出したのも
このあたりから。
僕にしてみれば鶏卵はお父さんのアイディアだったので
直接僕はお父さんを強く批判したい気持ちだった。
じゃぁ、他に何をするの?と聞くと
タンジュンサリで土地を買って野菜を作る、と言う。
高速道路建設や新幹線開発、新空港整備や国道の拡張に沸く
西ジャワはもうバブルな感じで
土地の値段も天井知らずに上がっている。
タンジュンサリの土地の値段は
僕がかかわり始めたころの3~5倍ちかく跳ね上がり
とても実習で得たお金だけで
生活していけるような農地を購入することは不可能だ。
だから、
縁もゆかりもない土地を好条件で購入できるという
破格の幸運を手にしたとしても
タンジュンサリで彼一人が農業でやっていくことは
絵空事以上に無茶としか言えない。
なので
農業構造論でも言っているように
家族はなにも父母のような直系とは限らず
叔父叔母いとこまで広げて
一緒にビジネスできる、もしくは成功している人がいれば
その人に教えを乞うて、基礎を学ぶように考えてはと
アドバイスもしていた。
そんなに都合よくもいかないだろうけどね。

ただこれがいた。
母の弟である叔父さんが
タシクマラヤで淡水魚の養殖をやって
そこそこ儲けているらしい。
ということで、フィルマンは次のビジネスづくりに
この叔父さんにインタビューすることから始めた。
そこまでが今月のレポート。
インタビュー内容がすこし紹介されたが
全然深掘り出来ておらず、
叔父さんの淡水魚養殖の経営は分析したというレベルには
到底至っていない。
保有する池を取得するのにかかる資金や
年間のキャッシュフローで難しい時期、
市場の需要期、
病気や個体でのばらつきが出ないようにするための技術の点、
そんなすべてにおいて
インタビューが足りない。
そしてこれが肝心だが
どこでその業種をやるのか。
タシクマラヤで成功しているやり方は
僕が口を酸っぱくして教えている
農業構造論的に
他への移植は当然条件がそろわないから
そのままでは難しいはずだ。
地域へ接合させていく作業をするには
それぞれの要素で何があるから
今のタシクマラヤの養殖が存在するのかを
しっかりと見極めないと
それとの他地域との接合は
夢物語に終わる。

いずれにせよ
彼はこの3か月いろいろと悩み迷いながらも
次の答えの発端を見つけたようだ。
これを大事にして、一緒に紐解いていきたい。




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田谷 徹

Author:田谷 徹
農民です。

青年海外協力隊として3年(農業指導)、大学院生(ボゴール農科大:農村社会学専攻)として2年、計5年インドネシアにいました。

あれこれ寄り道・みちくさしましたが、再び農民にもどりました。これからは日本でぼちぼちやる予定です。

生産と生活が渾然一体となった農の営みを実践する毎日を送っています。

俳句もしております。「雪解」「街」「いつき組」に所属しております。

詳しいプロフィールは、カテゴリの「プロフィール」から「ちょっと長いプロフィール」をお読みください。

メールは
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